ピアノや古楽の巨匠も新星も! 地元にも親しまれる彩の国さいたま芸術劇場
水準の高いコンサートと、地域に根差した活動の両輪で、充実した事業を展開する彩の国さいたま芸術劇場。今年で開館25周年を迎える。世界第一線の若手をいち早く紹介する〈ピアノ・エトワール・シリーズ〉など、開館当時からの音楽担当者のこだわりが詰まった企画もあり、一方で市民の憩いの場となるオープンなコンサートも。建物のデザインも興味深い彩の国さいたま芸術劇場で、一流の音楽を楽しもう。
武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...
音楽と演劇がオープンな場で交流
大・小のホールに、音楽ホールや映像ホール、そして舞台芸術に関する資料室、レストランを備えた文化施設、彩の国さいたま芸術劇場。埼玉を代表する公共劇場の一つとして、水準の高い演劇・ダンス・コンサートと、地域に根差した活動の両輪で事業を充実させている。地域の広場として、普段の雰囲気もとてもオープンだ。
取材に訪れた日も、〈彩の国シェイクスピア・シリーズ〉の「ヘンリー五世」を稽古中の役者たちが、「ガレリア」(写真下)を行き来していた。
写真上:故・蜷川幸雄の芸術監督室にあったものを展示。
舞台芸術に関する書籍・CDなど多彩な資料を擁する資料室も、予約や登録なしで利用できる。
ホール最寄りのJR埼京線の与野本町駅は、池袋から快速で約23分、新幹線の停車駅・大宮から快速で4分、各駅停車で6分(※通勤快速は停車しない)というアクセスとあり、都内のみならず東北地方や北海道などからも人々が訪れる。
世界の逸材をいち早く聴く、〈エトワール〉シリーズ
開館当時からつづくシリーズ公演は、特に期待が高い。
その一つが、1997年〈ピアニスト100〉(後半50名は故・中村紘子氏が監修)としてスタートし、現在の世界の第一線で輝く若手を紹介する〈ピアノ・エトワール・シリーズ〉。2018年、海外で注目を集めていたコレスニコフの日本初リサイタルや、2015年ショパン国際ピアノ・コンクール第2位のリシャール=アムランを、じっくり聴かせてくれたのも彩の国だ。
2019-20シーズンは、ピリスが講師を務めた2008年の「スーパーピアノレッスン」でも話題になった、オランダの美しき兄弟デュオ、ルーカス&アルトゥール・ユッセンが11月にシリーズ初となるピアノ・デュオのリサイタルを行ない、2020年3月には、2017年の《ゴルトベルク変奏曲》による来日公演が絶賛されたイタリアの才媛ベアトリーチェ・ラナが、シューマンやストラヴィンスキーの作品を携えて登場する。
同シリーズの過去の出演者の中から、聴衆の「また聴きたい」というリクエストに応える〈ピアノ・エトワール・シリーズ アンコール!〉シリーズでは、6月にVol.8として萩原麻未が再登場する。
音楽事業の構成に腐心するのは、埼玉県芸術文化振興財団事業部の阿部千佳子さんと髙井はるかさんをはじめとする音楽担当の3人。
「まだ日本では注目されていないけれども実力のある新星を紹介したい。チャレンジしてみたい曲も入れていただき、新しいステップへのチャンスになれば」。アーティストと共に創り上げる独自のプログラミングも魅力となっている。
豊潤な響きで楽しむ古楽
1999年からほぼ毎年続いているバッハ・コレギウム・ジャパン(2016年から提携関係)の演奏会。4月に取り上げるJ.S.バッハ《マタイ受難曲》は今回で10回目となる。BCJによる20年ぶりのレコーディングと合わせて行なわれる注目公演だ(予定枚数終了)。
音楽ホールの豊潤な響きには定評があり、「古楽は積極的に取り組んでいる分野」(阿部・髙井)という。
オランダ・バッハ協会の音楽監督に昨年就任した佐藤俊介(ヴァイオリン)が、同協会の管弦楽団を率いた公演も、10月に実現する。2014年から3年間に渡り「佐藤俊介の現在(いま)」シリーズを行なった同ホールでの公演だけに、期待は大きい。
広く地域の人に親しまれる企画
埼玉県内の小中学校に対するアウトリーチ活動「ミート・ザ・ミュージック」も行なっている。「体育館のような大きな空間での音楽鑑賞にならないこと、多くても50人くらいの方に間近で聴いていただくこと、演奏家とコミュニケーションを取っていただくことを心がけています」(髙井)。埼玉県内のコンサート施設があまりない地域に赴いている。
劇場内のオープンスペースでは、ポジティフ・オルガン(移動可能な小型のパイプオルガン)による無料の「光の庭プロムナード・コンサート」を年8回・土曜日に開催。声楽やヴァイオリン、リコーダーなどとのアンサンブルから、和太鼓や笙などとの異色のコラボレーションまで多彩なプログラムが楽しめる。
5月18日の「ばらまつりスペシャル」は、「与野公園ばらまつり」と同時開催。バラを片手に多くの地元の方で賑わう。クリスマスを控えた12月21日の「トワイライト・スペシャル」は、地元のボランティアと連携してキャンドルを灯し、美しい一夜となる。
また、劇場のオルガン事業アドバイザー大塚直哉氏が、バッハの《平均律》24曲をオルガンとチェンバロ両方を弾き、聴き比べができる(!)シリーズを開催中。古楽が初めてという方にも親しみやすいレクチャー・コンサートとなっている。今年は夏に第11~17番、冬に第18~24番。稀有の企画だけに、注目度大だ。
日時: 2019年4月13日(土)15:00開演
