古田新太がベートーヴェン役に!「パンクでカッコいい面を伝えたい」
映画『ベートーヴェン捏造』にベートーヴェン役で出演する俳優・古田新太さんにインタビュー!
これまでベートーヴェンに抱いていたイメージや好きなベートーヴェン作品について、じっくり語ってもらいました。そして、クラシックバレエの経験談や音楽の楽しみ方まで、古田新太ワールドが炸裂します。
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...
アントン・フェリックス・シンドラーといえば、ベートーヴェンが「交響曲第5番」について「運命はこのように戸を叩く」と語った、というホラ話(!)を広めた人としてクラシックファンにはおなじみだが、彼がどのように「ベートーヴェン像」を作り上げていったかについて書かれたのが、かげはら史帆が2018年に書いたノンフィクション『ベートーヴェン捏造—名プロデューサーは嘘をつく—』。ベートーヴェンの会話帳を丹念に調べた修士論文をもとにしつつ、全体をライトな文体でサスペンス風の物語に仕立て上げ、音楽ファンのみならずミステリーのファンの間でも大きな話題となった。
そしてこの9月、ついに本作が映画化。脚本を手がけたのは、お笑い芸人であり、また司会・俳優・脚本などマルチに活躍するバカリズム。監督はPerfumeのミュージックビデオなどで知られる関和亮。ベートーヴェンを演じるのは、劇団☆新感線の看板俳優であり、テレビや映画でその顔を見ない日はないほどの人気を誇る古田新太。幼い頃クラシック・バレエを習い、クラシック音楽も大好きという古田が映画について、ベートーヴェンの人物像や音楽についてたっぷり語ってくれた。
古田新太が“破壊者”ベートーヴェンを演じる
——ベートーヴェン役のオファーが来た時のお気持ちをお聞かせください。
古田 ついにドイツ人役が来たか、と(笑)。脚本のバカリちゃん(バカリズムの愛称)と関監督が、原作にはない「日本の中学生が妄想している世界」という枠組みを考えてくれたので、共演者も含めて特に外国人を演じるということは意識することなく、とても楽しく演じられました。
劇団☆新感線の看板役者。大阪芸術大学在学中の1984年から劇団☆新感線に参加。エネルギッシュな迫力ある演技には定評がある。劇団公演以外の舞台にも積極的に参加している他、自身で企画・出演を務める演劇ユニット“ねずみの三銃士”などもある。活躍の場は広く、バラエティ番組への出演や多くのCM出演、コラムニストとして雑誌連載を持つほか、著書に『気になちょるモノ』『ドンジュアンの口笛』『魏志痴人伝』『柳に風』がある。
——古田さんご自身は、ベートーヴェンをどんな人だと思っていらっしゃいますか。
古田 破壊者。「第九」に合唱をぶち込んでくるとか、「運命」みたいな衝撃的な曲を貴族の前で演奏しちゃうとか、それまでのクラシック音楽の世界では考えられないことをやった人ですよね。ハードロックだしパンクです。
音楽家としては天才だったんですけど、だからこそ逆に人間的には「変人」で絶対に情緒不安定だったと思ってました。じゃなきゃ「第九」のように交響曲にコーラスを入れるなんて思いつくはずがない。今回の作品で描かれているような偏屈でかんしゃく持ちで変わり者のベートーヴェン、というのはおいら自身が思っていたイメージと同じだったので、とても演じやすかったです。
ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》、交響曲第9番《合唱付き》
——ベートーヴェンは耳が不自由でしたが、演じるうえでご苦労などはありましたか。
古田 後天的に耳が不自由になった人なので、発音は普通にできたんですよね。ただ相手の声は聞こえないので、そこで会話帳を介しての「会話」になる。他の人たちが筆談で書いた文字を読んでから怒るので一瞬そこに空白が生じるんですね。そのコミュニケーションのスピード感のズレが、演じていて面白かったところです。
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——映画の中で、印象に残っているシーンはありますか。
古田 「第九」を指揮するシーンは楽しかったですね。「第九」は4拍子の曲だけど指揮は2拍子で振るんです。4拍子で振ると柔らかさが出ちゃうから、より激しさを出すには2拍子で振るほうがいい、と指揮の先生に教えられてなるほど、と思いました。
