バス:語源はラテン語のbassus! ハーモニーにおける土台となる重要なパート
楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第89回は「バス」。
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
歌手の声域を表す言葉として用いられる、バス。器楽曲においても、古典派までの音楽の中では、もっとも低い音を演奏するパートをまとめて指す言葉としても用いられます。
語源は、ラテン語のbassus(バッスス)に由来し、低いという意味です。そのままですね!
バスは、イタリア語でbasso(バッソ)、フランス語ではbasse(バス)、ドイツ語ではBass、またはBaß(バス)といいます。低いという意味のほかに、土台などの意味もあります。
英語においては、bass(バスパート)、base(土台や基礎)、basis(原理、根拠)などの言葉に派生していますが、こちらは皆様もご存知かもしれません!
念のためですが、乗り物のバスとは関係ありません。乗り物のバスは、ラテン語で「さまざまな」を意味するomnisから派生したomnibusという言葉の、busだけが残ってできた言葉です。いわゆる、乗り合いで、さまざまな人のための乗り物なので、このような呼び方がされています。
さて、本題に戻りましょう。声域の中でも本来バスよりも高いテノールは、12世紀ごろから使われてきましたが、バスはそれより少し遅れて誕生しました。テノールは、ポリフォニーの音楽の中でもっとも低いパートを担っていましたが、だんだんと声部が多くなり、15世紀ごろより、テノールが4つに分かれました!
・カントゥス(スペリウス)
・コントラテノール・アルトゥス
・テノール
・コントラテノール・バッスス
コントラは、「〜に反して」という意味ですが、「本来は低いテノールに反して、さらに低いパート」であることを表す言葉として、テノールよりも低いパートを「コントラテノール・バッスス」と名付けました。
このバッススだけが残り、バスと呼ばれるようになったのです!
1558年には、音楽理論家のツァルリーノが「地球における地面が、さまざまなものの土台となっているように、バスはハーモニーにおける土台となる。地面がもろければ、その上に乗っかるものは崩れてしまうが、音楽においてはバスがなければ混乱を招くほどの不調和を生み出すだろう!」と述べています。
この時期には、すでにバスパートは重要な役割を担っていたことがわかりますね。
ここまでは、声楽におけるバス、器楽におけるバスを共通の話題としてご紹介していましたが、ここでそれぞれについてもご紹介させてください!
まず、器楽におけるバスですが、低い楽器をまとめてbassoの複数形であるbassi(バッシ)と呼んでいました。ここに属する楽器としては、基本的にチェロ、コントラバス、チェンバロやファゴットが該当します。
確かに、古典派までの音楽の楽譜を見てみると、これらのパートをすべてまとめて“bassi”と書いてあるか、別々に書かれていたとしても同じことを演奏していることが多いです。ここまでしてでも、しっかりと演奏されるのが、バスパートなのです。
そして、声楽の世界におけるバスは、声が低くない代わりに派手ではないため、神や、物語の中で黒幕的なキャラクターを表す、とても大事な声域として重宝されました。
ちなみに声楽においては、バスよりもさらに低い声域があるのです! バッソ・プロフォンド(またはオクタヴィスト)といい、代表的な作品ですと、ラフマニノフの《徹夜祷》 作品37に登場します。
バスは、音楽の中では絶対に欠かせないパートなのです!
バスを聴いてみよう
1. モンテヴェルディ:歌劇《オルフェオ》〜第4幕より「なんと不幸な」
2. モーツァルト:歌劇《魔笛》 K.620〜第2幕より「おお、イシスとオシリスの神よ」
3. ムソルグスキー:歌曲「アウエルバッハの酒場でのメフィストフェレスの歌」
4. シュトラウス:歌劇《ばらの騎士》〜第2幕より「私なしでは」
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