グレン・グールドが蘇る!~石丸幹二朗読による『イノック・アーデン』や若き日の録音
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
カナダ出身のピアニスト、グレン・グールド(1932-82)は、いまでこそ時代を超えて広く愛される伝説の人だが、生前はクラシック界きっての異端児、奇才、ゲテモノ扱いだった。
特に異彩を放っていたのが、リヒャルト・シュトラウス作曲のピアノ伴奏付き朗読メロドラマ『イノック・アーデン』(1961年録音)だった。アルフレッド・テニスンの物語詩を名優クロード・レインズが朗読し、グールドがピアノを付けているのだが、英語なので日本人にはややとっつきにくい代物だった。
ところが、このたび俳優・石丸幹二が、原田宗典による朗読用の訳(岩波書店、2006年)を用いて、グールド演奏のオリジナル・マスターテープに合わせて日本語で朗読したCDが発売された。
これが、手に汗握る迫真の内容だった。
二人の男と一人の女をめぐる恋愛ドラマであると同時に、海を渡る壮大な冒険譚であり、オペラにも匹敵するような胸躍るスペクタクルとして、一気に『イノック・アーデン』が身近になった。20世紀最大の作曲家の一人としてR.シュトラウスを高く評価していたグールドの真意が、ようやくこれで実感できる新たな名盤の誕生と言っていいだろう。
さらに、CBSとの専属契約以前にグールドがカナダの放送局CBCで録音していた一連の演奏が、最新デジタル・リマスタリングで甦るシリーズ『グレン・グールド 若き日の記録』が第1集から第4集までリリースされた(Altus/キングインターナショナル)。
収録曲は、有名なデビュー盤とは異なるバッハ「ゴルトベルク変奏曲」を筆頭に、「イタリア協奏曲」「15のシンフォニア(3声のインヴェンション)」「パルティータ第5番」、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第28番」「エロイカ変奏曲」、「6つのバガテルop.126」「ピアノ三重奏曲《幽霊》」「ピアノ協奏曲第3番」など、いずれも古いながら聴きやすい音質に改善されている。
これらは1952~54年(20~22歳)という時期のものだが、すでにグールドの知的な個性が完全に確立されていて、若く覇気にあふれた面と、ぞくっとするほど静かで瞑想的な面と、その両極端に惹かれずにはいられない。
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