神田寛明にきく 神戸国際フルートコンクール~パユを輩出した名門は、進化を止めない
東京生まれ。横浜国立大学卒業後、(株)音楽之友社に入社。その後、(株)東京音楽社で「ショパン」や「アンカリヨン」の編集を担当。現在はフリーランスの音楽ライター/音楽ジ...
世界が注目するフルートに特化したコンクール
若いフルーティストを世界に羽ばたかせるとともに「音楽のまち神戸」としての街づくりを進めることを目的として、4年ごとに開催されている「神戸国際フルートコンクール」。国際音楽コンクール世界連盟に日本で初めて加盟し、フルートに特化した世界的にも数少ないコンクールだ。
1985年、日本フルート界の大御所・吉田雅夫と神戸育ちのフルーティスト・金昌国を中心に設立。「流派の偏りがない審査員構成」を基本理念に、第1回開催時からジャン=ピエール・ランパル、アンドレ・ジョネ、パウル・マイゼン、ヴォルフガング・シュルツ、オーレル・ニコレなど世界トップクラスの演奏家を審査員に招いてきた。神田寛明さんは2009年の第7回から審査員を務め、今回は運営委員長も務めた。
「流派が異なるため意見の対立が毎回起こりますが、バロックから現代作品までが課題曲となっているために幅広い視野が必要なので、これはいいことだと思います。参加者の持つ音楽性の本質を見極めることができていると思っています」
審査員にも入賞者にも世界的名手がズラリ
「豪華」な顔ぶれの審査員たち。そのお眼鏡にかなった入賞者たちの、その後の活躍は目覚ましい。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席のエマニュエル・パユと元首席のマチュー・デュフォー、ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団首席のエミリー・バイノン、ミュンヘン音楽大学教授のアンドレア・リーバークネヒト、バイエルン放送交響楽団首席のヘンリック・ヴィーゼなど、世界のフルート界を牽引する名が並ぶ。
「優勝者だけでなくすべての入賞者が、誰ひとり欠けることなく現役で活躍していることは、特筆していいと思います」
実は2017年の第9回は、さまざまな課題が生じて開催が危ぶまれたという。
「音楽家はコンクール開催が当たり前のことと思ってしまいますが、一般市民にとってはどうなんだろう、ということに思いが及びました。クラシックに縁遠い人がたくさんいる中、このコンクールはどういう意義を持つのだろうかと」
しかし神戸市民をはじめ、音楽を愛する世界中の人々からの支援が届き、継続されることになった。
第10回は過去最多の483名が応募。来2月に神戸と東京で入賞者演奏会が開催
第10回はコロナ禍の影響で、すべてがオンラインによる動画審査となった。異例の形での開催にも関わらず、応募者は過去最多の483名。その中から53名が大会に参加した。
「オンライン開催によって、より多くの方の関心を集めることができたと思います。動画の撮り方に慣れていない人はいましたが、丁寧で穴がなく、誰もが相当なレベルでした。非常にハイレヴェルでの実施となりました」
来2月に神戸で、入賞者たちによる披露演奏会、第1位の2人による優勝記念演奏会が開催される。今回は、披露演奏会は東京でも行なわれる。
「僕ら審査員も初めて『生』の演奏を聴けると楽しみにしています。オリンピックの後のエキシビションのように、リラックスした彼らの演奏を楽しんでいただけると思います」
入賞者たちについて、神田さんの感想をうかがった。
第1位:ラファエル・アドバス・バヨグ(スペイン):誠実でクラシカルな演奏で、共感が持てた。
2017年からミュンヘン音楽大学で研鑽を積み、これまでに、ソリストとしてコペンハーゲン・フィル、オーデンセ響などと共演。現在、王立ストックホルム・フィルのオーケストラ・アカデミーで首席フルート奏者として活動。
第1位:マリオ・ブルーノ(イタリア):コントラストがはっきりしていて、語り口が豊か。
シュトゥットガルト音楽大学卒業。現在、ミュンヘン音楽大学のExcellence in Performanceコースに在籍。これまで多くの室内楽団やオーケストラと共演。2021年よりカッセル国立管の首席奏者を務める。
第3位:石井希衣(日本):上品でバランスの取れた演奏。
第88回日本音楽コンクール第2位。第19回日本フルートコンヴェンションコンクール第1位。ソリストとして東京フィル、横浜シンフォニエッタと共演。オーケストラでの客演も多数。現在パリ・エコールノルマル音楽院在学中。
