読みもの
2022.07.19
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その80

ソステヌート:語源をたどると「音を下から支える」の意。テヌートとの違いは?

楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第80回は「ソステヌート」。

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

ワーグナー:交響曲より第1楽章 ソステヌート・エ・マエストーゾ、ピアノ連弾版自筆譜

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

音をしっかり保ってほしいときに使われる言葉、ソステヌート。テヌートと似た言葉ですが、一体何が違うのでしょうか……?

続きを読む

まず、ソステヌートという言葉の意味を見てみましょう。

イタリア語で、支えるという意味の動詞sostenireの過去分詞です。英語のsustain(下から支える)の元となった言葉です。さらにラテン語まで遡るとsustinēre、そして古いラテン語のsustineoという言葉に行き着きます。

これを分解すると、sub(下で、下から)とteneō(支える)の2つに分けることができます。テヌートは、このteneōのみを語源とする言葉で、ソステヌートは、それにsubが頭にくっついた言葉なのです。ここで、テヌートとソステヌートの言葉の違いが少しわかりましたね!

ですが、音楽を演奏する際に、「保つ」のと「下から支える」のとでは、何が変わってくるのでしょうか。

テヌートは、音をしっかりと書かれた音価通りに伸ばすことを意味し、次のような記号で示されます。

ムソルグスキー:《展覧会の絵》より「第1プロムナード」

これに対して、ソステヌートには、記号がありません。すなわち、ひとつひとつの音に記号が書かれることがなく、音楽やフレーズ全体への指示として、ソステヌートが使われます。全体的に音をしっかり伸ばしてという意味で用いられます。

ブラームス:ハンガリー舞曲第6番
2小節目に、poco sosten.(少しだけ音を保って)と書かれています。
この場合、ベターッと音を伸ばすのではなく、ひとつひとつの音をやんわりと伸ばし気味に演奏します。

フレーズや曲全体の音を、しっかりと伸ばし続けて演奏するとなると、速いテンポでは演奏できませんよね? なのでソステヌートという言葉は、テンポ表記にも使われます。これは、テヌートとソステヌートの大きな違いです!

ブラームス:交響曲第1番 第2楽章 自筆譜
左上のテンポ表記の部分に Andante sostenutoと書かれているのがわかります。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番《月光》 作品27-2〜第1楽章、初版
最初の部分にAdagio Sostenutoと書かれています。
さらに、この第1楽章には、「Si deve Suonare tutto questo pezzo delicatissimamente e Senza Sordino」という、ずいぶん長い指示が書かれています。これは全体を通してペダルをずっと踏みっぱなしにして演奏しなければいけません(詳しくは第75回「ソルディーノ」を参照)。
言い換えれば、全ての音が伸ばしっぱなしで演奏されるのです!
プッチーニ:《ラ・ボエーム》(ピアノ伴奏版)〜第3幕より
2小節目の部分にSostenendo(sostenereの現在分詞)が書かれていますが、このような形で使われることもあります。

ところで、ピアノについている3つのペダルのうち、真ん中のペダルのことを何と呼ぶかご存じですか?

右はダンパーペダル、すべての音を響かせたままにします。左はソフトペダル、踏むと柔らかい音が出てきます。

そして真ん中のペダルは、ソステヌート・ペダルという名前がついており、このペダルを踏んだときに押された鍵盤の音は、そのまま伸ばしっぱなしになります。

ソステヌートペダルがついたスタインウェイのペダル。

1844年のパリ産業万博で、ジャン=ルイ・ボワスロが、ソステヌートペダルが備わったピアノを発表し、のちにスタインウェイ社が特許を取りました。

ソステヌートを聴いてみよう

1. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番《月光》作品27-2〜第1楽章 アダージョ・ソステヌート
2. ワーグナー:交響曲〜第1楽章 ソステヌート・エ・マエストーゾ
3. ブラームス:交響曲第1番 作品68〜第2楽章 アンダンテ・ソステヌート
4. ブラームス:ハンガリー舞曲第6番
5. ムソルグスキー:《展覧会の絵》〜「第1プロムナード」
6. プッチーニ:《ラ・ボエーム》〜第3幕より「ということは、本当に終わったっていうのか?」
7. ブーレーズ:アンシーズ

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