イベント
2018.08.16
“Born Creative” Festival 2018 〜世界中の新しい音が聴ける1day音楽祭

想像を超える音なのか? ボンクリ・フェス2018に向けた音の実験現場に潜入!

9月24日(月・祝)に開催されるボンクリ・フェス2018。赤ちゃんからシニアまで、朝から晩まで1日中、東京芸術劇場内の各所で新しい音を楽しめる音楽祭は、一風変わった体験ができそうだ。
クラシックやジャズという枠組みがなく、もしかすると音楽と言いづらいものもあるかもしれない。そんな新しい音のコンセプトや今年の見どころを、昨年の初回を体験した音楽家、有馬純寿さんに案内していただく。8月某日のリハーサルならぬ「実験」現場の様子や、今回のプログラムに予定されている動画も要チェック!

ナビゲーター
有馬純寿
ナビゲーター
有馬純寿 音楽家

1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、現代音楽、即興演奏などジャンルを横断する活動を展開。ソリストや室内アンサンブルのメンバーとし...

写真上:安宅真樹

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“Born Creative”=変な音が好きだった子どもの感覚を楽しめる1日!

去年5月に東京芸術劇場で突如開催され話題を呼んだ1日限りの音楽フェス、「ボンクリ・フェス」が、今年も9月24日に開催されることになった。このフェスを一言でいうなら「大人から赤ちゃんまで、だれもが世界中の[新しい音]を楽しめる1 dayフェス」だ。

ディレクターはいまや世界各地の現代音楽祭で引っ張りだこの1977年生まれの作曲家、藤倉大。世界中のオーケストラからの委嘱を抱える作曲家ではあるが、坂本龍一や元JAPANのデヴィッド・シルヴィアンとのコラボなど、ジャンルにとらわれない活動も彼の特徴だ。また10月に日本初演されるスタニスワフ・レムの名作SF『ソラリスの陽のもとに』を原作としたオペラ《ソラリス》の作曲家として名前を目にした人もいるのではないだろうか。

藤倉大、ヤン・バング、ニルス=ペッター・モルヴェル
ボンクリ・フェスのアーティスティック・ディレクターで、作曲家の藤倉大(中央)。ライブ・リミックス後に、ヤン・バング(左)、ニルス=ペッター・モルヴェル(右)と。2017年のステージより。
©2 Faith Company

さて、このフェスティバルのタイトルである「ボンクリ」は「ボーン・クリエイティヴ」の略だ。人は生まれながらにしてクリエイティヴ性を必ずもっている、その刺激となる新しい音楽の数々を、ジャンルを超え紹介したいというのが藤倉のメインコンセプトだ。

去年の「ボンクリ」では、池袋の東京芸術劇場を舞台に、藤倉が世界各地よりセレクトしたクラシック、雅楽、電子音楽や実験的ジャズなどの演奏やワークショップが、会場内の各所で朝から夜まで繰り広げられるイベントとなった。

印象に残るのは、クラシックや現代音楽という言葉から連想されがちな、一部のマニアックな層のためのイベントという雰囲気は微塵もなく、多様な音楽ファンが集まっていたことだ。そしてみな、藤倉がジャンルを問わず集めてきた「新しい音」を自由に楽しんでいたことだった。

今年の「ボンクリ」も同じく東京芸術劇場のさまざまな場所を使い、コンサートやワークショップなど多様な企画が開催される。

日中は、「チェロの部屋」「合唱の部屋」「パーカッションの部屋」「ノルウェーの部屋」「ノマドの部屋」「ルシエの部屋」と、ジャンルや演奏家にスポットを当てたプロジェクトが用意され、45分間のコンサートやワークショップが開催される。これらの部屋には、同日夜の「スペシャル・コンサート」もしくは「スクリームの部屋」のチケットがあれば参加可能だ(各部屋定員制、要事前予約)。

また、部屋の4隅にスピーカーを設置して電子音楽を鑑賞できる「電子音楽の部屋」も設けられる。この「電子音楽の部屋」(11時から18時、アトリエイースト/アトリエウエストにて入退室自由)のほか、イサオ・ナカムラ(打楽器)、佐藤洋嗣(コントラバス)、黒田鈴尊(尺八)といった現代音楽の名手たちによるアトリウム・コンサートは無料で体験できるので、まずはこれらを聴き、ボンクリを体験してみるのもよいだろう。

新しい音がギュっと詰まった夜のスペシャルコンサート

夜のスペシャル・コンサートでは、昨年に続き現代音楽アンサンブル、アンサンブル・ノマドや「ノルウェーの部屋」、「パーカッションの部屋」、「チェロの部屋」、「合唱の部屋」などの音楽家たち、そして同じくスペシャルゲスト的に大友良英も加わり、現代音楽から即興演奏、坂本龍一の作品などオーバージャンルの演奏を繰り広げる。
ボンクリのエッセンスがすべて詰まったこのコンサートでの聴きどころは「多様な響きの体験」となるだろう。

コンサートは合唱作品から始まるが、エトヴェシュの大型ティンパニのソロ曲、そしてパイプオルガンを打楽器を鳴らす装置としてしまうルシエの作品と音響のおもしろさ満載の作品が続く。