第3位:マリアンナ・ユリア・ジョウナッチェ(ポーランド):溌剌とした演奏。いたずら小僧のようなモーツァルト像も浮かび上がった。
現在、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学とショパン音楽大学の両校に在籍。カール・ニールセン国際コンクール、広州国際フルートコンクールなど、国内外のコンクールで数多くの受賞歴を誇る。ソリストとして、ワルシャワ国立フィルハーモニー管をはじめ、多くのオーケストラと共演。
第5位:アンナ・コマロワ(ロシア):演奏至難な一柳作品の演奏が秀でていて、破壊的なシーンの後の静寂まで表現されていた。
現在、サンクトペテルブルク国立音楽院に在籍。2013年から2018年までマリインスキー劇場管で演奏。2018年には、全ロシアオーケストラ奏者のためのコンクールに優勝し、ロシア・ナショナル・ユース・オーケストラの首席奏者となる。ソリストのほかに、室内楽奏者としても定期的に活動する。
第6位:ジョイディ・スカーレット・ブランコ・ルイス(ベネズエラ):独特のスタイルをもっており、伸び伸びとした演奏。
シモン・ボリバル音楽院でフルートを学んだ後、リヨン、ジュネーヴ、マドリードの音楽院で研鑽を積む。これまでに、トゥールーズ・キャピトル国立管、マドリード響など、多数のオーケストラと共演。チャイコフスキー国際コンクールなど数多くの国際コンクールで賞を受賞。
「今回も、6人の個性が違っていてレベルの差は小さいです。記念演奏会では、現代作品をはじめ普段は聴けない作品が並びますが、どれも面白いものばかりです」
第11回開催に向けてはこれまでの開催のあり方を踏まえつつ、オンラインを活用することも考えている。
「本選まで残れなかった人たちに、アウトリーチ活動をしてもらうことも考えています。神戸の皆さんに楽しんでいただけるコンクールにしたいですね。そして、皆さんには参加者の中から、ぜひ『推し』を作ってほしいです。コンクールを何倍も楽しめますよ」
日 時:2023 年 2 月 23 日(木・祝)ステージ1 開演 14:00/ステージ2 開演 19:00
会 場:神戸文化ホール 中ホール
■ステージ 1.披露演奏会 ~世界が注目する入賞者たちによる音楽の饗宴
内 容:課題曲を中心に構成されたプログラムで、第 10 回大会入賞者たちが技術だけでなく音楽的にも優れた、魅力溢れる演奏を披露。
曲目:デュティユー:ソナチネ、ピンチャー:ビヨンド(ア・システム・オブ・パッシング)、マルタン:バラード、カーク=エラート:フルート・ソナタ変ロ長調Op.121、マイヤー=オルバースレーベン:ファンタジー・ソナタOp.17
■ステージ 2.優勝記念演奏会 ~ラファエル・アドバス・バヨグ×マリオ・ブルーノ
内 容:第 1 位を受賞したアドバス・バヨグとブルーノが、ソロから五重奏、古典から現代作品まで、多彩なプログラムでそれぞれの個性と音楽的スタイルが光る演奏を披露
曲目:シュルホフ:フルート・ソナタ、モーツァルト:フルート四重奏K.285、ドブリエール:5つの不思議な小品、フランセ:五重奏、W.F.バッハ:2つのフルートのための二重奏曲第1番、ドップラー:「ハンガリーの羊飼いの歌」による幻想曲、他
【チケット】
23 日:Double Bill
一般:ステージ1 3,500 円、ステージ2 3,500 円
U 25:ステージ1 1,500 円、ステージ2 1,500 円
セット券:5,000 円(一般・前売りのみ)
神戸文化ホールプレイガイド Tel:078-351-349
詳細はこちら
日 時:2023 年 2 月 24 日(金) 開演 19:00
会 場:浜離宮朝日ホール
出 演:ラファエル・アドバス・バヨグ(第 1 位)、マリオ・ブルーノ(第 1 位)、石井希衣(第 3 位)、 マリアンナ・ユリア・ジョウナッチェ(第 3 位)、ジョイディ・スカーレット・ブランコ・ルイス(第 6 位) 、他
曲目(予定): マイヤー=オルバースレーベン:ファンタジー・ソナタOp.17、カーク=エラート:フルート・ソナタ変ロ長調Op.121、マルタン:バラード、デュティユー:ソナチネ、ピンチャー:ビヨンド(ア・システム・オブ・パッシング)
【チケット】
24 日:東京公演
一般:3,500 円
U 25:1,500 円
神戸文化ホールプレイガイド Tel: 078-351-3349
詳細はこちら
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