記念年のサン=サーンスと武満徹の魅力を、気鋭の作曲家が引き出すコンサート
東京藝術大学大学院音楽研究科修了。専門は音楽学。ジョン・ケージを出発点に20世紀の音楽を幅広く研究するとともに、批評活動を通じて、現代の創作や日本の音楽状況について考...
毎年、クラシックのコンサートでは記念年の作曲家が注目を集める。昨年のベートーヴェン生誕250年は華やかだったが、2021年はサン=サーンスが没後100年、武満徹が没後25年を迎えた。記念年企画で「これは!」と目をひいたのが、神奈川県民ホール主催の新シリーズ「C×C(シー・バイ・シー)作曲家が作曲家を訪ねる旅」である。
おもしろいのは武満徹とサン=サーンスの音楽を、現代音楽と一緒に楽しもうというプログラミングだ。過去の音楽を遺産として受け継ぐのではない。「作曲家が作曲家を訪ねる旅」という副題のとおり、創作の最前線に立つ作曲家が、21世紀の視点で記念作曲家の曲目を選ぶ。自身による世界初演の委嘱新作と組み合わせることで、新たな魅力を引き出すのが狙いだろう。
今回、旅する作曲家として白羽の矢が立ったのは、山本裕之さんと川上統さんである。
山本さんは、アカデミックな書法を追及する硬派の作曲家。武満徹に対する山本さんの興味は、よく演奏される後期作品ではなく、初期と中期、つまり武満の人生の中でも比較的、硬派だった時期の作品だ。
しかも、このコンサートで演奏される山本さんの《輪郭主義》の2曲と《舞曲》シリーズ2曲は、こうした武満作品の革新性を、別の角度からぐっと推し進めている。《輪郭主義》では、ピアノに別の楽器を微分音程で重ねると、ピアノの音そのものが変化して聴こえるという不思議な体験へと誘われる。
武満徹 C×Cでの演奏曲
Photo: Schott Music Co. Ltd., Tokyo
©️大野隆介
川上さんは、動植物への関心をストレートに創作と結びつけてきた作曲家。あえて現代音楽シーンでポップを追求するのだという。彼は曲名の生き物を、まず繊細な線でスケッチする。その形態をモチーフや和音、形式に反映しながら、みずみずしく自由な音楽を紡ぎだしてきた。
川上さんがサン=サーンスから選んだのは《動物の謝肉祭》。
広く親しまれてきたこの曲集の1曲1曲に、新作の組曲《ビオタの箱庭》を対応させて、特定の生物を表現する。生き物をみつめる二人の作曲家が紡ぎだす多彩な音楽。聴き比べるのはじつに楽しそうだ。
※ビオタとは生物相の意。一定の場所や同一の環境にすむ生物全種類のこと
サン=サーンスの組曲《動物の謝肉祭》
©️大野隆介
日時:2021年11月6日(土)15:00開演
会場:神奈川県民ホール 小ホール
曲目:
山本裕之:紐育舞曲 (2016)
武満徹:雨の呪文 (1982)
山本裕之:輪郭主義II (2010/18)
武満徹:スタンザII (1971)
武満徹:サクリファイス (1962)
山本裕之:輪郭主義IV (2013)
武満徹:カトレーンII (1977)
山本裕之:横浜舞曲(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)
出演:
石上 真由子(ヴァイオリン)
山澤 慧(チェロ)
丁 仁愛(フルート)
岩瀬 龍太(クラリネット)
佐藤 秀徳(フリューゲルホルン)
高野 麗音(ハープ)
大場 章裕(打楽器)
土橋 庸人(リュート&ギター)
中村 和枝(ピアノ)
大瀧 拓哉(ピアノ)
有馬 純寿(エレクトロニクス)
日時:2022年1月8日(土)15:00開演
会場:神奈川県民ホール 小ホール
曲目:
サン=サーンス:組曲「動物の謝肉祭」
川上統:組曲「ビオタの箱庭」(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)
出演:
阪田知樹(ピアノ)
中野翔太(ピアノ)
尾池亜美(ヴァイオリン)
戸原直(ヴァイオリン)
安達真理(ヴィオラ)
荒井結(チェロ)
内山和重(コントラバス)
多久潤一朗(フルート)
芳賀史徳(クラリネット)
西久保友広(打楽器)
藤井里佳(打楽器)
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