読みもの
2024.04.27

『レコ芸』歴代編集部員が選ぶ 心に刺さった批評#5 録音芸術の永遠の問いがここに

昨年7月号で休刊した月刊誌『レコード芸術』を、内容刷新のONLINEメディアとして再生させるべく、2024年5月24日までクラウドファンディングによる『レコード芸術』復活プロジェクトを実施中! それにちなみ、『レコ芸』歴代編集部員の記憶に残る“心に刺さった批評”をご紹介していきます。

清本真章
清本真章 音楽之友社 メディア・コミュニケーション部

 1983年東京生まれ。2011年入社。2018年まで『レコード芸術』編集部に在籍。2018年から広告課のオーディオ担当として月刊『stereo』に関わる。

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90年代後半の空前のブルックナー・ブームを、私も『レコ芸』読者の一人として体験しました。ヴァントや朝比奈、そしてライヴ録音の発売が解禁になったチェリビダッケ等の新譜を、発売日にレコード店まで買いに走ったのを思い出します。そのブルックナー・ブームの一つの頂点を成したのが2000年のヴァント/北ドイツ放送響(当時)の来日だったのは間違いないところでしょう。当然のことながら、来日後に緊急リリース(?)された当盤も発売日に買い求めました。

宇野先生の批評では、冷めやらぬライヴの感動とともに、録音にそれが捉え切れていないというもどかしさも綴られており、ライヴと録音の関係性という「レコード芸術永遠の問い」が含まれた、誠に興味深い一文です。

(清本真章)

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ヴァント/ライヴ・イン・ジャパン2000〔シューベルト:交響曲第8番《未完成》、ブルックナー:交響曲第9番(原典版)〕ギュンター・ヴァント指揮 北ドイツ放送交響楽団

推薦 宇野功芳

真にクラシック音楽を愛する者にとって、一大イヴェントとなった昨年十一月のヴァント来日公演。そのライヴ録音がついにCD化された。

まず《未完成》。冒頭の低弦のテーマからしてホールのすべての人をジーンとさせた、いうなればムラヴィンスキー以来の最高演奏がマイクに入るのかどうか、期待半分、不安半分で聴き始めたが、やはり批評文を書くのはむずかしい。当然のことながら客席で耳にした音とは違うし、レヴェルもずいぶん低い。このCDに刻みこまれている音楽自体についてのみ語らなければいけないのに、どうしても当夜の印象がだぶってきてしまう。

第一楽章は遅いテンポでオーケストラをたっぷり鳴らして始まる。ppだからといって変に神秘感を強調したりはしないのだ。その深い呼吸がすばらしい。しかも第二主題には微妙にデリケートな強弱がついてニュアンス満点、全篇にわたり、実に見事な空間を創り出してゆく。力みはどこにもないのに厳しさがあり、同時に大芸術家が持つ静けさと崇高さが漲る。

第二楽章も同じで、ここではそれにプラス悠久感さえ漂う。残念なのは録音に今一つの豊饒さがほしかったことだ。

次のブルックナーは客席では極めて情報量の多い名演であったが、オペラシティのホール空間がそのひびきを受けとめるには狭く、しばしば飽和しすぎる難があった。CDで聴いても第一楽章はまさにそうで、しかも音の透明度や力感に不足がある。

にもかかわらず、演奏のすばらしさが十分に伝わってくるのだから、これは普通ではない。心のこもったしなやかさと強靭な明快さが同居し、何よりも崇高さが際立つが、ものすごいのはコーダ! 天の高みに昇ってゆく気凜はホールの条件を乗り超え、今までのどのCDと比べても迫力があり、しかもほんのわずかな力みも伴わないのだ。まさに神技といえよう。

このコーダの三十小節ほどの高みはそのままスケルツォ以降にも引きつがれる。もはや音のことなどまったく気にならなくなってしまう。いや、本当に録音が突然よくなったような気がする!

第二楽章の明快さ、最高の厳しさと結晶化、意味深い楽器の抉り(たとえば二二五~六小節のホルン)、阿修羅のような集結。そして陰影に富み、各音型が雄弁に語りかけるトリオがつづく。

最終楽章のアダージョは内省が深く、弦も管も情にあふれ、一生懸命であり(オーケストラの一人ひとりが実にいい顔で演奏していたのを思い出す)、どの一部をとっても曲の偉大さを示していないところはない。どこがどうと説明を加えるのがいやになる。そして音楽は最も凄絶なクライマックスから最も安心な天国へと入ってゆくのである。

(初出:『レコード芸術』2001年7月号 新譜月評)

清本真章
清本真章 音楽之友社 メディア・コミュニケーション部

 1983年東京生まれ。2011年入社。2018年まで『レコード芸術』編集部に在籍。2018年から広告課のオーディオ担当として月刊『stereo』に関わる。

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