出演: 鈴木雅明(指揮)、キャロリン・サンプソン(ソプラノ)、松井亜希(ソプラノ)、ダミアン・ギヨン(アルト)、クリント・ファン・デア・リンデ(アルト)、櫻田亮(テノール:福音史家)、谷口洋介(テノール)、クリスティアン・イムラー(バス:イエス)、加耒 徹(バス)
曲目:
J.S.バッハ/《マタイ受難曲》BWV 244
※予定枚数終了
詳細はこちら
日時: 2019年6月16日(日)15:00開演
出演: 荻原麻未(ピアノ)
曲目:
ショパン/《ワルツ集》より
ラヴェル/ラ・ヴァルス
ピアソラ/アディオス・ノニーノ
モンポウ/《歌と踊り》より
ヒナステラ/アルゼンチン舞曲集
詳細はこちら
日時: 2019年7月7日(日)14:00開演
出演: 大塚直哉(ポジティフ・オルガン、チェンバロ、お話)、若松夏美(バロック・ヴァイオリン)
曲目:
J.S.バッハ/《平均律クラヴィーア曲集第1巻》より 第11番~第17番、《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番》より 第1・2楽章
詳細はこちら
日時: 2019年9月28日(土) 15:00開演
出演: カール=ハインツ・シュッツ(フルート)、ジョナサン・ケリー(オーボエ)、アンドレアス・オッテンザマー(クラリネット)、リヒャルト・ガラー(ファゴット)、シュテファン・ドール(ホルン)
曲目: モーツァルト/歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より
日時: 2019年10月5日(土)14:00開演
出演: 佐藤俊介(ヴァイオリン、音楽監督)、オランダ・バッハ協会管弦楽団 ※来日メンバー11名(予定)
曲目:
J.S.バッハ/管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV 1066
ピゼンデル/ダンスの性格の模倣
J.S.バッハ/ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060R
J.S.バッハ/ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV 1042
ビュファルダン/ 《5声の協奏曲 ホ短調》より 第2楽章
J.S.バッハ/ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV 1050
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日時: 2019年11月17日(日)15:00開演
出演: ルーカス・ユッセン、アルトゥール・ユッセン(ピアノ)
曲目: モーツァルト/2台のピアノのためのソナタ ニ長調 KV 448(375a)
ファジル・サイ/夜(4手)
ラヴェル/マ・メール・ロア(4手のための組曲)、ラ・ヴァルス(2台ピアノ) ほか
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日時: 2020年2月2日(日)14:00開演
出演: 大塚直哉(ポジティフ・オルガン、チェンバロ、お話)
曲目:
J.S.バッハ/《平均律クラヴィーア曲集第1巻》より 第18番~第24番
詳細はこちら
日時: 2020年3月8日(日)15:00開演
出演: ベアトリーチェ・ラナ(ピアノ)
曲目:
J.S.バッハ/イタリア協奏曲 BWV 971
シューマン/ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 作品14
アルベニス/組曲《イベリア》第3集
ストラヴィンスキー/「ペトルーシュカ」からの3楽章
詳細はこちら
日時: 2020年3月14日(土) 開演時間未定
出演: アンドラーシュ・シフ
構成: 大塚直哉
時間: 各回14:00~14:40(第112回のみ17:00~17:40)
料金: 無料
第106回 4月20日(土)出演:長谷川美保(オルガン)、座古瑞穂(和太鼓)
第107回 5月18日(土)ばらまつりスペシャル 出演:大木麻理(オルガン)、加賀谷翠(オーボエ)
第108回 6月22日(土)出演:秋本奈美(オルガン)、福井彩花(ヴァイオリン)
第109回 7月27日(土)夏休みスペシャル 出演:早川幸子(オルガン)、田島和枝(笙)
第110回 9月14日(土)出演:大塚直哉(オルガン)、宇治川朝政(リコーダー)
第111回 10月19日(土)出演:三上郁代(オルガン・ソロ)
第112回 12月21日(土)トワイライト・スペシャル 出演:田上麻里(オルガン)、北村さおり(ソプラノ)
第113回 2020年3月21日(土)出演:原田真侑(オルガン)、前澤歌穂(メゾソプラノ)
問い合わせ: SAFチケットセンター Tel.0570-064-939
会場: 彩の国さいたま芸術劇場
[運営](公財)埼玉県芸術文化振興財団
[座席数]大ホール 776席/小ホール 可変式266・298・346席/音楽ホール 604席/映像ホール 150席
[オープン]1994年
〒338-0014
埼玉県さいたま市中央区上峰3丁目15−1
[問い合わせ]Tel.048‐858‐5500
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