読みもの
2021.05.25
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その51

トリル:語源はイタリア語で鳥がさえずる! バロックや古典派の時代に流行した装飾音

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

《小鳥に説教をする聖フランチェスコ》(ジョット・ディ・ボンドーネ作、1295〜1300年)

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トリルとは、装飾音という、音楽を華やかにみせるために、面白く聴かせるために付け加えられた音の一種です。ある音と、その隣の音を、素早く交互に演奏します。その聴こえ方から、トリルという言葉は、イタリア語で「鳥がさえずるという意味の動詞trillareの名詞形trilloからきています。

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いまいち装飾音についてピンとこない方のために、音楽の中で装飾音がどのような役割を持つか、ちょっと生活空間に例えてみましょう。

例えば、白が基調の部屋の中で、照明や食器だけ赤いものを使うと、見た目にアクセントが出ますし、こだわりも感じられますよね。

作曲家たちが、音楽をデザインするうえで施した装飾、それが装飾音なのです。特にバロックや古典派の時代は、建築や美術において、ロココ様式という繊細かつ豪華な装飾を施す建築様式がはやりましたが、音楽においても、この流行の影響を受け、トリルなどの装飾音が付いた曲がたくさん書かれました。

トリルの中でも、さらにいろいろな種類があるのですが、大きく分けると長いトリルと短いトリルとあります。短いトリルのことをプラルトリラーと言ったりもしますが、難しく考えなくても大丈夫です!

J.S.バッハが、息子に音楽を教えるために書いた、トリルの演奏法の一部。
右端にあるのが、トリルです。音符の上に書かれたギザギザの印が、トリルを表しています。この場合は短いトリル(プラルトリラー)を指し、印の形通り、音を数往復させて演奏します。
ほかにも、いろいろな種類のトリルの演奏法もあります!

もともとは鳥の鳴き声のように聞こえることから、トリルと名付けられましたが、その後、本当に鳥のさえずりを模倣した部分でもトリルが使われるようになりました。

ヴィヴァルディ 協奏曲集『和声と創意の試み』作品11より第1番《春》 第1楽章
“鳥の鳴き声(canto dè gl'uccelli)”と書いてある部分に、ギザギザの印(短いトリル)と、tr(トリルの略で長いトリル)が指示されています!
ベートーヴェン 交響曲第6番《田園》作品68〜第2楽章「小川の情景」より
3種類の鳥が登場するこの楽章では、“ナイチンゲール(Nachtigall)”の鳴き声がトリルで演奏されます。
リスト《2つの伝説》S.175〜第1番「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」
さまざまな伝説を残した修道士、アッシジの聖フランチェスコを題材にした曲。
鳥に説教したというのを、トリルを使ってうまく描写しています!

また、スクリャービンは燦々(さんさん)とした輝きや、恍惚を表すのにトリルを用いました。特に、後期のソナタや、交響曲第4番ではトリルが効果的に現れます。

スクリャービン ピアノ・ソナタ第10番 作品70
フランス語で“高ぶり輝いて(lumineux vibrant)”とかかれたこの部分でも、トリルがここぞとばかりに登場します。
スクリャービン 交響曲第4番 作品54
フランス語で“快楽を伴い、だんだんとエクスタシー(恍惚)の境地に向かって”と書かれているところでも、効果的にトリルが用いられています。このトリルはだんだんと激しさを増します......。

トリルを聴いてみよう

1. ヴィヴァルディ:協奏曲集『和声と創意の試み』作品8〜第1番《春》 第1楽章
2. ラモー:新クラヴサン組曲集第2番〜「野蛮人」
3. タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタ《悪魔のトリル》ト短調〜第3楽章
4. ベートーヴェン:交響曲第6番《田園》作品68〜第2楽章「小川の情景」
5. リスト:《2つの伝説》S.175〜第1番「鳥に説教をするアッシジの聖フランチェスコ」
6. スクリャービン:交響曲第4番 作品54
7. スクリャービン:ピアノ・ソナタ第10番 作品70 (トリルソナタ)

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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