マルモッタン・モネ美術館で見た《印象、日の出》とタイトルを巡って起きた一論争
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
昨秋パリに行った際、マルモッタン・モネ美術館を訪れました。
パリで印象主義の絵画がたくさん見られる美術館といえば、オルセー美術館やオランジュリー美術館がまず思い浮かぶかもしれません。しかしここには、美術界だけでなく音楽界でも一つの大きな潮流となった印象主義の先駆けとされる、モネの《印象、日の出》が所蔵されています。
モネはたびたび故郷のル・アーヴルの港を描いていて、これもその一つ。モネ自身は、“この絵のタイトルに「ル・アーヴルの眺め」とつけることはできなかった。そこで「印象」にしておいてくれといったのだ“と言い残しているそうです。
そのタイトルから派生し、もともと批判的なスタンスから「印象主義」「印象派」という言葉が生まれたというのは、しばしば取り上げられるお話(ここでの説明は割愛します)。
《印象、日の出》を見ると、まずその光の描写や色彩に心を奪われますが、描かれているものの意味……蒸気船やクレーンと漁師の小舟が共にあることも、注目ポイントだとか。時代背景や人間の営みへのモネの想いが感じられます。
美術収集家の邸宅が美術館に
マルモッタン・モネ美術館は、パリ16区、ブローニュの森の近くにあります。建物はもともと美術収集家のポール・マルモッタンの邸宅なのでこぢんまりした雰囲気。マルモッタン自身のコレクションは、新古典主義の絵画や調度品が中心でしたが、その後各所からの寄贈によりモネの作品が増えていったそうです。
《印象、日の出》のあるフロアでは、この絵画が描かれて150周年を記念して、太陽をテーマにした展示が行なわれていました(2023年1月29日まで)。さまざまなスタイルで描かれた多様な表情の太陽が並び、エネルギーが満ちていました。
地下のフロアには、モネ若き日の作品、そして生前に公開されなかったさまざまな《睡蓮》の展示がたっぷり。
さらに別のフロアに、オーギュスト・ルノワールやベルト・モリゾの絵画、貴重な調度品、そして騎士道精神を象徴するアイテムの一つなのでしょう、作曲家のジュール・マスネをはじめとするさまざまな人物の剣なども展示されていました。フランスの収集家のコレクション!という感じ。
常に混んでいる有名美術館と違い、人が少ない時間帯もあるので、ゆっくり作品を鑑賞できました。
モネ《印象、日の出》の“実は日の入り説”⁉
ところで話は戻って、モネの《印象、日の出》。
ふと、これが日の出であって日没でないのは、ご本人のタイトルのみに基づくのか?それとも色などから判別されたものなのか?という素朴な疑問が湧きまして、ちょっと調べてみたところ、まさにそれで過去に一論争起きていたことを知りました。
ある年の競売カタログに「日の入り」という表記があったことをきっかけに、“実は日の入り説”が浮上したのだそうです。
しかし2014年、マルモッタン美術館とアメリカの天文学者が、ル・アーヴルの日の出や日の入りの時間、方角などを調査し、やはりこれは日の出を描いたものであることが判明。潮位や天候にもとづき、モデルとした風景の日付と時間まで推定して割り出したそうです。
自分が思いつく疑問は、だいたいすでに誰かが掘って解明してくれているものであります。
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