オーケストラ公演を聴き比べよう! 評論家3名がオススメする「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2021」
ミューザ川崎シンフォニーホールをメイン会場に7月22日から8月9日まで開催される真夏の音楽祭「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2021」。毎年足しげく通うという音楽評論家、奥田佳道さん、加藤浩子さん、柴田克彦さんの3名に、全14ものオーケストラ公演の中から、“聴き比べ”するのにオススメの3公演を伺った。
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...
音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「バンドジャーナル」「モーストリー・クラシック」等...
1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
オーケストラ、夏の甲子園!?
今年も、真夏の音楽祭「フェスタサマーミューザKAWASAKI」がやってくる。
上質な響きを誇るミューザ川崎シンフォニーホールをメイン会場に、日本最大級のパイプオルガンやジャズ、子ども向けのプログラムなど、バラエティに富んだ内容が楽しめるが、目玉とも言えるのが、毎日のように日本を代表する11のオーケストラが音楽を届けてくれる公演だ。ミューザ川崎シンフォニーホールで12公演、昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワで2公演を行ない、「夏の甲子園」のような側面ももつイベントなので、日々違った感動を体験できるだろう。
ONTOMOでは、14のオーケストラ公演の中から「どれを選んだらいいの!?」と迷う人に向けて、音楽評論家3名が指南役として座談会を開催、5月にYouTubeでライブ配信を行なった。
座談会では、前段でオーケストラの感動エピソードやオーケストラの個性をつくる要素とは、といったことを語ったあと、「フェスタサマーミューザ」の“聴き比べ”にオススメのオーケストラ公演を登壇者がそれぞれ3つずつ紹介している。
全容はぜひアーカイブ動画を視聴していただきたいが、本記事では端的に楽しみ方のヒントをお伝えしよう。
アーカイブ動画の20:20~「友人や家族に勧めたい! オーケストラ聴き比べ 〜フェスタサマーミューザKAWASAKI 2021の12公演から」のコーナー
若手指揮者で聴き比べよう 〜加藤浩子さんオススメ公演
その1♪ 視覚的にも明快なカーチュン・ウォンの指揮で!
7月26日(月)東京都交響楽団
加藤 シンガポール出身の指揮者カーチュン・ウォンさんの明快な指揮にぜひご注目いただきたいです。彼の指揮はオーケストラの奏でるサウンドを視覚的にも表現してくれているような感覚があります。そして、オーケストラが本当に素晴らしくそれに応えるので、そのやりとりをぜひご覧いただきたいですね。
耳なじみのある楽曲が並びますし、ウォンさんの音楽づくりは非常にダイナミックでわかりやすいので、初心者の方にぜひオススメしたい公演です。チェロ独奏の岡本侑也さんの超絶技巧と表現力の高さにもご注目ください。
その2♪ バッティストーニが指揮すると、イタリアの空気が降り注ぐ!?
8月6日(金)東京フィルハーモニー交響楽団
加藤 レスピーギの「ローマ3部作」は、イタリアのヴェローナ出身のアンドレア・バッティストーニが東京フィルの定期公演に初登場したときのプログラムで、本当に名演だったのです。ローマの街に行って散歩しているような空気感でした。バッティストーニさんが指揮すると、イタリアの空気が降り注いでくるような感覚になるんですよね。
他にもヴェルディやロータの作品が並ぶオール・イタリア・プログラムは、オーケストラならではのカッコよさを味わえると思います。
その3♪ コミュニケーションの達人、原田慶太楼が指揮!
8月9日(月・祝)東京交響楽団 フィナーレコンサート
加藤 原田慶太楼さんは、シンシナティ交響楽団などアメリカで活躍していた指揮者で、レパートリーも広いのですが、なんといっても“コミュニケーションの達人”なのです。オーケストラの団員はもちろん、お客様とのやりとりも素晴らしいです。
また今回、ヴェルディの歌劇《アイーダ》の旋律をもとに、川崎市内の特別支援学校の生徒たちとワークショップを重ねて作ったオリジナル曲の演奏を行なうということで、新たな試みにも注目しています。一生に一度しかできない体験ができるのではないでしょうか。
シェフ(音楽監督)のカラーを聴き比べる! 〜柴田克彦さんオススメ公演
その1♪ ジョナサン・ノット&東響がフランスとアメリカの相互作用を聴かせる
7月22日(木・祝)東京交響楽団 オープニングコンサート
柴田 ジョナサン・ノットは、2014年から東京交響楽団の音楽監督をされていて、すでに彼のカラーを確立しています。その個性をぜひ味わっていただきたいですが、プログラムがまたおもしろいのです。ラヴェルやヴァレーズといったフランス人はアメリカと、アメリカ人のガーシュウィンはフランスと関係のある作品が並びます。それぞれの国境を越えた音楽の魅力を楽しめるでしょう。
また、ヴァレーズの「アルカナ」は、実演でなかなか聴けない作品なので、こちらもぜひご注目いただきたいですね。
その2♪ 高関健の就任時以来のスメタナ《わが祖国》を再び!
