読みもの
2021.11.23
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その73

テヌート:語源はテノールと同じラテン語で「保つ」。作曲家がこだわりの箇所に使う!?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110第3楽章 の自筆譜

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音を、書いてある長さの通り、最後までしっかり伸ばしてほしいときに使われるテヌート(tenuto)は、イタリア語やラテン語で、保つ、支える、維持するという意味を持つtenereが語源です。上声部を支える役割を果たしていたテノールという言葉も、テヌートと同じ語源を持ちます。

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なんだか、「音をしっかり伸ばしてください」っていう指示、少し疑問を感じませんか? だって、音符通りに音を弾いていれば、書かれているよりも音を早く切り上げて、次の音にいくことなんてなさそうですよね……。このことについて、作曲家でオルガニストのテュルク(1750〜1813)が、著書『クラヴィーア教本』で、しっかり説明してくださっています!

スタッカートでもなく、レガートでもない、普通に書かれた音符を演奏する際は、書かれている音の長さよりもほんの少しだけ早く、指を上げます。これが、特に何も指示が書かれていない音符の弾き方ですが、作曲者がどうしても最後まで音を伸ばし続けてほしいとした場合に、その音符にテヌートと書かれるのです。

次の音符を弾くのにも準備が必要ですし、これを完全に伸ばしたまま次の音を弾いてしまうと、レガートのようになってしまうんですね……。

あの大バッハの息子で作曲家・ピアニストのカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜1788)も、自身の著書『正しいクラヴィーア奏法(1753、1762年出版)』で、「スタッカートでもなく、レガートでもない音符は、書かれている音の長さの半分ほどで演奏される」と述べています。

さらに、演奏家は1曲で何千個という音符を弾くのですが、時に意図せず、書いてある音符より若干短くなってしまうこともあります。テヌートという楽語は、作曲家が演奏家に向けて「この音、すごく大事だから、ちゃんと最後まで伸ばしてね!」という、こだわりの場所に使った言葉なのです。

モーツァルト:弦楽四重奏曲 変ホ長調 KV428〜第4楽章、250小節から
すべての音符それぞれに、ten.(tenutoの略)が書いてあります。なんとも強いこだわりが垣間見えますね!
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第2番 イ長調 作品2-2〜第2楽章
右手には「tenuto sempre(常にテヌートで)」、左手には「staccato sempre(常にスタッカートで)」という指示が書かれています。右手と左手でまったく異なる表情をもつこの曲は、まるでオーケストラのようなコントラストがあります。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110〜第3楽章 (自筆譜)
左下に大きな文字で「sempre tenuto(常にテヌートで)」と書かれています。
ドビュッシー:《映像第1集》〜「水の反映」(自筆譜)
真ん中の3つの音の上に横棒が書いてありますが、この横棒もテヌートを意味しています。

テヌートを聴いてみよう

1. モーツァルト:弦楽四重奏曲 変ホ長調 KV428〜第4楽章
2. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第2番 イ長調 作品2-1〜第2楽章
3. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110〜第3楽章
4. ドビュッシー:《映像第1集》〜「水の反映」
5. ドビュッシー:《子供の領分》〜「雪は踊る」
6. ヴァイル:ヴァイオリン協奏曲〜第2楽章 アレグロ・ウン・ポコ・テヌート

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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