プレスラー追っかけ記 vol.12
<新譜を聴く:前編>
94歳の伝説的ピアニスト、メナヘム・プレスラー。これは、音楽界の至宝と讃えられる彼の2017年の来日を誰よりも待ちわび、その際の公演に合わせて書籍を訳した瀧川淳さんによる、プレスラー追っかけ記です。
≪NEWS!≫
●2018年10月13日(土)夜 サントリーホールでの来日公演決定!!
『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』(ウィリアム・ブラウン著)訳者。 音楽教育学者。音楽授業やレッスンで教師が見せるワザの解明を研究のテーマにしている。東京芸術...
卒業式の頃に満開を迎えた桜も散り、新学期が始まり、そして季節外れの真夏日にヒーヒー言っていたら(熊本は暑くて寒い!)、前回の投稿からずいぶん時間が経ってしまいましたが……その間に、プレスラーさん再来日が決定! 今回の公演(10/13@サントリーホール) はシューマン・プロ、そしてバリトン歌手マティアス・ゲルネとの共演とのことで、あの興奮が蘇り、今から勝手に盛り上がっています。
10/13サントリーホール公演チラシ
そういえば「今までやったことのない歌手との共演を90歳ではじめたのです」と、語っていらっしゃいました。常にチャレンジする精神を忘れない若きプレスラーさん。さらに進化した芸術を今年の10月にも聴かせてくれることでしょう。
さて、今回の「追っかけ記」では、プレスラーさんの新録音『月の光~ドビュッシー、ラヴェル、フォーレ:作品集』を訳者・瀧川がご紹介します。
ドイツ・グラモフォンのソロ・デビュー年齢としては、最高齢記録となった『月の光~ドビュッシー、ラヴェル、フォーレ:作品集』
(グラモフォン UCCG-1792、2018)
同CDのプロモーション用トレーラー
これまで主に古典派やロマン派のレパートリーを主に録音してきたプレスラーさんによる待ちに待った近代フランスの作曲家の作品の録音。『レコード芸術』の3、4月号でレビューが掲載され、特選を取ったアルバムです。
東京リサイタルで聴いた感動的な《月の光》も収録されていることはすでにわかっていましたから、とにかく沸き立つ心を鎮めるのが大変でした。
アルバムを手にとって、まずびっくりしたのは、このアルバムがアナベルに捧げられたものである、ということ。アナベル嬢とは誰って? リサイタルやNHKによる一連の放送を観られた方は、ステージへ上がるプレスラーさんの体を支える女性を覚えていらっしゃいますか? 彼女がアナベルです。
彼女は、インタビューのときもマスタークラスのときも足の弱ったプレスラーさんに常に寄り添い、彼を支えていましたが、プレスラーさんが「my lady」と呼ぶ秘書です。
CDの盤面にしっかり刻まれた「For Annabelle」の文字は、小さいながら黒地に白字でアルバム名より目立つ扱い
彼女は本当にすごい。インタビューの時にも寄り添うように後ろに座っています(その間ずっとスマホをいじっているのですが……)。そしてプレスラーさんが時折、言葉に詰まると(たいてい昔話をされている時々の演奏家や作曲家の名前です)、すぐに「○○でしょう」と助け舟を出すのですが、それがすべて合っているのです。彼の芸術人生を二人三脚で歩んできた様子が感じ取れ、このアルバムが彼女に捧げられたのもうなずけます(一方、『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』には彼の妻サラの素晴らしさが余すところなく描かれていますから、本書は妻に捧げられたと言ってもいいのかもしれません)。
さて、(いつものように)前置きが長くなってしまいましたが……
(つづく)
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