音楽の新しい風が集まるボンクリ・フェス2020——そこにかける藤倉大の思いとは?
「ボンクリ」——そのキャッチーな名前はすっかり定着してきたが、「ボーン・クリエイティヴ」=「人間は皆、生まれつきクリエイティヴだ」という意味のフェスティバルで、今年4回目となる。9月26日(土)、会場である東京芸術劇場の各所には、朝から晩まで新しい音があふれそうだ。
今回の聴きどころやボンクリへの思いを、アーティスティック・ディレクターの藤倉大さんに伺った。
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
否定文禁止! のルールでより良いものを
いよいよ今年の「ボンクリ・フェス2020」(9月26日、東京芸術劇場)の開催が迫ってきた。
2017年に始まって以来、早くも4年目。世界中の新しい音に出会える、東京の音楽界になくてはならない独自の存在感を放つ行事として、ますます愛されるようになってきた。若い人や、家族連れがたくさんやってくる、気軽な雰囲気もいい。
昨年のボンクリ・フェスのステージより、テリー・ライリー作曲「In C」の映像。2020年もスペシャル・コンサートにアンサンブル・ノマドとノマド・キッズの管弦楽のほか、八木美知依の箏、大友良英らが参加予定。
他のどの音楽祭とも違う「ボンクリ」の楽しさを、アーティスティック・ディレクターの作曲家・藤倉大さんの言葉を引きつつ、メインのスペシャル・コンサートを軸に、今年の聴きどころをご紹介していこう。
1977年大阪に生まれ、15歳で渡英。数々の作曲賞を受賞。ザルツブルク音楽祭、ルツェルン音楽祭、BBCプロムス、バンベルク響、シカゴ響、シモン・ボリバル響などから作曲を依頼され、共同委嘱は多数。
©Seiji Okumiya
藤倉大さんによれば、今年の「ボンクリ」は「否定文禁止!」というルールを作っているのだそうだ。いま、ネガティヴに考えるのはよくないということで、当初予定されていたプログラムよりも「より良いものになりました」というノリで、日本の伝統音楽から即興演奏やエレクトロニクス(電子音楽)まで、内容的にもさらなる充実が図られている。
藤倉大さんの精神が表現された2作品
スペシャル・コンサートでは、藤倉さん自身の楽曲「Gliding Wings」(日本初演)と、「Longing from afar」(ライブ版・世界初演)が、最初と最後に組まれている。
これはやはり聴き逃がせない。
前者の「Gliding Wings」は、「2羽の鳥が喧嘩でも競争でもなく、何らかのルールがあるように、仲良く空を飛びながらさえずっている様子、ヒエラルキーのない生き物の動きに憧れる」ような曲だという。2羽の鳥となるクラリネットは、吉田誠と菊地秀夫が演じ、管弦楽はアンサンブル・ノマド。
これはいかにも藤倉さんらしい考え方だと思う。藤倉さんにボンクリの話をうかがっていて感じるのは、とにかく「管理したくない」、信頼して「全面的に任せる」という意識の強さである。
さらに付け加えると、「自分の曲はできるだけ少なく」、「大御所はプログラムしないように」、バランスよく「若い人を多めに」。そこからおのずと導き出されてくるのは、音楽の新しい風が吹きやすい環境がボンクリでは用意されているということだ。
それは、藤倉さんの音楽とも、深いところでつながっている意識ではないだろうか。
後者の「Longing from afar」は、世界を覆うコロナ禍のなかで、委嘱なし、出版なしで、リモート用に作られたものである。
この神秘的で美しい作品を日本語であえてタイトルを言い表すと、「遠くから想う」。楽譜もネット上で公開されており、合唱、オーケストラ、マリンバ、尺八、雅楽など、さまざまなアンサンブルによる演奏が次々とアップされている。2か月で世界各国から11グループほどの演奏団体からの申し込みがあったそうで、いまもなお広がりを見せている。
この曲に対する藤倉さんの基本的姿勢は、「独占しない」「一人歩きしていい」。自由度の高い、クリエイティヴな、人と人とのつながりを志向すること——それもまた、藤倉さんの音楽の大きな特徴であり、「ボンクリ」の特徴ともいえる。
藤倉大「Longing from afar」オーケストラ・バージョン
作曲家・蒲池愛への追悼演奏
今年のボンクリのスペシャル・コンサートでもうひとつ、去る5月末に亡くなった作曲家・蒲池愛と永見竜生[Nagie]の「between water and ray ―グラスハープとライブエレクトロニクスのための―」が追悼演奏されるのも注目である。
CMやアニメ、実験音楽の分野で活躍していた作曲家・蒲池愛が亡くなったことは、海外でも反響が大きかった。ボンクリにも初回から関わっていた蒲池の作品について、藤倉さんも「僕もこういう曲を書いてみたい。どこまで書かれているかわからないくらい、実験的要素の強いこうした曲には、あこがれています」とその冒険的で謎めいた作品についてコメントしているから、楽しみである。演奏は大久保利奈(グラスハープ)と、永見竜生[Nagie](エレクトロニクス)。
蒲池愛&永見竜生「between water and ray ―グラスハープとライブエレクトロニクスのための―」2010年公開の動画
邦楽との異色コラボを入口に
最後にひとつだけ補足を。
全体を見渡すと、実は今年の「ボンクリ」には邦楽が特に多い(これまでの回も、必ず邦楽があった)。しかも、伝統的な古典曲をやるのではなく、よりサウンド的に面白い、実験的な曲が多い。登場するのも異色のコラボを得意とするような、気鋭の若手邦楽演奏家が中心だ。
日本の音楽祭だから、考えてみれば当たり前なのだが、尺八、箏、三味線などの音が、普通にあるのは、とても自然で、いい傾向だ。日本人にとっても、それらは新鮮でありつつ、どこか懐かしい音でもあるのだから。
というわけで、今年のボンクリ、チケットは持っていないけど、当日ちょっと様子を覗いてみようという人には、ボックスオフィスの上のステージを使うアトリウム・コンサートをまずはチェックしてみてはいかがだろう。1日に4回、10分程度の無料コンサートをおこなうが、そこには木村麻耶(箏)、藤原道山(尺八)、東野珠実(笙)、本條秀慈郎(三味線)などが登場する。こういう入口からボンクリの世界に入ってみてもいいのでは?
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