モーツァルトの3つのピアノ・ソナタは「秘密のオペラ」〜アンヌ・ケフェレック
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
これまで「ラ・フォル・ジュルネ」に欠かせない音楽祭の顔として、毎年のように来日してきたフランスのピアニスト、アンヌ・ケフェレックが、モーツァルトのピアノ・ソナタ集(第13番K.333、第12番K.332、第11番K.331「トルコ行進曲付き」)をリリースした。
CDのブックレットには、ケフェレックの執筆したエッセイが英独仏の3か国語で掲載されており、大変興味深い内容なのでご紹介したい。
ケフェレックは冒頭で、フェルメールの名画「音楽の稽古」で女性が弾いているヴァージナル(チェンバロの一種の鍵盤楽器)に書かれているラテン語「音楽は喜びの伴侶であり、悲しみの薬でもある(Musica laetitiae comes, medicina doloris)」という言葉は、「きっとモーツァルトを喜ばせたでしょう」と述べる。
次いでケフェレックは、「レクイエム」や「ドン・ジョヴァンニ」の悲劇性に触れながらも、モーツァルトが亡くなる最期のときには、「魔笛」のパパゲーノが歌うアリアをもう一度聴くことができなかったことを悔やんでいたエピソードを挙げ、結局のところはモーツァルトの人生と音楽は、喜びと愛のほうが勝っていたと語る。
今回の3つのソナタについて、ケフェレックは「生命への愛と知識」「春と秋のあいだの詩的なあいまいさ」であり、言葉のない「秘密のオペラ」なのだと言う。作品番号とは逆に収録した理由は「別の光から風景を見ることができる」から、とも。
ケフェレックに以前インタヴューしたとき、「ピアノを弾くときに何よりも大切にしているのは歌うこと」と強調していたのを思い出す。このアルバムもそういう演奏で、丸みのある柔らかい音で、成熟した大人の境地によるモーツァルトを堪能できる。
中止されたラ・フォル・ジュルネTOKYO2020についてのケフェレックの日本語メッセージと演奏動画
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