読みもの
2025.04.24
五月女ケイ子の「ゆるクラ」第15回

ベルリオーズのグルック&ウェーバー推しとシューマンのショパン推し

クラシック音楽に囲まれる家庭環境で育ったイラストレーターの五月女ケイ子さん。「ゆるクラ」は、五月女さんが知りたい音楽に関する素朴な疑問を、ONTOMOナビゲーターの飯尾さんとともに掘り下げていく連載です。五月女さんのイラストとともに、クラシックの知識を深めましょう! 「推し活」編の第3弾は、ベルリオーズとシューマンの推し活を紹介します。

イラスト・執筆
五月女ケイ子
イラスト・執筆
五月女ケイ子 イラストレーター/脱力劇画家

山口県生まれ横浜育ち。幼い頃から家にクラシックが流れ、ロックは禁止、休日には家族で合唱するという、ちょっと特殊な家庭で育つ。特技はピアノ。大学では映画学を専攻し映画研...

お助けマン
飯尾洋一
お助けマン
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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ベルリオーズは好きなオペラを広めようと熱心に推し活した

インパクトのあるタッチのイラストで世に出た私も、小さい頃にはいわさきちひろの絵に憧れ、花と少女たちを繊細なタッチで描いていたことを、今や知る者はいません。お気に入りの絵描きさんの絵を真似して描いてみたのが私のイラスト人生の原点であり最初の推し活でもあったのです。

同じように、作曲家にも同業者である作曲者の推しがいたはず。時に憧れ、影響を受け、愛ゆえの嫉妬だったり憎しみだったりもおぼえる存在がいたからこそ、音楽の高みに登ることができたはず。と、クラシックを聴くと気分が高揚して、少しドラマチックな気分になってしまう五月女です。前置きが長くなりましたが「推し活」第3回目の今回は、「作曲家による作曲家への推し活」について見ていくことにします。

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ベートーヴェンはモーツァルトに憧れて会いに行ったと伝記で読みましたが、あれも今でいう推し活ですよね。それから、ブルックナーを筆頭にリスト、マーラー、フォーレ、ドビュッシーなどなど、影響を受けていない作曲家を探す方が難しいくらいの推されキング、ワーグナー様。それだけ推されれば、自信満々になるのもわかります。

と、ここで、ベルリオーズの研究をしていた担当編集者Mさんが、偏愛気質のあるベルリオーズの推し活について教えてくれました。

医学生の頃からパリ音楽院の図書館でオペラの勉強をしていたベルリオーズ。グルックのオペラに魅せられた彼は、自分を継いで医師になってほしいと思っていた父の願いに反し、音楽家になる決意を固めたそうです。グルックは歌手の技巧優先だったオペラをドラマや音楽を重視したものへと変革し、ワーグナーへとつながるオペラ革命を行なった作曲家。べルリオーズはグルック教の司祭と自分を称し、劇場に観に行っては、どの席の音がいいか、音が割れないかを隈なくチェック。のちに、彼の代表作である《オルフェオとエウリディーチェ》に手を入れてパリで上演し、なんと大成功させてしまいます。

ウェーバーにもハマったベルリオーズは、オペラ《魔弾の射手》に通いつめ、こちらもパリ上演を成功に導くのです。ベルリオーズの布教活動、ハンパないですね。パリではオペラに入れるのが習慣だったバレエのシーンが《魔弾の射手》にはなかったため、彼はウェーバーの代表曲「舞踏の勧誘」をオーケストラ用に編曲しバレエシーンに挿入することに。推しへの愛が強すぎて「これは作者への冒涜なんじゃないか」と、なかなか筆が進まなかったそうですが、現在よく聴かれているのは、このベルリオーズバージョン。作曲家にしかできない手段で、推しの作品を蘇らせヒットさせたベルリオーズの推し活は、今で言う「尊い」「神」っていうやつですね。

ウェーバー/ベルリオーズ編曲:舞踏への勧誘

シューマン→ショパンの片想いな推し活

また、シューマンは、音楽批評の新聞「音楽新報」を設立し、そこでさまざまな作曲家を推していきます。ショパンが17歳のときに書いた《ドン・ジョヴァンニ》の「お手をどうぞ」の主題による変奏曲 の楽譜を見て、これはすごい!! と、小節一つひとつに空想をかけめぐらし、登場人物の動きをイメージした評論を書いてショパンに送ったのですが、シューマンの妄想はショパンにとっては的外れだったようで「ドイツ人から10ページもの評論が届いたけど、大笑いした」と、友人への手紙に書いています。 

その後、対面を果たした二人。ショパンの生演奏に大感激したシューマンは、クララを想って書いた大切な曲を献呈しますが、ショパンはというと、別の人に選んでもらうために用意していた献呈用の曲で余ったほうの「バラード第2番」をお返しに献呈し、しかも「シューマン」の名前の綴りを間違えてしまう始末。シューマンの推しへの想いは、どうも完全に一方通行だったようで……。シューマンさんのエピソードをここでいろいろと聞いているのですが、聞く度に切なさしかありません。

シューマンがショパンに献呈した《クライスレリアーナ》は、クララの父に結婚を反対され苦しんでいた頃に、叶わぬ恋を描いたホフマンの小説の登場人物に自分とクララを投影しながら書いた入魂の一作(たしかにそんな曲集献呈されたら結構重いかも……)。今夜は、この曲集を聴きながら、シューマンの伝わらない想いを重ね合わせ、浸って寝ることにします。

シューマン:《クライスレリアーナ》

イラスト・執筆
五月女ケイ子
イラスト・執筆
五月女ケイ子 イラストレーター/脱力劇画家

山口県生まれ横浜育ち。幼い頃から家にクラシックが流れ、ロックは禁止、休日には家族で合唱するという、ちょっと特殊な家庭で育つ。特技はピアノ。大学では映画学を専攻し映画研...

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飯尾洋一
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飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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