読みもの
2022.02.16
『オンカク』著者の税理士が指南!

初めて確定申告をやってみた。 音楽の仕事をするフリーランスが知っておきたい基本のキ

今年度も確定申告書の提出期間が始まりました(2月16日~3月15日)。みなさんはもう提出の準備はお済みでしょうか。
「毎年イマイチよくわからないまま確定申告している」「そもそも確定申告って、しなくちゃいけないの?」というフリーランスの音楽家や指導者の方は、特にご一読を。
ここでは、確定申告初心者の音楽之友社書籍課スタッフのKが、コロナ禍で持続化給付金についてのYouTube動画の配信や申請相談に原則無料で対応したことが話題になった税理士・栗原邦夫さん(現役音大聴講生!)に指南していただき、今さら聞けない素朴な疑問も解決していただきました!

確定申告に挑戦した人
音楽之友社出版局書籍部
確定申告に挑戦した人
音楽之友社出版局書籍部

出版局書籍部では、クラシック音楽を中心にプロの音楽家・指導者・研究者向けから演奏や鑑賞の初心者向けまで、音楽に関するあらゆる本の編集を行っています! 半世紀以上におよ...

写真:編集部

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初めての確定申告! そこで感じた疑問とは

冒頭の写真からも、そのキャラが気になる税理士の栗原邦夫さん(以下、くりさん)。実は、著書『オンカク』を小社から出版しています。

事の始まりは、東京音楽大学の社会人講座に通っていたときに、学生や卒業生から税金などの相談をもちかけられるようになったこと。それがきっかけで、音大生・音楽家のための確定申告講座「オンカク」を開催するようになり、2019年に『オンカク』(音楽之友社)を出版。以降、2020年、2021年と改訂を重ね、好評を博しています。

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栗原邦夫(くりはら・くにお)
税理士法人クリアー代表、元オスカープロモーション所属、東京音楽大学にてガムランと指揮科の聴講生。税理士として開業、異例の成長を遂げる。その手法を、全国規模の講演・セミナーにて伝授するかたわら、東京音大にてジャワガムランを受講。そこで相談を受けた音大生たちとともに、音大生・音楽家向け確定申告講座「オンカク®」を立ち上げる。オスカープロモーションにも認められた、面白くてわかりやすいプレゼンテーションは、音大生や音楽家たちに好評を博す。2020年のコロナウイルス禍には、音楽家向けに、各種給付金や補助金の情報発信と相談窓口を開設。LINE@相談のやり取りは20万チャットを超え、支給された給付金などは1000件を超える。

そんなタイミングで入社してきたのが、フリーランスでライター業を行いながら働く書籍課スタッフのKです。転職を経験し、確定申告が必要になったということで、『オンカク』を頼りに、人生初の確定申告にトライ。なんでも、音大時代の友人から「これ1冊で確定申告した!」と自慢されたらしい……。

著者のくりさんにインタビューをオファーしたところ、なんと自分の書類もチェックしてもらうことに。ラッキー(笑)。「確定申告って苦手だなぁ」とか、Kのように初めて確定申告をするビギナーが抱くであろう、素朴な疑問を7つ、ぶつけてみました!

Q1. そもそもなんですが…確定申告ってどうしてするんでしょうか?

栗原 理由は3つあってね。1つめは「損をしたくない」から。俺からしたら「みんなに損をしてほしくない」から、という言い方かな。正しく計算すれば、税金を納めすぎていた場合にお金が戻ってくることがあるんだよ。本来であれば納めなくてもいいものを余分に納めていた、って聞くと、少し損をした気分になるんじゃないかな?

