勅使川原三郎芸術監督2年目のシーズンは舞台芸術に注力〜愛知県芸術劇場
名古屋に立つ愛知県芸術劇場は、華やかな柿落とし公演で開館した1992年以来、3つのホールを活用した幅広い企画を行なうほか、地域に密着した普及や育成の活動にも力を入れている。勅使川原三郎の芸術監督2年目に向けて、いまの状況や注目の公演をシニアプロデューサーの水野学さんに伺った。
1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...
3つのホールを備える、中部のコンテンツ発信地
愛知県芸術劇場は1992年、東京の新国立劇場より5年早くオープンしたオペラハウスを有する公共ホールで、間もなく30周年を迎える。
「日本初の多面舞台を有する劇場としてオープンし、海外からも歌劇場を招へいして制作のノウハウを学ぶなど、それなりの苦労もありました」と、シニアプロデューサーの水野学さんは振り返る。
目下は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大を受け、活動停滞を余儀なくされているが、2021年4月には「芸術監督」ポストに就いた舞踊&演出家の勅使川原三郎の2年目のシーズンが始まり、コロナ禍収束後をにらんだ、さまざまな試みに挑んでいく。
——バイエルン州立歌劇場の1992年日本公演、市川猿之助(現在の猿翁)の演出とヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮のリヒャルト・シュトラウス《影のない女》で柿落としを行なった過去も踏まえ、愛知県芸術劇場をオペラハウスとする見方も長くありましたが、実際にはどうなのですか?
水野 当劇場には、オペラやバレエの大規模公演に適した大ホール、音響に優れたコンサートホール、セリフが聴き取りやすい演劇向けの小ホールと、それぞれの方向性がはっきり見える3つの舞台を備えています。
自主事業全般としても、お客様を入れての公演だけに限定していません。普及啓発、人材育成を加えた3本の柱を立てています。公演以外の2つは地道で時間はかかりますが、中部圏の中核を担う劇場として、東京のコピーにとどまらないコンテンツを制作し、地域に広げていくのも大切な使命なのです。
愛知で質の高い舞台を制作して他の地域と連携をはかり、全国へ展開していきたいとの思いが、一貫してあります。
日本人アーティストの実力も見直され、コロナ禍を好機に
——コロナ禍だから生まれた新しい楽しみ方が可能な企画、配信などはありますか?
水野 もちろん、既存コンテンツや無観客公演の動画などのネット配信は行ないました。愛知の場合、他のホールや劇場に遅れをとったかもしれませんが、内部の知恵や国のさまざまな補助金を組み合わせ、全国の流れにはついていくつもりです。
コアなファン層を超え、より多くの方々に情報をお届けし、新しい聴衆・観客を獲得するうえで、従来のチラシや郵便、メールだけでは不十分と痛感していた時期とも重なりましたので、やるだけのことはやります。
それでも会場に足を運んでいただき、生の音に触れて得られる臨場感は貴重で、ライブに勝るものはありません。幕間に物知りの人の話を聞いたり、ビュッフェで喉を潤しながら歓談したりも含めた時間の過ごし方こそが、劇場文化といえるのではないでしょうか。
コロナ禍で雌伏の時期なればこそ、チケットの販売方法や価格設定など無数のチェックポイントに可能な限りの再検討を加え、ポストCOVID-19 (コロナ後)の自主企画を練りつつあります。
——劇場の立地は名古屋市内きっての繁華街の栄。地下鉄駅やバスターミナルとも直結し、美術館とも一体に運営するなど、地域のランドマークの機能を担って久しいです。当然、貸し会場としても人気の高い施設でしたが、現状はいかがですか?
水野 これまで名古屋本拠のマスコミは全国的にも元気がよく、文化事業も盛んに手がけてきました。当劇場を会場として借りることはもちろん、提携公演も行なうなど“ウィン・ウィン(両得)”の関係を築いているのですが、目下はコロナ禍で厳しい状況です。演奏家もオーケストラも海外から来演できないまま、クラシック音楽の中心である70~80歳代のお客様が実質激減、戻りも鈍い状態が続いています。
ただ、昨年夏のコンサート再開後、日本人中心の公演が続く過程で、国内アーティストの水準の高さが再認識されつつあり、過度の“外タレ”依存を見直す好機にもなりましたので、決して悪いことばかりではないと思います。
ダンサー、振付家、演出家の勅使川原三郎が率いる2021年の注目は?
——2021年シーズンの主催事業のうち、オススメの公演を3つ、教えてください。
水野 勅使川原三郎芸術監督の2年目ということで、ある程度ダンスに注力したラインナップになっています。
とりわけ7月24日と25日に大ホールで初演する宮沢賢治原作のダンス『風の又三郎』は、勅使川原さんが構成、演出、振付を手がける新作です。東海圏にゆかりのあるバレエ経験者をオーディションで選び、ファミリー向けに上演する計画です。
ダンスではもう1公演、スペイン人ダンサーのイスラエル・ガルバンが6月23日と24日にコンサートホールで行なう予定の《春の祭典》がお勧めです。2台ピアノとダンスのコラボレーションをお楽しみいただけるダンス・コンサートになります。
フラメンコの新たな世界を切り拓くイスラエル・ガルバンの《春の祭典》パリ公演のダイジェストより
日生劇場との共催公演でもっとも大がかりなものは、10月30日、大ホールでのオペラ《ラ・ボエーム》(プッチーニ)です。伊香修吾演出の日本語版で、園田隆一郎が名古屋フィルハーモニー交響楽団を指揮、ソリストには愛知ゆかりの歌手もいます。
本公演の2日前、28日には「劇場と子ども7万人プロジェクト」(1学年あたり約7万人いる愛知県の小・中学生全員が、一度は劇場を訪れることを目指すもの)の枠で、同公演に愛知県内の中学生を招待します。
[運営]公益財団法人 愛知県文化振興事業団
[座席数]大ホール 2,480席/コンサートホール 1,800席/小ホール 標準282席
[オープン]1992年
〒461-8525 愛知県名古屋市東区東桜1丁目13−2
[問い合わせ]Tel.052-971-5609(代表)
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