クライバー、バレンボイム、ムーティらの秘話が満載!広渡勲『マエストロ、ようこそ』
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
いったいなぜ、欧米から超一流の演奏家や演奏団体が、続々と来日してきたのだろう。
組織の力? スポンサーが拠出する巨額のお金? 何らかの特別なコネクション?
もちろんそれらも大事かもしれないが、もっと大切なものがあるということが、『マエストロ、ようこそ』(広渡勲著、上坂樹 編集協力/音楽之友社/2020年12月)を読むとよくわかる。
それは、現場の最前線にいる人が、どれだけ必死かということだ。
アーティストを、いかに人間として深く理解し、とことん付き合おうとしているかだ。
かつて、日本舞台芸術振興会(NBS)専務理事・東京バレエ団総監督の故・ 佐々木忠次さんのもとで、カルロス・クライバーをはじめ、ズービン・メータ、ダニエル・バレンボイム、リッカルド・ムーティなど名だたるマエストロを次々と担当し、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、ベルリン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、そして20世紀バレエ団、パリ・オペラ座バレエ団……といった名門カンパニーの招聘に従事し、表も裏も知り尽くしたプロデューサーの広渡勲さんならではの、驚きの逸話が本書では次々と明かされる。
とりわけ、1987年のベルリン・ドイツ・オペラ来日公演でのワーグナー《ニーベルングの指環》全4部作・日本初演にまつわるエピソードは、息もつかせぬ面白さである。
独裁者のように権力をふるう大演出家ゲッツ・フリードリヒと、自尊心の強いスター・テノールのルネ・コロとの、火花の散るような確執。その間に立って調整し、ベルリンと東京・神奈川の劇場機構の相違を乗り越え、無事上演へとこぎつけるまでの紆余曲折の面白いこと!
表に見える綺麗な夢の世界だけが舞台芸術なのではない。この泥臭く人間的な裏の出来事があってこそのオペラやバレエである。本書を読めば、アーティストのみならず、舞台に携わる人々すべてに対するリスペクトを新たにできることだろう。
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly