読みもの
2021.11.09
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その71

カランド:語源はイタリア語で沈む、静まる。ただテンポを遅くするだけではない!?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

モーツァルト:ピアノ・ソナタ イ短調 KV310第1楽章、自筆譜。

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前々回のラレンタンド、前回のリタルダンドと、テンポを遅くする言葉が2回続きましたが、今回も同じ意味の言葉、カランドについてご紹介します。

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カランドは、まだリタルダンドやラレンタンドが主流ではなかった、古典派の時代(18世紀後半)に多く使われた言葉です。特に、ハイドンやモーツァルトは、テンポを遅くするときに使う言葉にカランド以外をほとんど使っておらず、彼らの音楽の中でのカランドは、実はとても重要な音楽用語なのです。

ハイドン:ピアノソナタ ト長調 Hob.XVI:40第1楽章、初版。

しかし、19世紀に入ると、カランドはあまり使われなくなり、代わりにラレンタンドやリタルダンドが主流になります。何か、明確な違いがあったのでしょうか?

まず、語源や深い意味合いを見ていきましょう。カランド(calando)は、イタリア語で沈む、静まるという意味のcalareの現在分詞に由来しています。すでに、直接的に「遅くする」という意味を持つ、ラレンタンドやリタルダンドとは、少し意味合いが違いますね!

さらに1823年、作曲家で数学者のアウグスト・クレレ(1780~1855)は、「カランドは、ラレンタンドやリタルダンドと似ているものの、この2つとの違いは、あからさまにではなく自然とテンポ感が消えゆく、もしくは沈んでいくようなものである。新たな楽想(新しいメロディなど)が出てくるまでは、拍感に囚われることなく、それぞれの音や小節が伸びていくのだ」と記しています。

ベートーヴェン:歌曲「アデライーデ」作品46
日常でふと目にするものを見ては、自分の片想いの女性を思い出してしまうという歌。
曲の一番最後に、まるでやまびこのようにその女性の名前を呼ぶ部分があるのですが、ここでもカランドがとても効果的に使われています。

元となっている言葉が「沈む」という意味なだけあり、実はかなり情緒のある表現だったことがわかります。確かに、直接的に「ここ、遅くしてね」という指示のほうが使い勝手がいいので、19世紀以降は、特殊な箇所以外ではあまり使われなくなりました。

しかし、古典派の作曲家たちは、ただ単にテンポを遅くするだけでなく、曲の雰囲気自体も段々と沈んでいくことを想像して、カランドという言葉を使ったのでしょう。カランドは、テンポを遅くする指示の言葉の中でも、いろいろな意味を含んだ言葉だったのです。

カランドを聴いてみよう

1. ハイドン:ピアノ・ソナタ ト長調 Hob.XVI:40〜第1楽章
2. モーツァルト:ピアノ・ソナタ イ短調 KV310〜第1楽章
3. モーツァルト:歌劇《後宮からの逃走》 KV384〜序曲
4. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 作品10-1〜第3楽章
5. ベートーヴェン:歌曲「アデライーデ」作品46
6. ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77〜第2楽章

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 作品10-1〜第3楽章
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77〜第2楽章
大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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