いち早くワーグナーを無観客上演! オペラや教育普及に情熱をそそぐ〜びわ湖ホール
湖畔の雰囲気を生かした春の音楽祭や、充実したオペラ公演で、県内外からファンが訪れる滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール。専属のびわ湖ホール声楽アンサンブルが、多くの企画に参加しているのが特色だが、どんな役割を果たしているのだろうか。
1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...
最大規模の事業、ワーグナー「リング」最終章を無料ストリーミング配信
京都からJR琵琶湖線(東海道本線)で2駅。大津駅で降り、趣ある県庁や落ち着いた街並みを眺めつつ、びわ湖ホールへ向かうのが好きだ。20分ほどの散策。
バスやタクシー、京阪電車も便利だが、心ときめくオペラやコンサートの前に、少しだけ時間に余裕をもって街歩きを楽しんでみたい。琵琶湖のほとり、なぎさ通りに立てば、神殿を思わせる壮大な建築が視野に入ってくる。劇場へ来た! 早くも胸ときめく。
琵琶湖畔に立つ滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールといえば、3月7、8日にYouTubeで生中継/無料ライブストリーミングされ、2万人を超える(のべ36万8000人)視聴者から「喝采を博した」ワーグナーの気宇壮大な《神々の黄昏》全3幕が記憶に新しい。
これは2017年に始まった、びわ湖ホール プロデュースオペラ《ニーベルングの指環》4部作のグランドフィナーレだ。無観客での上演となったが、演奏のクオリティも生配信の英断も、日本のパフォーミングアーツの歴史に燦然と輝く。
《神々の黄昏》上演の前に、びわ湖ホール事業部のチーフプロデューサー舘脇昭さんにお会いした。まず話題となったのは、同ホールが内外に発信してきたプロデュースオペラ《ニーベルングの指環》だった。
「ホールのオープン(1998年)から続けているプロデュースオペラは、自主制作を大事にしているびわ湖ホールの事業のなかで、最大規模のものです。びわ湖ホールは創造する劇場なのです。
2017年からワーグナーの大作《ニーベルングの指環》——《ラインの黄金》《ワルキューレ》《ジークフリート》を毎年上演し、今年の《神々の黄昏》で完結します(前述の無観客上演、生配信)。おかげさまで好評です」
「完売は難しいかな」(舘脇氏談)と思った昨年の《ジークフリート》も1週間で売り切れ、今年の《神々の黄昏》は発売初日にほぼ完売した。3年前の《ラインの黄金》のときにとったアンケートでは、24%が滋賀県内、20%が京都、同じく20%が大阪、13%が関東からのお客さまというデータだった。
地元での活動の要、びわ湖ホール声楽アンサンブル
「地域の皆さんに愛されるホール。これは、びわ湖ホールのモットーですから、アンケート結果は嬉しかったですね。
地元の子どもたちや地域の方々に音楽をお届けし、まずは親しみやすいオペラへ来ていただく。そして、大ホールのワーグナーといった本格的なオペラへという、私たちが目指してきた形が生まれています」
そこで大切になるのが、16名のプロの声楽家によって構成された、びわ湖ホール声楽アンサンブルだ。
「びわ湖ホール声楽アンサンブルは、多彩な公演に出演します。年間で70から80公演。オペラでは、ソリストとしても合唱としても出演します。日本の歌やあらゆるジャンルの声楽曲を取り上げる定期公演もあります。子どもたちのための学校巡回公演も大切な仕事です。
オペラ、大みそか恒例のジルヴェスター・コンサートなど、さまざまなステージ、普及事業に関わる、びわ湖ホール声楽アンサンブルは、まさにびわ湖ホールの基軸なのです」
びわ湖ホール声楽アンサンブルの東京公演(2019年9月/東京文化会館 小ホール)
音楽を、舞台を愛してやまない舘脇氏の話は尽きない。
「芸術監督に沼尻竜典、NHKのニューイヤーオペラコンサートに出演するまでになったびわ湖ホール声楽アンサンブルという劇場専属の団体を有していることが、びわ湖ホールの強みであり誇りです。
加えて、京都市交響楽団をはじめとする関西のオーケストラ、実力ある指揮者たち、ソリスト、舞台制作のプロフェッショナルたちとの信頼関係もあります」
華やかな「プロデュースオペラ」、2021年3月はワーグナーのロマンティックな歌劇《ローエングリン》(2021年3月6日・7日)。「沼尻竜典オペラセレクション」は、ロッシーニの楽しい歌劇《セビリアの理髪師》(11月28日・29日)。
ビギナーのファンにも喜ばれる「オペラへの招待」では、沼尻竜典作曲の《竹取物語》が再演される(7月23〜26日)ほか、モーツァルトの《魔笛》も控える(2021年1月28〜31日)。
「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2020」では、富豪の遺言騒動も楽しいプッチーニの《ジャンニ・スキッキ》(ラウレッタのアリア「私のお父さん」が有名)も上演される(4月26日)。ちなみに、「近江の春びわ湖クラシック音楽祭」といえば、「かがり火コンサート」も名物で、多くのファンに愛されている。
オペラだけでもこの充実だ。
「オッフェンバックのオペレッタ《天国と地獄》やワルツ王ヨハン・シュトラウスの《こうもり》といった親しみやすいオペラに興味をもったお客さまが、先ほどもお話したように、ワーグナー、それに海外招聘オペラ、オーケストラのコンサートに来てくださるようになりました。びわ湖ホール声楽アンサンブルを聴いて、リピーターになってくださる方もいます。
これからも、子どもたちや地域への思いを大切にし、お客さまに、ちょっとわくわくした感覚を味わってほしいと思っています。多くの公演をお届けし、生活に彩りを添えるホールでありたいですね。
劇場に明かりが灯っている時間を1日でも多く増やしたいと思っております」
ナビゲーターがオススメする3つの公演
1. 近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2020のオペラ《ジャンニ・スキッキ》(演奏会形式)
日程: 4月26日(日) 大ホール
プッチーニの約1時間の一幕もののコメディを音楽祭で。青山貴、石橋栄実、福原寿美枝ほか、びわ湖ホール四大テノールの二塚直紀、清水徹太郎、山本康寛、竹内直紀が揃い踏み!
音楽祭自体も百花繚乱、素晴らしい。
2. 沼尻竜典オペラセレクション NISSAY OPERA 2020 ロッシーニ作曲 歌劇《セビリアの理髪師》
日程: 11月28・29日(土・日) 大ホール
アルマヴィーヴァ伯爵に、今をときめくテノール中井亮一、小堀勇介が登場(ダブルキャスト)。ロッシーニの、そしてベルカント・オペラのスペシャリストたちだ。
3. びわ湖ホール プロデュースオペラ《ローエングリン》
日程: 2021年3月6日・7日(土・日) 大ホール
沼尻竜典が指揮する京都市響、粟國淳の演出、福井敬、横山恵子、安藤赴美子、黒田博、谷口睦美、斉木健詞ほかの出演。《ニーベルングの指環》を完走/完奏した沼尻竜典と京都市響が、さらなる高みを目指す。
[運営](公財)びわ湖芸術文化財団
[座席数]大ホール 1848席(オーケスラピット設営時 1712席)
親子室 2室
中ホール 804席
小ホール 323席
[オープン]1998年
[住所]〒520-0806 滋賀県大津市打出浜15−1
[問い合わせ]Tel.077-523-7136
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