アクセント:詩の朗読で強調する部分を指す古代ギリシャ語の言葉が起源!
楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第78回は「アクセント」。
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
音楽用語では、何か強調したい音や箇所があるときに使われる言葉、アクセント。普段の生活でも、単調な服に、何か目立つアクセサリーをつけるようなときに使われることもありますね。そんなアクセントの語源や歴史を紐解いてみましょう! ちなみに、今回の記事は、ちょっと言語の歴史に焦点を当てています。
さて、現在よく使われているアクセントという言葉は、英語のaccentに由来します。動詞も名詞も同じ形で、強調、強勢という意味があります。ドイツ語ではAkzent(アクツェント)、イタリア語ではaccento(アッチェント)、フランス語ではaccent(アクソン)と読み書きされ、英語と同じ意味を持ちます。
この言葉をもっと遡ってみると、紀元前のヨーロッパに辿り着きます。現代でもそうですが、昔から詩などを読むときには、リズム感を持って詠んでいました。韻もそうです。そのときに、強調する部分(アクセント)のことを、古代ギリシア語では、プロソイディア prosōidiaと呼んでいました。これは、pros(〜すること)とōide(歌う)という2つの言葉がくっついてできた言葉です。ちなみに、英語で韻律のことをprosody(プロソディー)といい、古代ギリシア語から来ています。
この古代ギリシア語のprosōidiaにあたる言葉は、当時のラテン語には存在しなかったため、pros(〜すること)とsōidia(歌う)という2つの言葉をラテン語にそのまま当てはめ、アッケントゥス accentusと呼ぶようになりました。すなわち、アッケントゥス accentusは、ad(〜すること)と、cantus(歌う)という言葉の組み合わせによってできた言葉なのです。
さらに、アッケントゥスは、演説やキリスト教におけるお説教などでつけられる抑揚のことも指すようになりました。アクセントという言葉も、方言などを指す際にも使われますね。
さて、音楽の話に戻りましょう! 音楽におけるアクセントの歴史も非常に古いのですが、今と捉え方が少し違いました。
普通、楽譜には小節線が書かれていますが、中世の音楽では、小節線はいわゆる長いフレーズにおける決まった抑揚、すなわちアクセントの印でもありました。例えば、4拍子の曲を数えるとき、「1、2、3、4」と数えるように、1拍目に少し重きが置かれますよね。小節線には、実はそのような意味もあったのです。
アクセントというと、>のような印を思い浮かべるかと思いますが、実は、この印の歴史はそこまで古くはありません。
バロック時代(17世紀〜18世紀前半)には、まだ>の印はありませんでした。しかし、アクセントをスタッカートで表現することはあったのです。確かに、長い音が続く中で、急に短い音が出てきたら、ハッとさせられますよね? こうして、短い音を演奏して、ある音を強調するということはありました(もちろん、すべてのスタッカートが強調するために書かれたわけではありません)。
19世紀前半になり、やっと>の印が使われるようになります。そして、この時代には、アクセントの音は、ほかの音よりも強く演奏して強調するのが慣習となりました。ほかに、fp(フォルテピアノ。強く弾いた後すぐ弱くすること)や、sf(その音を特に強く弾くこと)などの印も、アクセントと同じ意味で使われていましたが、時代を追うごとに、fpやsfも異なって用いられるようになり、アクセントが、その音を強調して演奏する記号となりました。
アクセントを聴いてみよう
1. 作曲者不詳:ブックスハイマー・オルガン帳〜第224番 Benedicte
2. メンデルスゾーン:交響曲第4番《イタリア》 作品90〜第4楽章
3. リスト:ピアノ・ソナタ〜アレグロ・エネルジコ
4. ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調〜第3楽章
5. プッチーニ:歌劇《ジャンニ・スキッキ》〜「ごめんください?」
6. ラヴェル:《夜のガスパール》〜第2曲「絞首台」
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