モデラート:「控えめな、節度ある」ってどれくらいの速さ?
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
楽譜やコンサートのプログラムを開くとよく目にする、モデラートという言葉。モデラートは、イタリア語で「控えめな、節度ある」という意味の言葉です。
これまでさまざまなテンポを表す言葉をご紹介してきましたが、モデラートは果たしてどのくらいの速さなのでしょうか……!
モデラートという言葉が使われるようになったのは、テンポを表す言葉のなかでも少し遅い時期の17世紀の終わりごろ。当初は、フランス語で同じ意味をもつmodéréやmodérémentという言葉が使われていました。
モデラートが使われるようになってからすぐに出版された音楽事典(ブロサール、1701)を見てみましょう。そこには「モデラートは、強くなりすぎず、弱くなりすぎず、速くなりすぎず、そして遅くなりすぎず、節度をもって演奏されるときに使われる」と書かれています。こんなにいろいろと気を配らなければいけないなんて、なんだか疲れますね……。「じゃあどう弾いたらいいの?」と、演奏者を混乱させてしまう言葉だったので、使われることは多くありませんでした。
バッハもあまりモデラートを使うことがありませんでしたが、1738年に作曲された管弦楽組曲第2番のポロネーズの中に登場する、バッハの作品でも数少ないモデラートがとても興味深いのです。
曲の最初に、lentement(遅く=レント)と書かれていますが、Continuo(通奏低音。低い音の楽器が演奏するパート)の部分に「モデラート、そしてスタッカートで」と書かれています。これはどういうことなのでしょうか。
モデラートがレントと同じくらいの速さだったのかもしれませんし、ここでのモデラートが「節度をもって控えめに」演奏する、という意味なのかもしれません。
バッハ:管弦楽組曲第2番よりポロネーズ
その後、モデラートは頻繁に登場するようになりましたが、やはり単体で表記されても理想のテンポがわかりづらいため、「アレグロ・モデラート(控えめに速く)」のように、他のテンポ表記とあわせて使われることが多くなりました。いわゆる、極端な解釈をされないための都合のいい言葉です。
このようにモデラートは、控えめに言って、使いやすい言葉となったのです!
モデラートを聴いてみよう
1. ロワイエ:クラヴサン曲集第1巻〜「めまい」
2. ハイドン:交響曲第42番ニ長調〜第1楽章Moderato e maestoso
3.ベートーヴェン:ピアノソナタ第31番変イ長調〜第1楽章Moderato cantabile e molto espressivo
4. チャイコフスキー:バレエ「白鳥の湖」〜第1幕第2場より「小さな白鳥の踊り」Allegro moderato
5. グリーグ:ピアノ協奏曲作品16〜第3楽章Allegro moderato molto e marcato
6. ドビュッシー:《子供の領分》〜第4番「雪は踊る」Modérément animé
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