2020.09.21
林田直樹のミニ音楽雑記帳 No.29
フルトヴェングラーの伝説のライブが蘇る! 1953年の《フィデリオ》
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
長らく待たれていた幻の名盤が、35年ぶりに最新デジタル・リマスタリングによって復活した。20世紀ドイツ最大の指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886-1954)が、ウィーン国立歌劇場の公演を指揮したオペラ《フィデリオ》のライヴだ(1953年10月12日)。
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会場はあの国立歌劇場ではない。ピットに入っているのはいつものウィーン・フィルだが、第2次世界大戦で破壊されて修復中だった時期なので、アン・デア・ウィーン劇場での公演となっている。
アン・デア・ウィーン劇場。1801年に開館。モーツァルトのオペラ《魔笛》の台本を書き、自らパパゲーノ役で出演したエマヌエル・シカネーダーが初代の芸術監督をつとめ、ベートーヴェン《フィデリオ》もここで初演された。
これがこの録音では逆に幸いしている。
客席数は約1000席で、馬蹄形の伝統的な劇場。
録音から伝わってくるのは、この狭いくらいに親密な空間で、生き生きと演じ、表情豊かに歌う歌手たちの様子、オーケストラや合唱の響きの濃密さである。
特に印象的なのが、第2幕のフィナーレの前に挿入される序曲「レオノーレ」第3番の白熱した演奏と、その後の嵐のような拍手、歓声、そして足を踏み鳴らす興奮ぶり。劇場全体が揺れている。
フルトヴェングラーはこう語っている。
音楽とは何より共有体験でなければならない。公衆のない音楽とは、存在不能でしょう。音楽は、聴衆と芸術家との間にある流動体です。音楽は、建築物でも、抽象的発展でもなく、生きた人間のあいだに浮動する流動体です。そして、この運動により意味をもつのです
——『フルトヴェングラー』吉田秀和著 河出文庫 160ページ
ライヴであることの本質を伝える、こうした歴史的録音はいまもなお新鮮であり、音楽と聴衆との関係について、改めて考えさせてくれる。
林田直樹のミニ音楽雑記帳
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