読みもの
2024.10.30
スメタナ生誕200年~名作に込められたチェコ苦難と闘争の歴史

スメタナ《わが祖国》ってどこ?「モルダウ」だけじゃない!名曲の解説と名盤紹介

チェコの国民的作曲家ベドルジハ・スメタナは2024年で生誕200年! スメタナの代表作である《わが祖国》の中の「モルダウ」のメロディは非常に有名ですが、 そもそも「祖国」ってどこ? 曲が生まれるきっかけ、6曲に込められたボヘミア/チェコの苦難と闘争の歴史、全曲を続けて聴きたい歴史的名盤を増田良介さんが解説してくれました。

増田良介
増田良介 音楽評論家

ショスタコーヴィチをはじめとするロシア・ソ連音楽、マーラーなどの後期ロマン派音楽を中心に、『レコード芸術』『CDジャーナル』『音楽現代』誌、京都市交響楽団などの演奏会...

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スメタナの《祖国》はどこ?

今年はチェコの作曲家ベドジフ・スメタナ(1824-1884)の生誕200年にあたる。スメタナの代表作といえば、やはり交響詩《モルダウ(ヴルタヴァ)》だが、これは、連作交響詩《わが祖国》の第2曲だ。

「祖国」とはボヘミア、あるいはチェコのことなのだが、スメタナの時代、チェコとかチェコスロヴァキアという名前の国はなかった。ボヘミア王国はあったが、もはや国とは名ばかりで、事実上オーストリア帝国の一部となっていた。

1815年のヨーロッパ地図。黄色い部分がオーストリア帝国で、ボヘミア帝国はその中にある

だが、1867年にオーストリア帝国からハンガリー王国が分離し、オーストリア=ハンガリー帝国となると、次はチェコ民族の独立を、という機運が高まった。そんな時代に、スメタナがボヘミアの自然や歴史をテーマに作曲したのが《わが祖国》だ。

さて《わが祖国》全6曲のうち、正直、《モルダウ》以外の5曲は、耳にする機会ががくんと減る。しかし、ほかの5曲も全部すばらしいし、6曲続けて聞くと、《モルダウ》だけ聴くのとは違う、壮大な感動が待っている。

というわけで、今回は《モルダウ》だけじゃない《わが祖国》をご紹介したい。

美しいチェコの風景や伝説を描いた「第1曲~4曲」を解説

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まず、第1曲《ヴィシェフラド(高い城)》はプラハを流れるヴルタヴァ川右岸の丘の上に立つ古城だ。吟遊詩人の竪琴を表すハープで始まり、過去の時代の栄光や没落が語られる。

第2曲、《ヴルタヴァ(モルダウ)》は、チェコを代表する大河ヴルタヴァ川の源流から下流までを描く。「小さな水源に発した二つの小川が合流し、森や草原を抜け、祝いごとの風景を通り過ぎる。プラハに入る。ヴィシェフラドの傍らを過ぎ、ついにエルベ川へ合流して消えていく」。

ヴィシェフラドとヴルタヴァ川

第3曲《シャールカ》とは、女性たちが男性たちに対して武力で戦ったという「乙女戦争」の伝説に出てくる女性の名だ。恋人の不誠実に怒り、全男性への復讐を誓うシャールカは、乙女たちの敵ツチラトと仲間たちをだまして酒を飲ませ、彼らを虐殺する。

第4曲《ボヘミアの森と草原から》は、特定の筋書きがあるわけではなく、美しい国土を見るときの感情を描く。木立や草原などあらゆる方向から、楽しげなポルカや、哀愁のある歌が聞こえてくる。

《わが祖国》「キモ」は最後の2曲! ナチスが演奏禁止にするほどのパワーを秘めた作品

手短に4曲を紹介してきた。短すぎて申し訳ないが、実は本稿で言いたいのは、《わが祖国》のキモは、最後の《ターボル》と《ブラニーク》だ! ということだ。

そもそもターボルもブラニークも意味がわからないし、曲想もなんか暗いし……ということで地味な印象があるかもしれないが、この2曲のすばらしさを、ぜひ多くの人に知ってほしい。

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