イベント
2018.10.11
「ストラディヴァリウス300年目のキセキ展」10月15日まで森アーツセンターギャラリーにて開催

至高の音を聴く。ストラディヴァリウスを目と耳で味わう特別展

10月9日(火)~15日(月)まで、「東京ストラディヴァリウスフェスティバル2018」の最終章として、森アーツセンターギャラリーにて「ストラディヴァリウス300年目のキセキ展」が開催されている。世界中から21挺のストラディヴァリウスが集うアジア初の大規模な展覧会だ。本会の見どころをご紹介する。

取材・文
佐々木圭嗣
取材・文
佐々木圭嗣 編集者/ライター

ONTOMO編集部員/ライター。高校卒業後渡米。ニューヨーク市立大学ブルックリン校音楽院卒。趣味は爆音音楽鑑賞と読書(SFと翻訳ものとノンフィクションが好物)。音楽は...

写真: 編集部

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

「ストラディヴァリウス」といえば、ヴァイオリン愛好家でなくとも一度は耳にしたことのある名前だろう。17世紀から18世紀にかけて活躍したイタリアの弦楽器職人、アントニオ・ストラディヴァリの手による最高峰の弦楽器だ。ヴァイオリンだけでなく、ヴィオラやチェロ、ギターなども少数ながら残されている。

ストラディヴァリが遺した奇跡とも呼ぶべき楽器を間近で見、その音を聴くことができる展覧会「ストラディヴァリウス300年目のキセキ展」が、10月9日より森アーツセンターギャラリーで開催されている。

アジア初の大規模な展覧会。世界中から21挺のストラディヴァリウスが集結!

東京ストラディヴァリウスフェスティバルの実行委員長、中澤創太氏(日本ヴァイオリン代表取締役社長)は、本展覧会の実現のために5年の歳月をかけたという。「一部の愛好家のみではなく、もっと多くの人々に音楽に親しんでもらいたい」という情熱が実を結んだ。

来歴を知らずとも目を奪わずにはいられない美しい楽器たちを、写真とともにいくつかご紹介したい。

サン・ロレンツォ(1718年製、宗次コレクション提供) 2018年で300歳になるストラディヴァリウス。横板には「栄光と富は、その家にあり」の文字。ストラディヴァリ直筆ではないかと言われている。マリー・アントワネットが実際に聴いていたと考えられる極めて貴重な楽器。
サビオナーリ(1679年製、クレモナ市ヴァイオリン博物館提供) 世界に5~6挺ほど存在するギターで、唯一演奏できる作品。
ロード(1722年製、アシュモレアン博物館提供、日本初展示) 世界で10挺しか確認されていない、装飾的な意匠が施されたストラディヴァリウス。木目も大変美しい。

毎日コンサートを開催。演奏者の呼吸を感じられる距離で音色を堪能できる

初日のオープニングセレモニーでは、ヴァイオリニストの神尾真由子さんが、1731年製のストラディヴァリウス「Maurin Rubinoff(モーラン、ルビノフ)」を手に、美しい旋律から技巧を問われる細かなパッセージまで、精細な表現を披露してくれた。

ヴァイオリニスト、神尾真由子さん。《タイスの瞑想曲》《ホラ・スタッカート》を演奏

会期中は毎日コンサートが行なわれる。室内楽を聴いたことのない方は、この機会にぜひ味わってみてほしい。弦楽器の底知れなさを感じられるだろう。
街やネットで耳にする音楽がほとんどデジタルで制御されている時代だけに、たった1挺の楽器が作り出す音楽に心揺さぶられる体験は格別だ。

コンサートでは、展示中のケースの中から毎日違うストラディヴァリウスを取り出し、その場で生演奏を披露するという。21挺の個性は公式ウェブサイトでも見ることができるので、お気に入りの一品を探してみよう。

ストラディヴァリウスの何が凄いのか? クラフトマンシップの秘密に迫る

楽器の製造工程や、ストラディヴァリが実際に使用していた道具などを観覧できるのも本会の醍醐味。美術愛好家はもちろん、モノづくりに従事するクリエイターにとって、職人の技と魂に触れられる貴重な機会だ。

93歳まで生きたとされるストラディヴァリ。生涯を通じてより良い弦楽器を追い求め、作風を変えていったため、工房に遺された道具の数はなんと700以上にものぼる。
イタリア・クレモナ市ヴァイオリン博物館からやってきたツールたち

会場には、トリエンナーレ(世界最大の弦楽器製作のコンクール)で第1位を獲得した作家、フランチェスコ・トト氏が常駐し、クラフトマンシップを披露してくれる。

トト氏は大変気さくな方で、「どうやってこの楽器表面のカーブを作り出すんですか?」「そのツールは何に使うんですか?」等々といった質問に答えつつ、実際に木を削りだす作業を見せてくれた。クレモナの工房の様子が目に浮かぶようだ。

フランチェスコ・トト氏。会期中は常駐し、手仕事を見せてくれる
白木の削り出しには約1か月かかる
トト氏の道具たち
現代のヴァイオリン工房で使われている道具。用途が気になる人はトト氏に尋ねてみよう

ストラディヴァリの工房から、サントリーホールに至るまでの音響空間を再現したインスタレーションでは、ヘッドフォンでストラディヴァリウスの音色を聴くことができる。
工房で鳴っていたと思われる素朴で温かみのある音色は、時代を経るにつれ、より広大な空間に響き渡っていく。現代の音響技術の粋を実感するとともに、音楽を聴くスタイルの変遷を追体験しよう。

再現される音響空間は、ストラディヴァリの工房、アントワネット妃が暮らしたヴェルサイユ宮殿、旧ゲヴァントハウス、そして東京のサントリーホール。
タイムスリップしたような不思議な感覚を味わえる

それにしても、ここまで世界中の人々を惹きつけてやまないストラディバリウスの魅力の源とは、一体どこにあるのだろう。

「木やニスといった素材なのか、卓越したクラフトマンシップのせいなのか、はたまた人間の感動の仕組みにキーがあるのか」

ひとりの職人が生み出した楽器が、さまざまな人の手を渡って、西洋音楽誕生の地から遠く離れた極東にやってきた。時間という縦軸、西洋・東洋という横軸にまたがって楽器が存在し、未だにその音色を聴くことができるという事実に、果てないロマンを感じる。
ストラディヴァリウスの神秘性をどこに見出すかは、人それぞれかもしれない。ぜひ会場であなたの“奇跡”を見つけてほしい。

開催概要
「ストラディヴァリウス 300年目のキセキ展」

会場: 森アーツセンターギャラリー
会期:
10月 9日 (火)15:00~22:00
10月10日(水)10:00~17:30
10月11日(木)12:00~22:00
10月12日(金)10:00~17:30
10月13日(土)10:00~22:00
10月14日(日)10:00~22:00
10月15日(月)10:00~17:30

チケット情報(消費税込):
一般 2,300円/中・高・大学生 1,500円/小学生 800円/小学生未満は無料

公式サイト: https://tsf2018.com/

取材・文
佐々木圭嗣
取材・文
佐々木圭嗣 編集者/ライター

ONTOMO編集部員/ライター。高校卒業後渡米。ニューヨーク市立大学ブルックリン校音楽院卒。趣味は爆音音楽鑑賞と読書(SFと翻訳ものとノンフィクションが好物)。音楽は...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