2020.06.01
週刊「ベートーヴェンと〇〇」vol.20
ベートーヴェンと無銭飲食事件
年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第20回は、高級避暑地バーデンでのエピソードを紹介します。ご近所トラブルに悩んでいたベートーヴェンが起こした珍事件とは……?
山之内克子 西洋史学者
神戸市外国語大学教授。オーストリア、ウィーン社会文化史を研究、著書に『ウィーン–ブルジョアの時代から世紀末へ』(講談社)、『啓蒙都市ウィーン』(山川出版社)、『ハプス...
バーデンでの滞在場所に悩んでいたベートーヴェン
20代の頃から難聴に悩まされ、また、慢性的な神経性腹痛を抱えていたベートーヴェンは、ウィーンの喧騒を嫌い、しばしば首都近郊の保養地バーデンに長期滞在して作曲に勤しんだ。
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だが、上流ブルジョアが集う高級避暑地バーデンでの生活もまた、けっして晴れやかなものではなかったようだ。ベートーヴェンは1804年から25年までの約20年間、15回にわたりバーデンに逗留しているが、部屋で日夜ピアノを鳴らす音楽家に対して近所からの苦情が絶えなかったため、なかなか常宿を持つことができなかったという。
1821年、近隣トラブルに悩まされていたベートーヴェンは、レストラン「黒鷲亭」で食事中にたまたま、市庁舎通りに格好のアパートが貸しに出されていることを知らされると、喜びと期待に興奮して支払いもせずに席を立ち、一刻も早く家主と話をつけようと一目散に走り出した。
この行動にひどく腹を立てた「黒鷹亭」の主人は無銭飲食として警察に通報し、ベートーヴェンは哀れにも目的地にたどり着く前に逮捕される羽目になる。バーデンの市庁舎での厳しい尋問のあと、翌日になってようやく釈放の手続きが取られたのであった。
1821年に作曲されたピアノ・ソナタ第31、32番
バーデンのベートーヴェン・ハウスの展示より、ベートーヴェンの書斎。
ベートーヴェンが弾いていたピアノも展示されている。
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