また、坂本龍一の珍しい合唱作品《Cantus Omnibus Unus》も演奏され、さらにそれを元にノルウェーチームがライブ・リミックスを試みる。

コンサートの最後は、シカゴ交響楽団およびインターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブル(ICE)のチェロ奏者、カティンカ・クラインをソリストに迎え、藤倉大「チェロ協奏曲」の日本初演で締めくくられる。演奏の難しさで知られる藤倉作品だが、カティンカ・クラインの演奏を想定して書かれた超絶技巧の作品を、彼と長年コラボを重ねてきている彼女がどのように演奏するかが楽しみだ。

スペシャル・コンサート 2017年の様子

未就学児が対象の「スクリームの部屋」
未就学児が対象の「スクリームの部屋」ではスペシャル・コンサートを同時中継。途中入退場も自由にできる。
©2 Faith Company(写真すべて)
武満徹の『秋庭歌』を左からヤン・バング、藤倉大、ニルス・ペッター・モルヴェルがライブ・リミックス
武満徹の『秋庭歌』を左からヤン・バング、藤倉大、ニルス・ペッター・モルヴェルがライブ・リミックス
大友良英はターンテーブルとギターで自作を演奏
大友良英はターンテーブルとギターで自作を演奏した
雅楽アンサンブルの伶楽舎は、武満徹とマデルナの作品で参加
雅楽アンサンブルの伶楽舎は、武満徹とマデルナの作品で参加
アンサンブル・ノマドは坂本龍一の『tri』のライブ版を世界初演
アンサンブル・ノマドは坂本龍一の『tri』のライブ版を世界初演
クレア・チェイスのために作曲した藤倉大の「フルート協奏曲」を、佐藤紀雄の指揮でアンサンブル・ノマドがアンサンブル版日本初演
クレア・チェイスのために作曲した藤倉大の「フルート協奏曲」を、佐藤紀雄の指揮でアンサンブル・ノマドがアンサンブル版日本初演

オルガンの振動で本当に打楽器が鳴るのか!? ルシエの実験に潜入!

8月9日に東京芸術劇場のコンサートホールでボンクリ・フェスの実験が行なわれた。実験をする曲目は、スペシャル・コンサートのプログラムにあるアルヴィン・ルシエの《Sizzles》。

パイプオルガンの最低音域を鳴らすことによって、数種類の打楽器の上に置いたものを振動させて音を出し、8分ほどの作品を完成させるというが、そんなにうまくいくのだろうか? 半日をかけて、パイプオルガンの音の重ね方や、打楽器のチューニングや上に乗せる豆の種類などを実験していった、その結果は? 本番当日をお楽しみに!(文・動画:編集部/写真:安宅真樹)

打楽器の皮の上に小豆をセッティング
オルガンの足鍵盤を弾くと?
共振してる!? 小豆のほかにも、ビーズやネックレスを置いてみる
一番共振する場所を探して、ここにたどり着いた!!

さまざまな新しい音楽が体験できるデイタイム・プログラム

日中に繰り広げられる「○○の部屋」の一部をご紹介しよう。

チェロの部屋

藤倉との共演も多い、ニューヨークを拠点に活動する現代音楽アンサンブル「インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブル(ICE)」のチェリスト、カテインカ・クラインによる「チェロの部屋」では、音を聴き入る精神性に着目したアメリカ実験音楽の作曲家、ポーリン・オリヴェロスにスポットを当て、聴衆参加型の作品《Sound Listening》のワークショップを行なう。

彼女のチェロとの協働を通じて、オリヴェロスが提唱した「ソニック・メディテーション」(音の瞑想)を体験してほしい。

チェロ奏者カティンカ・クライン
チェロ奏者カティンカ・クライン。子どもも大人も参加できる「チェロの部屋」ではどんな音が生まれるのだろうか?
©Todd Rosenberg

ノルウェーの部屋

「ノルウェーの部屋」には昨年も参加したヤン・バング(エレクトロニクス)、ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)に加え、エレクトロニクスを操るエリック・オノレとギタリスト、アイヴィン・オールセットの4人が即興演奏を展開する。

日本ではあまり知られていないが、北欧ではジャズやロック、現代音楽などのジャンルを超え即興演奏が大きなシーンとなっており、他では聴けないユニークな音を生み出す音楽家を多数輩出している。この部屋ではその一角を体験できるだろう。

即興音楽祭「プンクト」から、写真のヤン・バング(エレクトロニクス)、ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)のほか、今年はエリック・オノレ(エレクトロニクス)、アイヴィン・オールセット(ギター)
ライブ・リミックスをコンセプトとした即興音楽祭「プンクト」から、写真のヤン・バング(エレクトロニクス)、ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)のほか、今年はエリック・オノレ(エレクトロニクス)、アイヴィン・オールセット(ギター)もやってくる!
©2 Faith Company

