インタビュー
2022.06.19
いよいよ10月21日にリニューアルオープン

横浜みなとみらいホール館長 新井鷗子 海の見えるホールで全ての人に音楽のときめきを

横浜市、そして市内の様々な施設との強固な連携によって、市民に愛されている横浜みなとみらいホール。また響きの美しさは多くの一流アーティストから高い評価を受け、多彩かつ充実したコンサートのラインナップによって、多くのクラシック・ファンにとっても欠かすことのできないホールとなっている。
同ホールは、リニューアル改修工事のため長期休館中だが、いよいよ10月21日にリニューアルオープンが決定している。それにあたって多くの記念事業が予定されており、今回はその内容を同ホールの館長である新井鷗子氏に伺った。

長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

撮影:ヒダキトモコ

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市民に愛されるホールを目指して

——横浜みなとみらいホールは今年も開催される「横浜音祭り」をはじめ、多くの企画や事業を市や各種施設と行なっていらっしゃいますね。

新井 私たちのホールはまず、横浜市の皆様に愛されるホールを目指しています。“とにかく地元の方にお越しいただきたい”という想いから、親しみやすさを念頭に置いた公演をお届けするようにしています。

また、今回のリニューアルにあたってホールのコンセプトを『ときめく音楽を 海の見えるホールから』と新たに策定し、これにふさわしいものを意識したラインナップにしています。

 

休館前に撮影された横浜みなとみらいホールの内観。正面に鎮座するパイプオルガンは「ルーシー」の愛称で市民に親しまれている©平舘平

——今回のリニューアルオープンのオープニング(10月29日)を飾るのは、神奈川フィルハーモニー管弦楽団ですね。この点からも“地元愛”というものを強く感じます。

新井 神奈川フィルハーモニー管弦楽団、通称“かなフィル”は神奈川県が誇るオーケストラです。今回の指揮、そして選曲は、今年4月に音楽監督に就任された沼尻竜典さんで、“海の見えるコンサートホールから山の音楽を”というコンセプトのもと、リヒャルト・シュトラウスの《アルプス交響曲》と三善晃さんの《連禱富士》などが選ばれました。

その翌日には神奈川フィルが“ヨコハマ・ポップス・オーケストラ ”と名前を変え、様々なジャンルの楽曲を演奏してくださいます。

——どのような曲が演奏されるのでしょうか?

新井 創立30周年を迎える横浜JAZZ協会が、今をときめくジャズ作曲家の挾間美帆さんに新作を委嘱しました。タイトルは《ベイ・プロムナード》で、ジャズの街である横浜、そしてその歴史を感じていただける作品を……とお願いしています。2日間の公演を通して、かなフィルのサウンドを存分に味わっていただけるはずです。

今年4月に“かなフィル”の音楽監督に就任した沼尻竜典(上) ヨコハマ・ポップス・オーケストラ の公演で委嘱新作《ベイ・プロムナード》が初演されるジャズ作曲家の挾間美帆©Agnete Schlichtkrull(右)

音楽を通じて多様性を考える

——続いては、新井さんが力を入れていらっしゃる「インクルージョン」(多様性の包摂・包括)が形になった公演、「ミュージック・イン・ザ・ダーク」について教えてください。

新井 視覚障がいのある演奏家とない演奏家が共に暗闇の中で音を奏でて、一つの空間と音楽を共有します。東京藝術大学の制作による無料イベントの一環からスタートし、3回目からは有料公演となりました。

ソリストには和波たかよしさんに川畠成道さん、そして成田達輝さんと小林美樹さんをお迎えし、ヴィヴァルディの《四季》のそれぞれの楽曲をご担当いただきます。和波さんはこのシリーズの立ち上げに携わってくださった演奏家です。

もともとこの企画は、視覚障がいというものを多くの人に知っていただくために立ち上げたものです。今回和波さんをお迎えすることで、“原点に返る”ような気持ちでやっていきたいと思っています。

