読みもの
2021.05.11
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その49

ロマンス:ローマ帝国時代の口承文学が発祥? バラードとの違いは?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ノイシュヴァンシュタイン城内の壁に描かれた、トリスタンとイゾルデ。
ワーグナーが同名の楽劇の題材にした物語『トリスタンとイゾルデ』は、初期のロマンスの一つです。
ワーグナーに心酔したバイエルン王ルートヴィヒ2世は、ワーグナーの楽劇のみを題材にノイシュヴァンシュタイン城を作りました。

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音楽用語としてだけでなく、物語の内容や、恋愛に関しても使われる「ロマンス」という言葉は、中世ヨーロッパのトレンドから生まれました。

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当時のヨーロッパでは、英雄物語や歴史物語などのスタンダードな文学作品には、ラテン語が用いられていました。古典的な言葉です。しかし、ラテン語は難しい言語で、ヨーロッパの人たちが全員理解できる言葉ではなく、しっかりと勉強を修めた人しか理解できませんでした。

では、どんな言葉なら理解できたのでしょう? それは、俗語です。民衆が普段使用していた言葉のことです。文学作品はラテン語ばかりだったなか、やはり俗語でも物語を楽しみたい人はたくさんいました。そこで、俗語でも物語が書かれるようになりました。

同じく、教育が行き届いていない当時は、文字が読めない人も数多くいました。そういった人も楽しめる、口承文学も大きな需要がありました。その際、物語の題材となったのは恋愛の話。昔の英雄の話よりも、ずっと身近な恋愛の話のほうが、みんな好きだったのです。

395年にローマ帝国が分裂して以降、民衆の言葉(俗語)を使っていた人たちは、ヨーロッパ中に分散します。この俗語のことをロマンス語(ローマ帝国の言葉)というのですが、恋愛作品が多くを占めるような俗語によって作られた文学作品のことを、ローマ的な(もの)と呼ぶようになりました。

物語において、衝動的な恋愛話は、あまり発展が期待できませんよね。そのかわり、色々な駆け引きがあった末に熱い恋愛をするような内容のほうが、好まれました。「ロマンチックな恋愛」と描写した際に、衝動的な恋愛のことを指さないのは、このようなことからきています。

……と、前置きが長くなったところで、そろそろ音楽のロマンスの話に入りましょう!

場所は、同じく中世ヨーロッパのスペイン。当時スペインでは、吟遊詩人が、ロマンチックな話を口で語ることが盛んでした。さらに、その語りにメロディをつけることもありました。まさに、バラードと似ているんです。そのため、もともとはバラードとロマンスの違いはほとんどなく、一緒にされていました。

作者不詳:Fata la parte(おそらく15世紀半ばに書かれた、最初期のロマンスです)

しかし、バラードが踊るための音楽だったのに対し、ロマンスは踊りを伴いませんでした。

こうして歌として親しまれるようになったロマンスですが、古典派の時代になると、きれいなメロディを伴う、情のこもった音楽として発展。フランス語ではそのままロマンス、ドイツ語やイタリア語ではロマンツェと呼ばれます。また、ゆったりとした雰囲気が特徴のロマンスは、モーツァルトのセレナーデ第13番《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》や、ショパンの「ピアノ協奏曲第1番」など、多くの作曲家が緩徐楽章としても作曲するようになりました。

ロマンスを聴いてみよう

1. ゴセック:交響曲 変ホ長調 作品5-2〜第2楽章 ロマンツェ
2. モーツァルト:セレナーデ第13番《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》KV525〜第2楽章 ロマンツェ
3. ショパン:ピアノ協奏曲第1番 作品11〜第2楽章 ロマンス
4. ブラームス:6つの小品 作品118〜第5番 ロマンツェ
5. フォーレ:無言歌(Romance sans parole/歌詞のないロマンス) 作品17-3
6. ラフマニノフ:14のロマンス 作品34〜第14番 ヴォカリーズ

モーツァルト「セレナーデ第13番〜第2楽章《ロマンツェ》」の自筆譜。
ブラームス:6つの小品 作品118〜第5番 ロマンツェ、初版
大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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