ルシエの部屋

「ルシエの部屋」では、アルヴィン・ルシエの代表作《I am sitting the room》がワークショップ形式で行なわれる。

マイクに向けて発せられた声を録音し、それをまた繰り返し再生していく過程を聴くというコンセプチャルな作品だが、ポイントはスピーカーから再生される言葉を、離れた位置にあるマイクで録音することで、再生→録音の過程のなかでその部屋固有の響きが次第に加わり、言葉が少しずつ別の音響へと変化していくという点だ。

これこそ「その場」に立ち会わないとわからない作品なので、空間のなかで音が変容していくマジックをぜひ体験してほしい。

デイタイム・プログラム 2017年の様子

福川伸陽による開会を告げるファンファーレ
福川伸陽による開会を告げるファンファーレ
©2 Faith Company(写真すべて)
フルート奏者のクレア・チェイスが出演した「ポーリン・オリヴェロスの部屋」
フルート奏者のクレア・チェイスが出演した「ポーリン・オリヴェロスの部屋」
アンデスの脱穀作業で歌われる歌を脱穀をしながら体験する「ペルーの部屋」
アンデスの脱穀作業で歌われる歌を実際に脱穀をしながら体験する「ペルーの部屋」
アトリウム・コンサート
アトリウム・コンサートではさまざまな出演者が魅力的な演奏を聴かせた
「エル・システマ作曲教室」
「エル・システマ作曲教室」では子どもたちが自分の好きな「ヘンな音」を見つけ出し、作品を作り上げた

新しい音楽体験はとにかくおもしろい!

通常のコンサートにはないユニークな企画は、夜のコンサートでも行なわれる。それが「スクリームの部屋」だ。この部屋には0歳児から参加可能で、スペシャル・コンサートの模様が同時中継で楽しめる。藤倉のワークショップの経験によると大人よりも子どものほうがより自由に音を楽しんでいるという。またとない機会なので、ぜひ親子で「新しい音楽」を体験してもらいたい。

藤倉によると、スペシャル・コンサートでの大友良英のパフォーマンスを含め、本番直前まで何が起きるかわからない要素も多くあるという。情報は随時更新され、東京芸術劇場のサイトSNSでも発信されるそうなので、フェス当日までまめにチェックしておきたい。

多くの人がイメージする「現代音楽」的サウンドは、実のところ、半世紀以上過去の時代のものだ。多くのファンを集めるいまの現代美術がそうであるように、現在の現代音楽をはじめとする「新しい音楽」はもっと自由で多様だ。そして何よりも新しい音楽体験はとてもおもしろく刺激的だ。去年「ボンクリ」を訪れた人たちはそれを肌で感じただろう。今年も「新しい音楽」によってクリエイティヴ心を呼び起こす感覚を、ぜひ体験しにきてほしい。

新しい音を事前にチェック!

リンカーン・センターの音楽祭で世界初演された藤倉大「チェロ協奏曲」。スペシャル・コンサートでは、アンサンブル・ヴァージョンが日本初演される。

 

同じくスペシャル・コンサートで演奏される、オリヴィエ・メシアンの合唱曲「おお、聖なる饗宴」。

 

ボンクリ・フェス2018 出演者

アーティスティック・ディレクターを務める藤倉大(作曲家・エレクトロニクス)
アーティスティック・ディレクターを務める藤倉大(作曲家・エレクトロニクス)
©Seiji Okumiya
今年も演奏曲目は未定! 「あまちゃん」の音楽でもおなじみの大友良英
今年も演奏曲目は未定! 「あまちゃん」の音楽でもおなじみの大友良英
©佐藤類
アイヴィン・オールセット(ギター)
アイヴィン・オールセット(ギター)
©luca vitali
アンサンブル・ノマド(現代音楽アンサンブル)
アンサンブル・ノマド(現代音楽アンサンブル)
©Maki Takagi
エリック・オノレ(エレクトロニクス)
エリック・オノレ(エレクトロニクス)
©Natalia Kutsepova
カティンカ・クライン(チェロ)
カティンカ・クライン(チェロ)
©Todd Rosenberg
ヤン・バング(エレクトロニクス)
ヤン・バング(エレクトロニクス)
東京混声合唱団
東京混声合唱団
©平舘 平
イサオ・ナカムラ(パーカッション)
藤倉大も待望のボンクリ初登場! イサオ・ナカムラ(パーカッション)
ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)
ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)
©Peder Otto Dybvik
黒田鈴尊(尺八)
黒田鈴尊(尺八)
©Ayane Shindo
世界中の「新しい音」が聴ける1dayフェス!
ボンクリ・フェス2018

世界中の「新しい音」が聴ける1dayフェス!

2018年9月24日(月・祝)

会場:東京芸術劇場

デイタイム・プログラム
無料(事前申し込み制)。「スペシャル・コンサート」または「スクリームの部屋」のチケット購入者のみ申し込み可能。現在、事前申し込み受付中

スペシャル・コンサート
S席:
3,000円
A席:
2,000円
高校生以下:
1,000円
スクリームの部屋:
500円(大人・未就学児共通)

ナビゲーター
有馬純寿
ナビゲーター
有馬純寿 音楽家

1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、現代音楽、即興演奏などジャンルを横断する活動を展開。ソリストや室内アンサンブルのメンバーとし...

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