オーケストラの名手が語る“鬼難しい”作品選手権~フルートとトランペットの難曲とは?
NHK交響楽団首席フルート奏者の神田寛明さんと東京都交響楽団首席トランペット奏者の高橋敦さんが、実演とともにオーケストラ曲のさまざまな鬼難しい箇所を紹介した、ライブ配信のハイライトをお届けします! 熟練オーケストラ奏者が語る鬼退治の方法も必見。
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
2月の特集は「鬼」。ONTOMOのYouTubeチャンネルで、去る2月8日、NHK交響楽団首席フルート奏者の神田寛明さん、東京都交響楽団の首席トランペット奏者の高橋敦さんによる熱い対談「フルートvs トランペット 鬼難しい曲はどれだ!? 対決」がライブ配信されました!
日頃、見事な演奏を聴かせてくれるプロ奏者に、はたして「鬼難しい」曲なんてあるの? 番組を収録するその前に、お二人に次のようなトピックでアンケートをとってみました。各「鬼」ポイントで、難しい曲はあるのでしょうか。
たくさんあった……(汗)。
高橋さんは曲数が少ないかな? と思ったら、「多すぎて挙げきれず、どんな作品も鬼ばかり」とのこと!
番組では、お二人が神業の技術をこっそり(!?)教えてくれたり、実際の演奏で鬼退治の方法を教えてくれて、盛り上がること65分。ぜひお二人のトークと実演をアーカイブ配信でご覧ください!
ここではそのごく一部をご紹介します。
ブレスが鬼~ドビュッシーの名曲と40小節伸ばし続ける無茶ぶり
神田 《牧神の午後への前奏曲》の冒頭フルートソロは、3小節ブレスなし。レッスンでのお悩み相談も多い曲です。大抵は大きく遅く吹きすぎているんです。テンポやリズムを考えれば、鬼は退散するでしょう!(実演付き)
高橋 バルトークの歌劇《青ひげ公の城》では、オペラの中間にトランペット3本で、ミソ♯シのハーモニーを吹くところがありますが、これは40小節休みなし! はっきり言ってムリですね。実際には、3人でブレスの位置をずらして、交代で入れています。全体的にはつながって聴こえるように演奏します。地元ハンガリーでは、4番トランペットも加わった分業をしている、有名な難所。
指さばき・タンギングが鬼~両楽器とも挙げたラヴェル《道化師の朝の歌》を裏技解決!
神田 ラヴェルの《道化師の朝の歌》は、最速・限界のタンギング。ファーストとセカンドが交互に出るので、2人のニュアンスやスピードも合わせなければいけない。そこも鬼ムズ! デュトワの指揮は速い。
高橋 トランペットもフルートとまったく同様に、1番と2番でやっています。舌がそんなに速く動きませんね。フルートの影に隠れたい(笑)。
神田 ここはトリプルタンギング。トゥクトゥ・トゥクトゥ・トゥクトゥ・……トゥが2回続く。そこが不自然にならないように、実はそれに代わるテクニックもありますね。
高橋 ダブルタンギングならタカタカタカタカ……なので、比較的舌が回りやすい。9連符だから、最後に1つ「タ」を付ければいい。こちらのほうが易しい。最後はディミュニエンドしたり。
ややこしい音型~異名同音の鬼や跳躍の鬼が登場
神田 ショスターコヴィチはどの曲もややこしいし、急速な音型が出てくる。とくに「交響曲第15番」は、臨時記号の書き方がとっても見にくい! レの♭じゃなくてドの♯にしてくれたら、とても読みやすくなるのに、というようなこと。
ナイショですが、私は自分で、異名同音による読みやすい楽譜に全部書き直したこともある。それでも鬼のほうが強かった(笑)。
高橋 リヒャルト・シュトラウスの交響詩《ドン・キホーテ》のトランペットは、in Dと指定されてるのに、フラットがいっぱい。嫌がらせみたいです(苦笑)。移調楽譜だとパッとみて何の音かわからないときもあるので、in Cに書き直す人もいますね。出版社によっては、読み替え譜がついている場合もあるけど、みんな負けず嫌いで、もとの楽譜で吹く人が多い。
