読みもの
2024.05.07

『レコ芸』歴代編集部員が選ぶ 心に刺さった批評#6 プレヴィンの評価に我が意を得る

昨年7月号で休刊した月刊誌『レコード芸術』を、内容刷新のONLINEメディアとして再生させるべく、2024年5月24日までクラウドファンディングによる『レコード芸術』復活プロジェクトを実施中! それにちなみ、『レコ芸』歴代編集部員の記憶に残る“心に刺さった批評”をご紹介していきます。

中沢十志幸
中沢十志幸 音楽之友社 出版局

東京生まれの千葉県育ち。大学の文学部を卒業後、音楽之友社に入社、1991年から、若干の空白を挟み、『レコード芸術』編集部に所属、2007年より同誌編集長。13歳からク...

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アンドレ・プレヴィンが残した唯一のマーラーの交響曲録音(1978年録音)ですが、当時の日本ではプレヴィンの評価が不当に低く(恐らく当時の『レコード芸術』での評価が低かったことも主要因)、日本では発売が見送られました。

この演奏が日本でCD化され、初めて発売されたのは録音から33年も経った2011年ですが、この時の『レコード芸術』の新譜月評では、その音楽だけが正当に評価され、故・宇野功芳先生の評価と合わせ、「特選盤」となりました。

とくに金子建志先生の批評にある「この野心作(マーラーの交響曲第4番)は、プレヴィンにとって自分の庭のように思えたのではあるまいか」という表現は、プレヴィンの音楽に対する姿勢を的確にとらえたもので、「我が意を得たり」と嬉しくなったことを覚えています。

(中沢十志幸)

マーラー:交響曲第4番   アンドレ・プレヴィン指揮 ピッツバーグ交響楽団 エリー・アメリング(ソプラノ)〈録音:1978・5・15,16 ピッツバーグ〉[タワーレコード(EMIクラシックス)  QIAG50062]

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マーラー:交響曲第4番   アンドレ・プレヴィン指揮 ピッツバーグ交響楽団 エリー・アメリング(ソプラノ)

推薦 金子建志

これまでプレヴィンが唯一、マーラーの正式録音として残していた1978年収録の第4番が国内CD化された。当時の録音の傾向もあって、音響バランスがスタジオで映画音楽を収録しているみたいで、個々の楽器がクローズ・アップされ過ぎなのは確かだが、プレヴィンはこれが仕事場の常態だったせいか、実に軽やかに振り進んでいく。交響曲から鎧兜を取り去り、ディズニーの世界を先取りしたようなこの野心作は、プレヴィンにとって自分の庭のように思えたのではあるまいか。

頻繁に曲想の急転する曲なので、ギア・チェンジの滑らかさや、柔軟なカンタービレが実に小気味良い。第3楽章278小節(16分27秒~)のように、瞬時の転換にオーケストラが追随できていない箇所もあるが、ピッツバーグ響は健闘している。アメリングの歌曲的で精緻な歌い込みも見事だ。

特筆すべきは、第4楽章の最終節〔5分27秒~〕で、ハープの超低音域の3連符が深海を覗きこむような印象をもたらすこと。これに「地上には天上の音楽と並ぶものは何もなくて」という詩が続くのだが、マーラーはこの曲の視座が一貫して天上界にあって、“そこから下界を覗き込めば、暗い海の底みたいなもの”というシニカルな結論を、音響的に示したのだ。プレヴィンのスポットの当て方はスコアに即しているため、ハープの超低音を〈沈める寺〉の鐘のように響かせて終わる謎めいたコーダの意味が、解りやすくなっている。

(初出:『レコード芸術』2011年11月号 新譜月評)

中沢十志幸
中沢十志幸 音楽之友社 出版局

東京生まれの千葉県育ち。大学の文学部を卒業後、音楽之友社に入社、1991年から、若干の空白を挟み、『レコード芸術』編集部に所属、2007年より同誌編集長。13歳からク...

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