ジャズとクラシックを融合させたカプースチンと交流——川上昌裕のピアノ全曲録音と本
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
大好きだ、という人もたくさんおられることだろう。
ジャズとクラシックの融合、という意味では、ウクライナ出身の作曲家・ピアニストのニコライ・カプースチン(1937-2020)ほど、それを徹底的にやってのけた人がいるだろうか?
響きとしては完全にジャズ。
ベテランのジャズ評論家に聴いてもらっても「これは紛れもなくジャズだと思う」と断言するほど、ジャズなのだ。
それなのに、クラシック。
まるで即興演奏のように聞こえるけれど、ソナタ、練習曲、前奏曲、変奏曲、そして協奏曲など、古典的な様式で書かれている作品も多く、何よりも、すべての音が完全に記譜されている。手書きの自筆譜を私も読んだことがあるが、浄書する必要をまったく感じさせないくらい、丁寧で明確な筆跡からは、緻密な音楽的思考がしのばれた。
ジャズ風の即興演奏ができないピアニストでも、カプースチンの楽譜を手に入れれば、演奏技術は高度なものを要求するけれど、しっかりジャズを演奏できる——カプースチンが21世紀のピアノ界を席巻したのも無理はない。
とにかく、クールでかっこいい。
*
そのカプースチンが惜しくも、去る7月2日に亡くなった。
作曲家本人と親交の深かったピアニスト、川上昌裕さんの著書『カプースチン ピアノ音楽の新たな扉を開く』(ヤマハミュージックメディア/2018年)を読むと、カプースチンの作品に対する厳しい姿勢と、シャイな人間性が伝わってきて、いっそう興味をかきたてられる。
エピソードも豊富で、カプースチンの大好物の激辛ししとうがらしのこと、朝5時に起きて午前中に作曲し、昼食時にはウォッカ等を飲むが、夕食には飲まず12時には就寝するといった逸話も面白い。
一番の人気作「8つの演奏会用エチュード」をはじめとする、カプースチンの代表的な名曲の紹介も充実しているし、演奏のためのガイド(ジャズのビート感やスウィング、テンポ感、コード進行への意識の持ち方など)は、これからカプースチンを演奏したいという人にはきっと参考になるだろう。
現在、川上さんは、オクタヴィアレコードから『カプースチン ピアノ作品全曲録音』をリリースし続けている。カプースチンの膨大な作品群には知られていない曲も多く、まだまだ謎の多い作曲家であるが、それを探求しようとする聴き手にとって、これからは、川上昌裕さんの存在は、ますます大きくなっていくに違いない。
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