——暗闇で、というのは演奏者も聴衆も完全に同じ空間を共有することになりますね。

新井 そうですね。暗闇というある種の“恐怖”の中で奏でられる音を会場内のすべての人が共有するというのは特別な体験だと思います。また、常に真っ暗、というわけではなく、様々な照明の演出も行ないます。ぜひ特別な時間を味わっていただきたいです。

クラシック音楽の未来も見据えて

——今回は、昨年ショパン・コンクールで入賞された反田恭平さんと「Japan National Orchestra」による「横浜音祭り2022」のクロージングコンサートも、このリニューアル事業の一環として開催されますね、若い方からの注目度も非常に高いと思われますが……。

新井 プログラム発表前から大変な反響をいただいているのですが、このことからも反田さんがそれだけ多くの人々に愛されるアーティストだということがわかりますね。

通常のクラシックコンサートであれば“何を演奏するか”がかなり重視されますが、反田さんの場合、何を弾くかよりも“反田さんのコンサートにいきたい!”という方が多く、しかも若い世代の方もたくさんいらっしゃいます。彼がポップスのミュージシャン並みの人気を得ているということが窺えますね。時代を切り開くアーティストだと思います。

新井館長が「時代を切り開くアーティスト」と評するピアニストの反田恭平

その他にも、小林愛実をはじめ世界で活躍するピアニストたちが登場する「第40回横浜市招待国際ピアノ演奏会」、ホール初登場のアンドリス・ネルソンス率いるボストン交響楽団による公演、「横浜みなとみらいホールプロデューサー2021-2023」に就任したカウンターテナーの藤木大地と井上道義率いるNHK交響楽団の公演、今年第2代ホールオルガニストに就任した近藤岳によるオルガン・リサイタルなど、注目公演が並ぶ。

また、ホールのマーケティングにあたり東洋学園大学の現代経営学部の学生とのコラボレーションが行なわれている。様々な発信の仕方で、さらに若い世代からの注目も集まりそうだ。

新井 鷗子(あらい・おーこ)

東京藝術大学音楽学部楽理科および作曲科卒業。NHK教育番組の構成で国際エミー賞入選。これまでに「題名のない音楽会」「読響プレミア」「東急ジルベスターコンサート」「エンター・ザ・ミュージック」等の番組やコンサートの構成を数多く担当。 東京藝大COI拠点にて障がい者を支援する芸術の研究に携わり、1本指で弾ける楽器「だれでもピアノ®︎」を開発に携わった。著書に「頭のいい子が育つクラシック名曲」(新星出版)、「音楽家ものがたり」(音楽之友社)等。東京藝術大学客員教授、洗足学園音楽大学客員教授、東京大学「先端アートデザイン分野」アドバイザー。横浜音祭りディレクター。

横浜みなとみらいホール リニューアルオープン記念公演ラインアップ
新たな出発を祝うオーケストラの響き

沼尻竜典指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
日時・会場:10月29日(土)15:00   大ホール

 

ヨコハマ・ポップス・オーケストラ2022
日時・会場:10月30日(日)17:00   大ホール

 

井上道義指揮 NHK交響楽団 藤木大地(カウンターテナー)
日時・会場:11月3日(木・祝) 17:00   大ホール

 

反田恭平&Japan National Orchestra
日時・会場:11月6日(日) 15:00    大ホール

 

アンドリス・ネルソンス指揮 ボストン交響楽団
日時・会場:11月9日(水) 19:00    大ホール

40年の歴史を受け継ぐ、伝統のピアノフェスティヴァル

第40回 横浜市招待国際ピアノ演奏会
日時・会場:11月19日(土) 15:00 小ホール

新ホールオルガニスト就任記念リサイタル

近藤 岳 オルガン・リサイタル
日時・会場:11月25日(金) 19:00   大ホール

音がつなぐ、共生社会への願いを込めて

ミュージック・イン・ザ・ダーク®
日時・会場:11月1日(火) 15:00   小ホール

 

横浜みなとみらいホール リニューアルオープン記念公演ラインアップの詳細はこちら

長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

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