7月31日(土)東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
柴田 高関健さんは2015年から東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の常任指揮者を務められていますが、高関さんが就任してからこのオーケストラの演奏は本当に素晴らしくなりました。緻密で意欲的な音楽づくりをしています。
今回演奏されるスメタナの《わが祖国》は、高関さんが就任して最初に定期演奏会で指揮して以来やっていなかったものなので、それを響きのいいミューザのホールで楽しめるのがうれしいです。並々ならぬ思いで臨まれることでしょう。
その3♪ 吹奏楽でも人気のスケールの大きい曲を、バッティストーニ&東フィルで
8月6日(金)東京フィルハーモニー交響楽団
柴田 今回演奏されるヴェルディの歌劇《シチリア島の夕べの祈り》序曲やレスピーギの組曲《シバの女王ベルキス》は、吹奏楽で非常に人気の曲で、非常にスケールの大きな作品です。これをオーケストラのサウンドで聴けるのは貴重だと思います。吹奏楽は好きだけどオーケストラにはあまりなじみがないという方にぜひとも聴いていただきたいです。
そして、ロータの「ハープ協奏曲」のソリストを務める吉野直子さんの名技にも注目です。
ハズレがないアーティストたち 〜奥田佳道さんオススメ公演
その1:篠崎史紀が率いる室内合奏でウィンナ・ワルツやマーラーの編曲版を
7月28日(水)N響室内合奏団
奥田 NHK交響楽団のコンサートマスターの篠崎史紀さんが中心となった室内オーケストラで、ウィーン楽派のシェーンベルクやベルク、ウェーベルンが編曲したヨハン・シュトラウスII世のウィンナ・ワルツを楽しめるという貴重な機会です。新たな舞台体験ができると思います。
マーラーの「交響曲第4番」の室内楽版も新たな響きの魅力を楽しめる編曲なので、ぜひお楽しみいただきたいですね。
その2♪ 鈴木秀美による全曲ロマン派(!)の作品
8月3日(火)神奈川フィルハーモニー管弦楽団
奥田 まず強く言っておきたいのが、鈴木秀美さんのコンサートにハズレはない! ということ。
しかも、鈴木さんはずっとバッハなどバロック時代の音楽やハイドンなど古典派時代の音楽を中心に指揮・演奏されてきた方なので、全曲ロマン派作品を振る公演を聴けるのはかなり貴重です。鈴木さんご自身にとっても新鮮ということなので、新しい鈴木さんの音世界を楽しめると思います。
その3♪ 京都で尽力している広上淳一&京響の名演を川崎で
8月4日(水)京都市交響楽団
奥田 広上淳一さんと京都市交響楽団の組み合わせにもハズレなし! なのです。広上さんは京都に暮らす方々に、音楽をもっと身近に感じていただくために非常に尽力されてきました。
オーケストラとの信頼関係も厚く、数々の名演がありますが、来年、常任指揮者と顧問を退任されるということで、今回のフェスタサマーミューザの公演は、少し早い“グランドフィナーレ”のようなものになると思います。これは見逃せないと思いますよ!
まだまだオススメしたい! 音楽祭ならではの楽しみ方
座談会で「オススメ3公演」のほかに盛り上がった公演としては、下野竜也率いる日本フィルハーモニー交響楽団のシェイクスピアとゲーテ、2大文豪にまつわるプログラム。特に、ベートーヴェンの劇音楽《エグモント》の全曲演奏は珍しく、今回はバリトン歌手・宮本益光の朗読つきということで見逃せない。
さらに、ミューザ川崎シンフォニーホールが擁する日本最大級のパイプオルガンによる「真夏のバッハ」も名物コンサートである。今年は、楽器を知り尽くしたホールオルガニストの大木麻理が出演する、オール・バッハ・プログラムをお楽しみいただきたい。
これらの公演を、名だたる指揮者にも評価されてきた響きの美しいミューザ川崎で楽しめるうえ、“聴き比べ”を楽しみやすい価格や日時となっている。日本が世界に誇るプロ・オーケストラと、2つの音楽大学によるフレッシュなオーケストラが、連日のように入れ替わり演奏するので、「見えない戦いがあって、演奏にも熱が入り、フェスティバルを良くしてきた」とミューザ川崎シンフォニーホール事業課長の山本浩さんは語る。
クラシックに馴染みがない人にも親しみやすい公演があるのはもちろん、“通”向けのプログラムも盛りだくさん。プレトークやプレコンサートで、出演者やプログラムに理解を深めることもできる。
周辺の飲食店とのタイアップで、チケットを提示すると割引などのサービスが受けられるのは、近年発展が著しい川崎駅エリアにあるミューザ川崎ならでは。コンサート前後の時間も楽しみたい。特にオススメなのが、昨年5月にオープンした「ホテルメトロポリタン川崎」で、7月1日(木)から8月9日(月)まで開催されている「サマーミューザコラボレーションブッフェ」。ハイドンやモーツァルトなどの作曲家ゆかりの料理が並ぶ、音楽にあふれたブッフェは、心も身体も満たしてくれることだろう。
座談会の登壇者一同が述べていたように、オーケストラにとっては聴衆の反応も演奏における大きな“力”になる。ぜひあなたの“推し”オーケストラを探し、応援してほしい。
そして、今年もオンライン配信とのハイブリッド開催となる。万全の感染症対策がとられたホールで生音を楽しむのはもちろん、奏者の手元まで観ることができて、バックステージの様子も楽しめるオンライン配信を、ご自宅でゆったりと楽しむのもいいだろう。もちろん、生音を楽しんでから、配信で繰り返しご覧になるのもオススメだ。ぜひみなさんなりの楽しみ方で“祭典”を満喫してほしい。
※座談会の中で取り上げていた、山田和樹指揮・読売日本交響楽団の公演は、指揮者が鈴木雅明氏に変更となりました。詳しくは公式ページへ
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...
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