2つめは、とても当たり前のことだけど、「法律で決まっている」から。カタくてごめ~ん(笑)。

トークが軽快なくりさん。

栗原 こんなふうに考えてみるとわかりやすいかもね。例えば、「なぜ赤信号を渡ってはいけないんですか?」というのも同じで、「法律で決まっているから」なんだけど……。1つめの「損をしたくない」という答えのほうは、ここでいう「車にはねられたくないから」という感覚に近いかな。 

3つめは、音楽を仕事にしている人にはぜひ伝えたいこと。それは、確定申告を事業所得で申告していることが、社会的には「プロの証」になるんだ。

どういうことかというと、コロナ禍で収入が半分になってしまった人を対象に、持続化給付金やAFF(ARTS for the future! )など、給付金や補助金を申請できる機会があったね。そのとき、各省庁が示した条件のなかのひとつには、「事業所得で確定申告をしている人(※)」と書いてあるんだ。つまり、確定申告をしている人(より正確に言えば、事業所得で行なっている人)でないとお金を援助しませんよ、ってね。

※雑所得などで申告している場合は、認められる場合とそうでない場合があります 

それで俺のところへは「今まで確定申告してなかったので申請できません。どうしたらいいですか?」という相談が山ほど来たくらい。また、コロナ禍でそうした給付金をもらうために、初めて確定申告をしたという方も多くて、申告後は「ずっと溜まっていたモヤモヤが晴れてスッキリした」と言われていたよ。演奏会が急にキャンセルになったり、昨今の世の中の変化によって、音楽家のお金に対する意識も変わってきたんだなぁと感じているよ。

『オンカク』では、税金の納めすぎ(!?)の対象でもある「源泉所得税」の解説やその税額が決まる仕組み(P12)、さらに確定申告が必要な人と必要でない人(P29)という点についても触れているから、チェックしてみてね~。

Q2. 『オンカク』では、登場人物のりさ(※)の所得を例に、源泉所得税には「給与所得」と「事業所得または雑所得」の2種類があることが説明されていますよね。このように、特に音楽家をはじめとするフリーランスの方は、収入源が複数になりやすいと思います。「給与所得」と「事業所得または雑所得」を誰でも簡単に見分ける方法ってあるんですか?

※『オンカク』に登場する主人公りさは、音大を卒業したばかりでアルバイトを掛け持ちしながらフリーで演奏活動を始めたという設定

栗原 基本的には、相手(支払先)とどのような契約を結んでいるかによるよ。ただし、どういう契約を結んでいるかって、なかなかわかりづらかったりするよね。

具体的な見分け方として、一般的に「給与所得」となるのは、雇用契約である正社員、派遣社員、アルバイト・パートなど。意外とアルバイトが「給与所得」扱いであることを知らなかった、という方もいたりするかな。

一方、「事業所得または雑所得」に該当するのは、相手から業務(演奏、執筆、作曲、指導など)に対して報酬が支払われる業務委託のケースが多いよ。

また、支払い後にはなってしまうけど、書類から見分けることもできるんだ。支払い先から「源泉徴収票」をもらうと「給与所得」に、「支払調書」をもらえば「事業所得」というふうにね。「支払調書」については発行する義務がないので先方からもらえない場合もあるけど、欲しい旨を伝えると発行してもらうこともあり得るよ。 

ちなみに、もともと「事業所得」で確定申告している人の場合、先ほどの持続化給付金や補助金、またコンクールの賞金も「事業所得」になるよ。逆に、「給与所得」しかない人は「事業所得」にはならないので自分の契約内容を改めて確認してみてね。

スタッフKが初めて書いた確定申告書を、まじめにチェック!

Q3. よく、「経費になる」とか「経費で落とす」なんて言い方をしますけど、経費かどうかは、どうやって決まるんですか?

栗原 大前提となるのは、その支出が「事業として必要としたかどうか」がポイント。『オンカク』には、音楽関連の仕事をする皆さんにとって、あるあるの経費の勘定項目例をたくさん載せてみたよ。読者の方のなかにも「知らなかった」という人が多かったから、参考にしてみてね~。

経費について、これはちょっと微妙だなぁというケースもあるよ。例えば演奏活動をされている方で、栄養ドリンクを定期的に飲んでいる場合。「これを飲まないと自分の活動に支障が出る」という理由で経費にしたとするよね。すると「活動に支障がでる」という部分はいろいろな捉え方ができてしまうから、ほんとうに事業に必要かどうかについて、のちのち税務署とのやり取りが発生しやすくなることもあるんだ。そのためにも証明できるものを残せると安心だよね。

栄養ドリンクもだけど、仕事とプライベートの両方で使うようなものの費用については、「按分」というのを使って割合を示すのをオススメするよ(「按分」できる事例は『オンカク』のP61を参照してみてください)。ただ、通信費、家賃、光熱費、衣装費のように、割合をカウントしにくいものを証明するのは困るよねぇ……。

