イベント
2026.03.23
歴史と文化の町・福山に注目、西日本クラシック音楽界の盟主へ

全国から熱い視線!リーデンローズ「オーケストラ福山定期」~本気でコアなプログラム

いま、ふくやま芸術文化ホール「リーデンローズ」(広島県福山市)の「オーケストラ福山定期」がクラシック音楽界から熱い視線を浴びている。

2024年度から始まったこのシリーズは、広島交響楽団と京都市交響楽団の2団体を招聘し、年間各5公演ずつ計10公演(うち4公演は青少年向けの無料公演)を主催するという全国にも類例を見ない大規模なもので、この春から3シーズン目に入る。

その背景にある、福山独自の歴史的・文化的背景から紐解いていこう。

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

メインビジュアル:福山の象徴として威容を誇る、福山城

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西国の外様大名への睨みを利かせた、天下の名城・福山城が象徴するもの

山陽新幹線の福山駅で降りると、ホームのすぐ前に大きな城が見えるのに驚かれる方も多いことだろう。

それもそのはず、福山駅はかつての福山城の広大な敷地内に建てられているのだ。江戸時代そのままの石垣の向こうには美しい天守閣が見える。ここを訪れた人にとって、歴史の重みを感じる瞬間である。

福山駅のすぐ北側に福山城が隣接。福山市の市花、バラの花も駅前には多く植えられている

江戸時代の初期、新たに築城が禁止されていた中、西国に睨みを利かせる幕府の重要拠点として、1619年に入封された福山藩初代藩主・水野勝成(徳川家康のいとこ)が短期間で完成させた巨大な城、それが福山城である。

天守閣の北側は全国でも唯一の鉄板張りで、幕府の威厳を示すこの巨城は敵からの攻撃にも耐えうる防備が施されていた。1945年8月8日、終戦直前の福山空襲により、国宝に指定されていた福山城は焼失してしまうが、1966年に博物館として再建。2022年には大改修によって天守閣の外観も復元された

水野勝成は海の埋め立てや治水工事、町の造営を次々とおこない、現在の福山の繁栄の礎を築いた名君として今もなお敬愛されている。

水野勝成(1564–1651): 徳川家康のいとこにあたる、戦国末期から江戸初期の武将。若い頃は父と対立して出奔し、諸国を放浪する波乱の半生を送り、徳川方に帰参後は「鬼日向」と恐れられる勇猛さで活躍した。大坂の陣などで多大な戦功を挙げ、1619年、西国の外様大名を牽制する要衝として備後10万石を与えられ、福山藩初代藩主となる。新たに福山城を築き、治水事業や産業振興、城下町の整備に尽力。現在の福山の都市形成の基礎を築いた名君として、今日まで高く評価されている (画像は広島県重要文化財・賢忠寺蔵)

福山を象徴するもう一人の名君が、幕末の混乱期にあって27歳の若さで老中首座(現在の内閣総理大臣にあたる大役)に就任し、黒船来航の国難にあってはペリーとの交渉に立ち、日米和親条約締結に主要な役割を果たした阿部正弘である。

阿部正弘(1819–1857): 江戸時代後期の備後福山藩阿部家第7代藩主。27歳の若さで幕府の老中首座となり、幕末の動乱期に国政を主導した。1853年のペリー来航の際には、従来の幕府専断を改め、朝廷や諸大名に広く意見を求める異例の合議的政策を進めた。日米和親条約の締結という難局を乗り切り、海防強化や洋学導入など柔軟な改革に着手。江戸にあって国政を担いながらも、福山に藩校「誠之館」を創設して身分を問わない人材育成に尽力した。国家の危機に奔走し39歳で早世した、福山が誇る優れた政治家である (画像は誠之館同窓会蔵)

身分や縁故にこだわらない実力主義の人材登用・育成をおこない、近代日本への道を切り拓いた功績は計り知れない。39歳で早世したのが惜しまれるが、現実と未来を見据えて国を導く傑出した政治家である。

