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2021.08.05
神奈川県民ホール「C×C作曲家が作曲家を訪ねる旅」

記念年のサン=サーンスと武満徹の魅力を、気鋭の作曲家が引き出すコンサート

白石美雪
白石美雪 音楽評論家

東京藝術大学大学院音楽研究科修了。専門は音楽学。ジョン・ケージを出発点に20世紀の音楽を幅広く研究するとともに、批評活動を通じて、現代の創作や日本の音楽状況について考...

©️大野隆介

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毎年、クラシックのコンサートでは記念年の作曲家が注目を集める。昨年のベートーヴェン生誕250年は華やかだったが、2021年はサン=サーンスが没後100年、武満徹が没後25年を迎えた。記念年企画で「これは!」と目をひいたのが、神奈川県民ホール主催の新シリーズ「C×C(シー・バイ・シー)作曲家が作曲家を訪ねる旅」である。

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おもしろいのは武満徹とサン=サーンスの音楽を、現代音楽と一緒に楽しもうというプログラミングだ。過去の音楽を遺産として受け継ぐのではない。「作曲家が作曲家を訪ねる旅」という副題のとおり、創作の最前線に立つ作曲家が、21世紀の視点で記念作曲家の曲目を選ぶ。自身による世界初演の委嘱新作と組み合わせることで、新たな魅力を引き出すのが狙いだろう。

今回、旅する作曲家として白羽の矢が立ったのは、山本裕之さん川上統さんである。

7月29日に行なわれた記者懇談会にて。左から川上統さん、山本裕之さん、神奈川県民ホール・音楽堂 芸術参与の沼野雄司さん、神奈川県民ホールの伊藤由貴子さん。©️大野隆介

山本さんは、アカデミックな書法を追及する硬派の作曲家。武満徹に対する山本さんの興味は、よく演奏される後期作品ではなく、初期と中期、つまり武満の人生の中でも比較的、硬派だった時期の作品だ。

しかも、このコンサートで演奏される山本さんの《輪郭主義》の2曲と《舞曲》シリーズ2曲は、こうした武満作品の革新性を、別の角度からぐっと推し進めている。《輪郭主義》では、ピアノに別の楽器を微分音程で重ねると、ピアノの音そのものが変化して聴こえるという不思議な体験へと誘われる。

武満徹 C×Cでの演奏曲

武満徹(1930-1996)。おもに独学で作曲を学び、作品はコンサート・ピースから電子音楽、映画音楽、舞台音楽、ポップ・ソングまで多岐にわたる。
Photo: Schott Music Co. Ltd., Tokyo
音の曖昧さや歪みをテーマとして作曲する山本裕之さん。武満徹の本を読んだり音を聴き直して向き合うことにより、自身との違いが明確になったと話す。
©️大野隆介

川上さんは、動植物への関心をストレートに創作と結びつけてきた作曲家。あえて現代音楽シーンでポップを追求するのだという。彼は曲名の生き物を、まず繊細な線でスケッチする。その形態をモチーフや和音、形式に反映しながら、みずみずしく自由な音楽を紡ぎだしてきた。

川上さんがサン=サーンスから選んだのは《動物の謝肉祭》。

広く親しまれてきたこの曲集の1曲1曲に、新作の組曲《ビオタの箱庭》を対応させて、特定の生物を表現する。生き物をみつめる二人の作曲家が紡ぎだす多彩な音楽。聴き比べるのはじつに楽しそうだ。
※ビオタとは​​生物相の意。一定の場所や同一の環境にすむ生物全種類のこと

サン=サーンスの組曲《動物の謝肉祭》

フランスの作曲家、サン=サーンス(1835-1921)。
生物全般に関心を寄せ、作品の多くに生物の名前が付けている川上統。新作の組曲《ビオタの箱庭》でも、ワタリガラスやジュゴンとマナティ、コトドリなどの曲が登場し、地球規模の生物相を表現するという。
©️大野隆介
神奈川県民ホール「C×C作曲家が作曲家を訪ねる旅」
山本裕之×武満徹(没後25年)

日時:2021年11月6日(土)15:00開演

会場:神奈川県民ホール 小ホール

曲目:

山本裕之:紐育舞曲 (2016)

武満徹:雨の呪文 (1982)

山本裕之:輪郭主義II (2010/18)

武満徹:スタンザII (1971)

武満徹:サクリファイス (1962)

山本裕之:輪郭主義IV (2013)

武満徹:カトレーンII (1977)

山本裕之:横浜舞曲(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)

 

出演:

石上 真由子(ヴァイオリン)

山澤 慧(チェロ)

丁 仁愛(フルート)

岩瀬 龍太(クラリネット)

佐藤 秀徳(フリューゲルホルン)

高野 麗音(ハープ)

大場 章裕(打楽器)

土橋 庸人(リュート&ギター)

中村 和枝(ピアノ) 

大瀧 拓哉(ピアノ)

有馬 純寿(エレクトロニクス)

川上統×サン=サーンス(没後100年)

日時:2022年1月8日(土)15:00開演

会場:神奈川県民ホール 小ホール

曲目:

サン=サーンス:組曲「動物の謝肉祭」

川上統:組曲「ビオタの箱庭」(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)

 

出演:

阪田知樹(ピアノ)

中野翔太(ピアノ)

尾池亜美(ヴァイオリン)

戸原直(ヴァイオリン)

安達真理(ヴィオラ)

荒井結(チェロ)

内山和重(コントラバス)

多久潤一朗(フルート)

芳賀史徳(クラリネット)

西久保友広(打楽器)

藤井里佳(打楽器)

 

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白石美雪
白石美雪 音楽評論家

東京藝術大学大学院音楽研究科修了。専門は音楽学。ジョン・ケージを出発点に20世紀の音楽を幅広く研究するとともに、批評活動を通じて、現代の創作や日本の音楽状況について考...

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