読みもの
2024.06.11
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その96

タランテラ:クモの毒を抜くために踊り狂った!? イタリア南部タラント発祥の踊り

楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第96回は「タランテラ」。

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

エドゥアルド・ダルボーノ(1841〜1915)《タランテラ》

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疾走するような速いテンポの踊りですね! アップテンポとともに、ジェットコースターのように曲が展開する様子は、聴き手もノリノリにさせてしまいます。今回は、そんなタランテラについて深掘りしていきましょう。

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タランテラとタランチュラ

タランテラは、南イタリア起源の踊り。名前も、踊りの発祥だと言われている港町タラント(Taranto)から来ており、地名のTarant(o)に、意味を小さくする-ello(または-ella)がくっついてできた言葉です。

南イタリアを代表する港町、タラント(©︎Samuele Gallini)

踊り自体は、15世紀からあったそうですが、音楽史上はじめてのタランテラの記述が見られるのは、1549年。

イタリアの作家、シメオン・ツッコーロ・ダ・コローニャ(1504?〜1569?)が、この地で踊られていたタランテラに関して、「この地のダンスであるタランテラを踊る人たちは、タランチュラに刺された人、または噛まれた人たち似ている。[中略] (刺された者は)毒を体から抜くために激しく体を動かす」と述べています。

確かに、虫が体を這っているのを見つけたら、体中をバタバタさせてしまいますよね!(笑)

1611年、スペインの作家のセバスティアン・デ・コヴァッルビアス(1539〜1613)は、「タランチュラに刺された者は、タランテラのリズムに合わせて動くことで、刺された際の症状を紛らわせることができる」と書いています。

さらに1755年、イギリスの詩人サミュエル・ジョンソン(1709〜1784)によって編纂された英語辞典の「タランチュラ」の項目には、「噛まれると音楽によってしか治らない虫」という記述があります。

英語辞典〜タランチュラ(サミュエル・ジョンソン編纂、1755年出版)

どれもタランチュラに関しての記述がありますね.! タランチュラとは……みなさんもご存知だと思うので写真は掲載しませんが、そうです。あの大きなクモです!

タランチュラは、一般的には大きなクモの俗称ですが、この名前も地名のタラントが由来なのです。どうやら、この地では大きなクモがかなり見られたことから、この名前がついたそうです。

タランテラの成立としては、「大きなクモだから、ものすごい毒を持っているに違いない! 噛まれたら死んじゃう! だからとにかく汗をかいて毒を出そう! そして気を紛らわせるために踊り狂おう!」という経緯になったそうです。

そして、その様子を模倣したものが踊りになったそうです。

ただ、この地域で見られたクモは、タランチュラコモリグモという種類で、体長は3センチほど。毒を持っているものの、人間にとっては危険性がほとんどなく、噛まれてもあまり痛くないとか……。

毒抜きダンスから求愛のダンスへ

タランテラは、もともと毒抜きのダンスとして踊られていたため、ドイツの司祭、アタナシウス・キルヒャー(1602〜1680)も述べているとおり、かなり荒削りで即興的な演奏で、踊り手を煽っていたそうです。きっと、街中で「やばい! タランチュラに噛まれた!」なんて人がいたら、周りにいる人間たちが叩けるものを叩いて応急処置をしていたのでしょう。

伝統的なタランテラには、太鼓やタンバリンが入っているのも大きな特徴です。

キルヒャー:タランテラ・ナポリターナ

ルドルフ・ドレーヘア(16??~1681)「タランテラを踊る人」

絵の下にタランチュラが描かれています!

しかし、タランテラもだんだんと趣旨が変わってきます。シンプルで情熱的なタランテラは、男女の組み合わせで踊られるようになり、17世紀には、イタリア各地やスペインにも広がりを見せます。

さらには、急速な音楽であるタランテラは、聴衆を魅了するようなテクニックを披露する作品として、さまざまな作曲家が書きました。

毒グモ伝説に始まった情熱的なダンスに、皆さんの心も躍ること間違いないでしょう!

タランテラを聴いてみよう

1. イタリア民謡:チチェレネッラ
2. ストレース:タランテラ
3. ベートーヴェン:ピアノソナタ第18番 作品31-3〜第4楽章
4. ウェーバー:ピアノソナタ第4番 作品70〜第4楽章
5. ロッシーニ:ラ・ダンツァ
6. ラッヘンマン:ドイツ民謡付き舞踏組曲〜第12曲 タランテラ

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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