神田 レスピーギの交響詩《ローマの松》は、レガートで下行跳躍するところがとても難しい。しかも高音域で急速。ナイショですが、ここも2番奏者と分けて吹くんです。オーケストラはチームワークですから。作曲家が書いた音はなるべく再現しなければいけないので。
高橋 トランペットでも相互補完はありますね。ムソルグスキー作曲/ラヴェル編曲の《展覧会の絵》の「小人」にはややこしい音型があって、跳躍音程の幅が変わるので、ここは非常に難しい。当時、作曲家が本当に今のようなテンポをイメージして書いたかどうかは怪しいですね。オーケストラの演奏技術がどんどんあがって、当時よりもテンポがアップしてきたのかもしれない。
音楽的表現が鬼難しい~フルートの名曲とマーラーの特殊な吹き方にひそむ鬼
神田 名曲ですが、ビゼーの《アルルの女》の「メヌエット」は、単純な繰り返しで、大きな変化が起こらないだけに、とても難しい。ピアノやハープと演奏する場合はブレスも取りにくいですね。オーケストラではオーボエと一緒なので、オーボエが吹いているあいだにブレスができるのですが。
高橋 マーラーの交響曲第2番《復活》の第3楽章は、中間部でトランペットセクションがとても美しいシーンを演奏するんですが、ここは1つ1つの音にクレッシェンドとデクレッシェンドが書かれている。でも、音を「後押し」するような吹き方はやっちゃいけません、と最初に学校で習うものなんです。管楽器は音をまっすぐに出しなさい、うわ〜うわ〜っとやったらいけない。だから身体に染みついてないことをマーラーが要求してくる。なかなかしっくりこないので大変です。
アンサンブルが鬼難しい~ソリストとの関係が鬼難しい協奏曲たち
神田 協奏曲は難しいですね。どんな楽器のソリストでも、管楽器セクションは後ろにいるので、われわれはよく聴こえないんです。聴こえても時差がある。手元も見えない。ドヴォルザークの「チェロ協奏曲」の場合は、ソリストがテンポを伸び縮みさせながら、たっぷりと歌うように演奏するので、指揮を見ていても難しい。チェリストとフルートのあいだにいる奏者たちの体が透明になって、ボウイングが見えたら……といつも思います。
高橋 ピアノ協奏曲でも大屋根が客席のほうを向いていますから、聴こえないことはしょっちゅうですね。ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」の第1楽章は、トランペット2本がppでラの音をずっと刻んでいて、独奏ヴァイオリンが消えてゆく……というシーンがあるのですが、ただでさえ独奏が聴こえないのに……こちらも限界まで弱音にしていくのが難しいです。ソリストの体の動きを見ながら、なんとかアンサンブルをします。
そもそも音を出すのも鬼難しい無理難題系~高音域での跳躍をとにかく小さく!
神田 ブラームスの「交響曲第2番」の4楽章冒頭は、遠くからやってくるような音楽。トランペットが最初に出ますね。
高橋 はい。3楽章はトランペット休みなんです。でも、4楽章の冒頭でいきなり繊細な弱音で吹くので、けっこうイヤなんです。
神田 でもそこで、トランペットが素晴らしく美しい音色で出てくると、それに続くフルートは、非常にプレッシャーがかかる。高い音域で、下行の跳躍、そしてとにかく小さく。これはとても難しい。
代々伝わる伝統的難所~先人による楽譜の書き込みがヒントに
高橋 オーケストラのパート譜に、スラーの隙間で途中でブレスをすべき箇所に書き込みがあったりして、アイデアをもらったりします。
ブルックナーの作品などによくあるのですが、壮大な強音を要する曲でアシスタントをつけることがあります。楽譜にはアシスタントが演奏する箇所にカッコが書れていたりする。フォルティシモに続けてすぐソロがあったりすると、唇のコンディションを整えることができないので、大きな音はアシスタントに任せて自分はソロに集中、ということもします。
お二人の穏やかな語り口のなかには、ユーモアもたっぷり。突然の実演が飛び出す様子など、ぜひ全編は動画でお楽しみください!
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