「第九」が終わってみんなが盛大な拍手をしているのに、ベートーヴェンは耳が聞こえないから気づかなかった、という有名なシーンも、本人は至ってマジメなんだけど側から見るとちょっと滑稽で、でも感動的で。ベートーヴェンという人のチャーミングな人間的魅力が表れていると感じました。人間的には変人だったかもしれないけど、音楽家としては紳士だったということがわかるシーンだと思います。
古田新太流、演じるポリシー
——スクリーンやテレビのこちら側にいる人間からすると、「古田新太」という俳優はかなりアヴァンギャルドでパンクなイメージで、先ほどおっしゃったベートーヴェン像と重なるんですが、ご自身とベートーヴェンとの共通点はあると思われますか。
古田 いや、それはないです。おいらはどの現場に行っても監督や演出家に言われた通りにやるから。アドリブとかはやらない。言われた通りに演じられるように準備をするのが役者の仕事です。
今回シンドラーを演じたや~まだ(山田裕貴)なんかは信じる力が強くて、でも役によって心の方向を変えることができるから、いろいろな役ができる。頑なな俳優は何やったって同じになっちゃう。例えば舞台やりながら映画やってテレビやって、ということは普通にありますから、カットがかかったらすぐその役が抜けていかないとダメ。それができない人は役者じゃない。
——それは俳優を始められた最初からできたんでしょうか。
古田 クラシック・バレエをやっていたときに「ロットバルトの手下」っていう役を演じたんです。しかもそのあと、宮廷のシーンでボーイをやらなくちゃいけなくて、それで「役が抜けない」とか言ってられないじゃないですか(笑)。
それからアングラ演劇や小劇場に行って、そこでは馬やムカデなんかも演じて。そうした板の上の世界から映像の世界に入ったから、カットがかかったらフレームから外れてすぐに素に戻ることは当たり前なんです。
音楽を面白がって楽しんでほしい
——古田さんとベートーヴェンの音楽との出会いはいつ頃、どんな形だったのでしょうか。
古田 小学校の音楽の授業だと思います。ほかの作曲家の曲に比べていい意味で「うるさい」音楽だなあ、と。ストリングスにしても「ガンガン弾く」ような激しさがあり、例えばそれまでのモーツァルトなんかのオーケストラ曲とはずいぶん違う。「こんな激しくていいんだ」と思ったのを覚えています。
その後バレエを習い始めてチャイコフスキーとかヨハン・シュトラウスなんかに親しみましたが、彼らともまた違う。やっぱりベートーヴェンはカッコイイと思いますね。
——どんな曲にいちばんカッコよさを感じますか。
古田 やっぱり「運命」はすごかった。でも、ピアノ・ソナタ「月光」を聴いたときには、こんな静かで穏やかな曲も作るんだ、って思いました。静かな曲から激しい曲まで、そのギャップがすごい。そのとき自分が面白いと思うものを作っちゃう。そこにベートーヴェンの人間性が表れてると思います。そういうところが、面白がれる人間にはたまらないんじゃないかな。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番《月光》
——この映画は、そういうベートーヴェンの人間的な魅力を見せてくれているように思います。
古田 音楽って音を楽しむものなんだから、マジメにとらえすぎる必要はないと思うんですよ。ジャズのように楽しんでもいいし、「シューベルトの髪型おかしい」ってとこから入っても全然いい(笑)。このヘンな髪型のおじさんが作った音楽ってどんなの? っていう興味から聴き始めていいんです。
だからこの映画が、音楽室の壁に貼ってある鹿爪らしい顔した「楽聖」というベートーヴェンのイメージを壊して、実はこんなにパンクでカッコいいんだよ、ということを伝える一歩になればいいと思っています。
映画の中にはたくさんベートーヴェンの曲が出てくるので、大人のクラシックファンの方にも観てほしいですし、普段クラシックを聴かない中高生の人たちにも「聴いたことあるけどこれってベートーヴェンだったんだ」という発見があると思うので、ぜひ観にきてほしいです。
公開日: 2025年9月12日(金)全国公開
出演: 山田裕貴、古田新太、染谷将太、神尾楓珠、前田旺志郎、小澤征悦、生瀬勝久、小手伸也、野間口徹、遠藤憲一
原作: かげはら史帆『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(河出文庫刊)
脚本: バカリズム
監督: 関和亮
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