ビートボクサーの歌声にオペラの未来が! 登場曲も紹介〜映画『テノール! 人生はハーモニー』
郊外生まれのラッパーが、バイトの配達にきたパリ・オペラ座で「オペラ」に出会い......。フランスのオーディション番組で大人気のヒューマンビートボクサーMB14の歌声や演技、世界的テノール歌手アラーニャの出演など話題が盛りだくさんの映画『テノール! 人生はハーモニー』が6月9日公開になります。「オペラ」と名のつくものは全部気になる井内美香さんも大好きになったこの映画、その魅力と登場楽曲を紹介してくれました!
学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...
オペラ好きが気になりすぎた「オペラ映画」が封切り
オペラに関係するものには何でも反応してしまう私。好きな色はオペラ・ピンクですし、ケーキの”オペラ”も大好きです。ある日、Twitterをチェックしているとオペラに関係するらしい映画の情報が目に入りました! 題名が『テノール!人生はハーモニー』。こ、これは観なければ!!!
……ということで早速試写におじゃましてきました。この映画は大丈夫です。オペラを知らないあなたも楽しめること間違いなし!
アントワーヌはスシのデリバリーをしながら経理を学ぶ移民系の若者。ラップの才能があり、ラップバトルでは地元を代表して敵対グループと渡り合う日々を送っています。ある日、ひょんなことからパリ・オペラ座アカデミーの名教師に才能を見込まれテノール歌手としての修行を始めたアントワーヌ。でもやがて、彼の愛する兄や友人たちとの生活と、オペラ歌手の卵としての世界のあまりの隔たりに、アントワーヌの生活には大きな亀裂が入り始めて…。
映画ではアントワーヌが本当に自分が求めるものを探し当てるまでが、パリの周辺地区の生活感と、オペラ座を中心としたエリートたちのゴージャスな世界を交互に見せながら、厳しさ、楽しさ、そして何よりも音楽の素晴らしさがしっかりと描かれています。ラップとオペラ両方へのリスペクトもあり、何度でも繰り返して観たくなる、そんな映画です。
映画を「本物」にしている二人の歌手
それにオペラの紹介の仕方もなかなか粋なのです。世界のトップ・テナーである、フランスでもっとも偉大なオペラ歌手のひとりロベルト・アラーニャがさりげなく登場し、オペラ・ガルニエの舞台でドニゼッティ《愛の妙薬》やヴェルディ《リゴレット》からのアリアを歌う場面も印象的。初めて生で聴くオペラ歌手がアラーニャだなんて。アントワーヌがオペラの虜になってしまうのがよく分かります。
アラーニャが歌う《愛の妙薬》〜「人知れぬ涙」、《リゴレット》〜「女心の歌」
もう一つこの映画を本物にしている力、それは主人公を演じたMB14の魅力でしょう。整ったルックスに加えて演技もセンスがいいのですが、ビートボクサーの彼が、この映画の中のオペラ・アリアをすべて自分で歌っています。その歌は聴く人の心を打つ力を持っている。
MB14のルーパーを使ったパフォーマンスにも、近頃はオペラ修行の成果が?
もしかすると劇場で生で聴いたら、彼の声は天井桟敷(オペラ座の一番高い場所にある客席)まで届かないかもしれません。でも何も劇場で聴くだけがオペラではありません。アントワーヌの先生マリーが彼への手紙で望んだように、彼の歌は“星(エトワール)に触れる”ことだってできる力を持っているように思うのです。
映画を彩るアリアをご紹介
最後に、映画に登場する魅力的なオペラ曲の数々を簡単にご紹介します。
アントワーヌがオペラで出会う瞬間、アカデミーの生徒ジョゼフィーヌが歌っているのは、フランスの国民的作曲家ドビュッシーが完成させた唯一のオペラ《ペレアスとメリザンド》〜「わたしは日曜日の正午生まれ」。
マリーに渡されたCDを聴いて、初めてオペラに触れたアントワーヌが感動するメロディはプッチーニ作曲《蝶々夫人》〜「ある晴れた日に」。
ジョゼフィーヌとの二重唱のレッスンの課題曲で、アントワーヌが初めて人前で歌うことになるヴェルディ《椿姫》〜「乾杯の歌」。
マリーのレッスンで、ライヴァルのマキシムと歌うテノールとバリトンの二重唱。《カルメン》で有名な作曲家ビゼー《真珠とり》〜「聖なる神殿の奥深く」。
クライマックスでアントワーヌが歌うのはプッチーニ最後のオペラ《トゥーランドット》から、数あるテノールのアリアでも特に人気を誇る「誰も寝てはならぬ」。
アラーニャによる歌唱
MB14による歌唱
監督:クロード・ジディ・ジュニア
出演: ミシェル・ラロック(『100歳の少年と12通の手紙』、『メルシィ!人生』)
MB14 and ロベルト・アラーニャ
配給:ギャガ
原題:TENOR/101分/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:古田 由紀子
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