田中彩子~デビューから「台風の目の中」で進んできた10年、さらなる挑戦へ
デビューから10年、自分らしい表現をもっと解放する「自由」を得た
——デビュー10周年おめでとうございます! 振り返ると、どんな10年間だったと感じていますか?
田中 日本デビューの年から10年。改めて考えてみましたが、一言で言うならば、あっという間だった。ですが、その「あっという間」というのは、嵐のように過ぎ去ったわけでもなく、気がついたら過ぎていたような瞬きの時間でもなく、まるで台風の目の中にいたような、動いているのだけれど時が止まっているような、不思議な時空間にいたような気持ちでいます。
どの年も多くの思い出やその時の感情が今でも鮮やかに蘇り、ひとつひとつが記憶に残っています。それは言葉では言い表せないくらい深く重く、自分の人生にとって特別な時間だったのだと思います。
自身の考え方や捉え方も、楽器である自分の体も、いろいろな経験を通して少しは成長できたかな、と願うと同時に、じっくり噛み締めながら過ごせたこの10年という時間をこれからどうやって音楽に落とし込んでいこうか、今はすでにそのことで頭がいっぱいです。
——デビューから9年目となる昨年のアルバム『プレイ コロラトゥーラ』でも、デビューから変わらない軽やかなコロラトゥーラが印象的です。声を保つための秘訣は?
田中 良い声を出す、良い声に育てていくためには、とにかく心も体も健康に過ごすということが肝心だと思いますので、季節のものをいっぱい食べて、たくさん笑って、たくさん寝る。ということをいちばん大切にしています。
あとは自分の体の声をよく聞くようにすること。体が楽器ですから、なにか信号が出たら、すぐに気がつけるように体と対話しておくことは大切です。
それ以外では、いつもなるべく新しいことに触れる機会や、さまざまなことに興味を持ち続けることを心がけています。
▼デビュー・アルバム「華麗なるコロラトゥーラ」発売から10周年を記念して、これまでに発表した4枚のアルバムからセレクションされたベスト盤「ベスト・オブ・ハイコロラトゥーラ」
——ご自身の歌声、そして歌に対する考え方はどう変わってきたでしょうか。
田中 もっと、自由になったと感じます。自由というのは、好き勝手に歌うのではなく、自分らしい表現をもっと解放するという感覚です。
歌は、楽譜に書いてある作曲家の心情がよりダイレクトに伝わるものだと感じています。そこに歌い手の心情がどのように被さってくるかで、いろいろな表現ができる楽しさがある。そういったことが、以前であれば、なかなか柔軟に捉えられなかった部分もあったのですが、大人になるにつれて、感情ひとつにしてもさまざまな形があるのでは、と思い至りました。
人間の心とは複雑です。だからこそ愛の歌でも悲しい歌でも、その表現方法は星の数ほどあるということ。そういうふうに感じられるようになりましたね。
個性的な数々のプロジェクトを経て、さらなる挑戦へ
——歌だけでなく、さまざまな分野との関わりに積極的な田中さんですが、とくに印象的だったコラボレーションを教えてください。
田中 個性の強いプロジェクトばかりなのでどれも印象的ですが、以前ONTOMOさんで連載させていただいていた、毎回音楽家以外のいろいろな職業の第一人者の方々と対談をする企画「明日へのレジリエンス」。この連載を通して、わたし自身ひじょうに勉強になりましたし、音楽を客観的に見ることができたので刺激的でした。
田中 わたし自身でゼロからすべて企画・制作をした、帳ひとつで世界中どこでも上演できるミニマルな作品を目指した能楽師とのモノオペラ《ガラシャ》や、渋谷慶一郎さん、Evalaさんと組んだ電子音楽とのコラボレーションもとても印象に残っています。
——これからの10年、チャレンジしたいことや展望を教えてください。
田中 これからも新鮮な気持ちでいろいろなことに挑戦し続けていたいですね。コロラトゥーラという技術にはまだまだ未知の領域があると感じていますので、今までにないさまざまな「使い方」があると考えています。
そのために、物事を柔軟に捉えられる感覚をいつも持っていたいです。先ほどもお伝えしましたが、なるべく新しいことに触れる機会、さまざまなことに興味を持ち続けたいです。そうやって自分の心や考えが育つことで、最終的な「声の色」になる。
そして細かい感情に気づくためには考えないと気がつけないこともあります。なので、文学などを読むこともとても大切なことだと思っています。そういうことをしながら、独自の道をマイペースに進んでいき、閃いたこと、興味を持ったことをできる限りやっていきたいですね。
まずは、やはり引き続きいろいろな方とのコラボレーションでしょうか。もしくは青少年に向けた斬新な企画でしょうか。やりたいことはたくさんありますので、ひとつひとつチャレンジしていけるような10年になったらいいなと思います。
デビュー10年を記念したベスト・アルバム! 田中彩子『ベスト・オブ・ハイコロラトゥーラ』7/24発売
日程・会場:
2024年9月16日(月・祝)【長野】八ケ岳高原音楽堂 主催:八ヶ岳高原音楽堂
9月27日(金) 【北海道】札幌コンサートホールKitara 小ホール 主催:オフィス・ワン
10月5日(土) 【愛知】豊田市コンサートホール 主催:東海テレビ
10月27日(日) 【大阪】住友生命いずみホール 主催:ABCテレビ
11月2日(土) 【宮城】白石市文化体育活動センター ホワイトキューブ 主催:(公財)白石市文化体育振興財団
11月30(土) 【山口】防府市地域交流センター アスピラート 主催:(一社)arte75
12月8日(日) 【京都】京都府丹後文化会館 主催:(公財)京都府丹後文化事業団
12月13日(金) 【東京】紀尾井ホール 主催:エイベックス・クラシックス・インターナショナル
12月15日(日) 【福岡】福岡シンフォニーホール 主催:九州朝日放送
12月25日(水) 【東京】紀尾井ホール 主催:エイベックス・クラシックス・インターナショナル
出演:
田中彩子(ソプラノ)
佐藤卓史(ピアノ)
市 寛也(チェロ) ※東京・大阪・愛知・北海道・長野・宮城・京都公演
渡部玄一(チェロ) ※山口・福岡公演
各公演の詳細はこちらから
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