なお、こうした先見の明と人材育成への情熱は、現在のリーデンローズが取り組む教育プログラムにも息づいている。

西日本クラシック音楽界のリーダーとしてリーデンローズが存在感を高める

かつての福山の歴史的栄光を現代に蘇らせるかのように、西日本クラシック音楽界のリーダーとしての存在感を高めているのが、ふくやま芸術文化ホール「リーデンローズ」1994年開館、大ホール2003席、小ホール312席)である。

2024年春より開始されたリーデンローズの「オーケストラ福山定期」は、広島交響楽団と京都市交響楽団という二つのオーケストラを招聘し、年間5公演ずつ(計10公演)を主催するというもの。

公共ホールの自主企画としては、全国的に見ても類例を見ない大規模さである。

しかも、そのうち各2公演(計4公演)は福山市・府中市・神石高原町内の中学2年生全員(約5,000人)を対象とした無料招待コンサートとなっている。

リーデンローズ(ふくやま芸術文化ホール):1994年開館。世界的な音響設計家の豊田泰久氏が手掛けた傑作のひとつで、全国でも屈指の美しい音響を誇る。大ホールは2003席(オーケストラ公演開催時は1831席)

プログラムは基本、広響、京響とも本拠地でおこなっている定期演奏会と同じものを持ってくる条件だ。これは、オーケストラにとってもっとも重要な芸術的成果の発表の場である定期演奏会をそのままリーデンローズに持ってくることによって、さらにクオリティを高めたものにする狙いがある。

中学2年生には、子供向けのプログラムではなく、プロの本気の演奏を聴いてもらおうという願いが込められている。思春期に一流の芸術に触れることほど重要なことはないが、それを行政側の全面的な後押しのもと実践しているというわけである。これは教育・文化政策としてもうらやましい限りだ。

2024年1月21日に、開館30周年を機にリーデンローズの「オーケストラ福山定期」開始を発表した際の記者会見から。左から作田忠司(ふくやま芸術文化ホール館長)、豊田泰久(ふくやま芸術文化財団理事長)、井形健児(広島交響楽団事務局長)、近藤保博(京都市交響楽団エグゼクティブ・プロデューサー、当時)の各氏。二つのプロ・オーケストラが継続的に参加する自主企画は全国でも初の試みである

東京からでもぜひ足を運びたい!「オーケストラ福山定期」2026-2027

この春からリーデンローズの「オーケストラ福山定期」は3シーズン目を迎える。そのラインナップは一般向けに薄くてわかりやすいものをという妥協は一切なく、ますます本気度の強いコアなものとなっている。

以下、その内容をご紹介する。福山駅のすぐ前では福山城博物館をはじめ、ふくやま美術館、ふくやま文学館などが集まる文化ゾーンを巡ることも可能である。瀬戸内海の歴史ある美しい港、鞆の浦に足を延ばすのもいい。ぜひ、首都圏からでも観光も兼ねて、福山に足を運んでみてはいかがだろうか?

4月19日(日)15時 ※発売中
ジョシュア・タン指揮 広島交響楽団 ミシュカ=ラシュディ・モーメン(ピアノ)
ヴォーン・ウィリアムズ:ソレント海峡、ピアノ協奏曲、バックス:交響曲第6番

本国の専門家筋からも問い合わせが来ている本格的イギリス音楽特集。シンガポール出身のタンは欧米でも活躍する注目の指揮者だ。メインの作曲家バックスは、アイルランドとケルト文化に心酔した神秘主義者で、シベリウスとも尊敬し合っていた、知られざる交響曲の巨匠。巨人の歩みを思わせる「第6」を体験できる貴重な機会。

