読みもの
2020.09.13
鳥木弥生の「歌曲で解決! 恋愛お悩み相談室」第3回

夢に出てきた同性の先輩が気になる!〜ドナウディ「ああ愛する人の」

読者から寄せられた恋愛のお悩みを、メゾソプラノの鳥木弥生さんが歌曲をもとにスパッと解決する連載! 鳥木さんがお悩みに効きそうな歌曲を処方します。
第3回は、魅力的な同性の先輩が夢に出てきて、それから気になってしまうというお悩み。この気持ちは恋なのでしょうか。鳥木さんのアドヴァイスはいかに……?!

恋愛マスター
鳥木弥生
恋愛マスター
鳥木弥生 メゾ・ソプラノ歌手

武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....

マックス・フォルクハル《よき知らせ》(1890年)

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今回のお悩み

私はちょっぴりオタク趣味のある大学生(女性)です。この間、夢の中に、ある女性の先輩が出てきました。夢の中で先輩は男装をしていて、道でチンピラに絡まれている私を助けてくれました。それ以来、その先輩のことが気になって仕方ありません。

 

現実の先輩はコスプレが趣味で、SNSなどに時々写真を上げているのですが、まだ私は実物の先輩のコスプレを見たことはありません。ただ、同じアニメが好きだったり趣味が合うので、時々そんな話はしています。

 

ちなみに、私はこれまで男性としか恋愛したことはありませんし、女性を好きになったことはないので、今先輩を見るとドキドキする自分にものすごく戸惑っています。鳥木さん、この気持ちは恋なんでしょうか。それともただの気の迷いですぐに忘れたほうがいいのでしょうか。このままだと先輩と今までみたいに気軽に話もできなくなりそうで、すごく怖いです……。アドバイスをお願いします!

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恋愛マスターからのおことば

性別よりも、素敵な存在と自分の気持ちを大切に

このご相談にはぜひ、私自身の思い出の曲を処方させていただきたいと思います。

私は幼い頃から「性別」というものを非常に無意味なものだと思っていました。大人になって、世の中のいろんな事情や都合を知って、少しは考え方に変化もありましたが、今の相談者様と同じ学生の頃はまだまだ強く「性差を語るなんてドアホだな」くらいに感じていました。今は「ちょっと想像力が貧困だな」くらいにしか思っていませんけど(笑)。

そんな頃、声楽を学び始めて間もないときに出会った歌曲が、この、ドナウディ作曲「ああ愛する人の」でした。

ちょっとした発表の場があってこの曲の練習を始めたのですが、メロディがとても美しく、自分の低めの声にもよく合うと思ったので、すぐに大好きな曲になりました。

ステーファノ・ドナウディは近代の作曲家なのですが、この曲を含む36曲を「古典様式による歌曲」として発表していて、格調の高さと明瞭なロマンチックさの合わせ技に心をくすぐられる名曲揃い。詩は彼の弟である詩人、アルベルト・ドナウディが書いています。

当時の私は、まだイタリア語もよくわからないながらに詩を読んでいたのですが、詩に、カッコ書きの部分を見つけました。

「彼女を(彼を)探し」「彼女(彼)なしでは」、というような。

その意味を「この曲の歌詞には男性が歌うバージョンと女性が歌うバージョンがあって、あなたは女の子だからカッコの歌詞で、“彼”を思って歌えばいいのよ」と教えられ、当然のごとく私は「なぜそう決めつけるのだ?! なぜ女性は必ず男性を思って歌わなければいけないのだ!」と、大反発。

結局、そのちょっとした発表の場ではこの曲を「彼女を探し」「彼女なしでは」という歌詞で歌ったのでした。

とはいえ、大反発は心の中でだけで、口には出しておらず、もし歌詞の違いを指摘されたら(されませんでした)「あ、うっかり!」というつもりだったのですけれど……(笑)。

思い出話はこの辺りにして……。

考えてみてください。

同じ趣味のお話ができて、見るだけでドキドキできて、その上チンピラからも助けてくれる!…… いや、これは夢の中の話でしたね。

とにかく、そんな素敵な存在、そして、その自分の気持ちは、貴重なものではありませんか?

私には、それよりも男性だ、女性だ、という区別のほうが重要だとは、とても思えません。

私の思い出にお付き合わせして処方したこの歌曲は、不意に引き離された恋人を思う悲しい別れの曲ですが、今の気持ちを自分から無理に引き離したりせず、ぜひ、今までの恋愛とまったく同じように向き合ってみてください。

処方された歌曲

ステーファノ・ドナウディ「ああ愛する人の」(詞:アルベルト・ドナウディ)

「ああ愛する人の」(1918年)歌詞対訳

O del mio amato ben perduto incanto!

Lungi è dagli occhi miei chi m’era gloria e vanto!

 

ああ 愛する人の 失ってしまった魅惑!

私の目から遠く離れた 至福と栄光!

 

Or per le mute stanze sempre la(lo) cerco e chiamo

con pieno il cor di speranze…

 

今は黙した部屋で 私は変わらず彼女(彼)を探し 呼ぶのだ

心に溢れるのは 希望……

 

Ma cerco invan, chiamo invan!

E il pianger m’è sì caro,

che di pianto sol nutro il cor.

 

いや 探しても無駄だ 呼んでも無駄だ!

泣くことが こんなにも愛おしい

涙だけが ただ 私の心の糧

 

Mi sembra senza lei(lui), triste ogni loco.

Notte mi sembra il giorno, mi sembra gelo il fuoco.

 

彼女(彼)がいないと どんな場所も悲しい

昼はまるで夜のようで 火はまるで氷のようだ

 

Se pur talvolta spero di darmi ad altra cura,

sol mi tormenta un pensiero:

 

ときおり ほかのことでこの身を癒そうとしても

苦しめられるだけなのだ ひとつの思いに

 

ma senza lei(lui), che farò?

Mi par così la vita

vana cosa senza il mio ben.

 

いや 彼女(彼)なしでどうするのだ?

人生は私にとって こんなにも

無駄なのだ あの人がいなければ

恋愛マスター
鳥木弥生
恋愛マスター
鳥木弥生 メゾ・ソプラノ歌手

武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....

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