そういうときにオススメなのが、1年間を通して計算するのはさすがに大変なので、1ヶ月間での割合をカウントしてみるんだ。例えば俺は、今着ている服は仕事でもプライベートでも着ることがあるんだけど、これを1ヶ月に10回着たとしようか。「3回はプライベートで、7回は自分が講師をしているセミナーでも着ていました。だから事業とプライベートの比率は、7:3で分けることにします」という感じかな。これは税務署に対しても好印象になるはずだよ。適当に8:2でやっていますよっていうのと、1回計測してみたら7:3だった、というのでは、その人の信頼度合いが大きく変わってくるからね。

Q4. 確定申告は紙のほかに、パソコンやスマートフォンからも行なうことができる国税電子申告・納税システム(e-Tax)もありますが、それについてはどう思いますか?

栗原 Webでの申告は、何度も確定申告をやっている方にとっては、とても便利だと思うよ。ただ、確定申告にあまり慣れていない方、特に初めての方には紙での記入をオススメしているんだ。というのも、e-Taxでは何枚もある書類の全体像を見ながら入力することが、まだできなくてね。

確定申告に必要な書類は、「決算書」と「確定申告書」の2種類があって、それらの紙を行き来しながら書いていくよ。手書きのメリットとしては、それらを目の前に並べ、それぞれの関係性を把握しながら進められるので、記入漏れしにくいところかな。Webで申告したいという人も、『オンカク』の2つの書類が見開きでおさまるっているページを見ながら、数字を入力していくやり方がオススメだよ。

Q5. ちなみに…私は今回記入欄をうっかり間違えそうになってしまい、『オンカク』を読みながら慌てて書き直した、なんてことがありました。記入欄や計算を間違ったまま提出するとどうなるんでしょうか?

栗原 記入欄を間違えたけれども計算は合っている場合、税額は変わらないはずだよね? その場合は特に指摘されることはないと思うよ。

ただね、今回の給付金受給にあたって実際にあった例なんだけど、事業所得に書くべき金額を他の所得として記入してしまっていたために、給付を受ける対象外とされてしまった方もいたんだよ。実は、税額が変わらない場合、確定申告で記入欄のみの修正はできない仕組みでね。だから記入間違いはないに越したことはないかな。

また、計算が間違っている場合は、税務署から指摘がくる場合があるよ。いずれにしても、記入欄の書き間違いや計算ミスには気を付けよう。

Q6. くりさん! これを読んでくださっている人のなかに「やばい! まだ何も準備してない!」という方がいらっしゃったら…そんな人はまず、何からすべきでしょうか?

栗原 そうだなぁ……まずは、自分の収入がわかる資料をかき集めてくださいってことかな。次に、今度は自分の経費がわかる資料を集めよう。この2つを揃えて、あとは『オンカク』ではさまざまな事例紹介に加えて、申告書の記入の仕方も解説しているので参考にしてみて~。

Q7. 最後に、これまで延べ数十万件の相談に答えてきたくりさんから、読者の方へメッセージをお願いします!

栗原 音楽家の皆さんはよく「私、数字が苦手なんです~」と言われる方がいらっしゃるけど、全くそんなふうに思わないなぁ。だって、音楽家の方は仮に確定申告が面倒くさいなと思っても、コツコツ積み上げる能力や継続する力を持ってると思うんだよね。俺からしたらそれはもう桁外れの能力だよ。その力を生かして、いきなり100点の資料なんか作ろうと思わないで、あまり気負わず取り組んでみてくださいね~って伝えたいな。

まだ申告準備をしていない方はまず、自分の収支を把握するところからですね。私は今回、確定申告って「なんとなくやらなきゃ」と思っていたんですが、自分が仕事としてやってきたことをお金の面で“見える化”して、ちゃんと周りに伝える機会だと知ることができました。ありがとうございました!

あとはこの書類を投函して、「還付金振込通知書」でいくら戻ってくるか、金額を確認するのが楽しみです(笑)!

完成! あとは提出するだけ。
確定申告に挑戦した人
音楽之友社出版局書籍部
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