ジョシュア・タン
ミシュカ=ラシュディ・モーメン ©Benjamin Ealovega

6月21日(日)16時 ※発売中
アレナ・フロン指揮 京都市交響楽団、阪田知樹(ピアノ)
ドヴォルザーク:序曲《謝肉祭》、ピアノ協奏曲 ト短調、交響曲第7番 ニ短調

1992年チェコ生まれの女性指揮者アレナ・フロンは「プラハの春」国際音楽祭にデビュー、すでにチェコ国内のほぼすべてのオケを指揮するなど注目の的。今回は日本のみならずアジア・デビューの一環となる。実力派の阪田知樹との共演も楽しみ。ドヴォルザーク・プロのメイン「第7」は強い悲劇性でこれが最高傑作という声もあるほど。

上)アレナ・フロン ©Petr Zikmund
右)阪田知樹 ©Ayustet

10月12日(月・祝)16時 ※6月20日(土)発売
上岡敏之指揮 京都市交響楽団
ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》前奏曲と愛の死、ブルックナー:交響曲第6番 イ長調

ヴッパータール市立歌劇場音楽総監督、新日本フィル音楽監督、コペンハーゲン・フィル首席指揮者等を歴任するなど国内外で活躍する上岡敏之の京響初登場。得意のワーグナーとブルックナーの巨大な交響世界を堪能できる。ブルックナーは渋いながら大河的スケールと勇壮さを併せ持つ「第6」というのも嬉しい。

上岡敏之 ©武藤章

11月23日(月・祝)16時 ※7月11日(土)発売
沖澤のどか指揮 京都市交響楽団 五嶋みどり(ヴァイオリン)
バーンスタイン:《キャンディード》序曲、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調、プライス:交響曲第1番 ホ短調

2025年1月に沖澤のどかはボストン響定期にデビューした際に五嶋みどりと共演しているが、両者は今回のショスタコーヴィチでどんな鬼気迫る名演を繰り広げるか? フローレンス・プライス(1887-1953)はアメリカの黒人女性作曲家として近年注目の存在で、アフロ・アメリカンの民謡や讃美歌の要素が盛り込まれた代表作が楽しみだ。

上)五嶋みどり ©Nigel Parry
左)沖澤のどか ©Felix Broede

2027年1月24日(日) ※10月3日(土)発売
クリスティアン・アルミンク指揮 広島交響楽団 エディクソン・ルイス(コントラバス)
スーク:管弦楽組曲《おとぎ話》、細川俊夫:コントラバス協奏曲、ヤナーチェク:オペラ《死の家から》組曲

広響コンポーザー・イン・レジデンスの細川俊夫による初のコントラバス協奏曲を、ベネズエラのエル・システマ出身でベルリン・フィルのメ

ンバーである名手エディクソン・ルイスが演奏。スラヴの伝承によるスークの美しい組曲と、ドストエフスキー原作によるヤナーチェク最後のオペラからの組曲を、アルミンクがどう聴かせてくれるかにも期待。

エディクソン・ルイス
クリスティアン・アルミンク ©Shumpei Ohsugi

2027年3月7日(日)15時 ※11月14日(土)発売
川瀬賢太郎指揮 広島交響楽団 小曽根真(ピアノ)
シューマン:交響曲第3番 変ホ長調《ライン》、小曽根真:ピアノ協奏曲《もがみ》

川がテーマのコンサート。滔々と流れるようにスケール豊かなシューマンと、ジャズ・ピアニストの小曽根真が2003年の山形県国民文化祭の開会式のために作曲し、ジャズや日本の民謡(最上川舟唄)の要素を盛り込んだ協奏曲との興味深い組み合わせ。川にちなんだ二つの作品が、福山の中心である芦田川とどう響きあうかも楽しみだ。

小曽根真 ©YOSUKE SUZUKI
川瀬賢太郎 ©Tomoko Hidaki

※オーケストラ福山定期の2026年度定期会員券・前期定期会員券4月19日(日)まで発売中

詳細はこちら

問い合わせ:リーデンローズチケットセンター 084-928-1810

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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