
鈴木優人×大西宇宙 最前線のクリエイター集結!《フィガロの結婚》開幕直前インタビュー

2026年2月19日からめぐろパーシモンホール 大ホールで幕を開けるモーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》。
一昨年の《魔笛》、昨年の《ドン・ジョヴァンニ》に続く、鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)によるモーツァルト・オペラシリーズの第3弾だ。このシリーズの大きな特徴は、ピリオド楽器の団体であるBCJの18世紀的な響きと国内外の第一線で活躍するキャストに加え、世界的クリエイターが舞台美術を担当することにある。「いろいろな創造力が集まっている異種格闘技」(鈴木優人)という表現もうなずける。
開幕直前のいま、稽古現場の熱い空気をまとった鈴木優人さん、大西宇宙さんのおふたりに、今回の上演の見どころを伺った。

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...
稽古現場にはモーツァルトの自筆楽譜が
——稽古場には、《フィガロの結婚》の自筆楽譜が置いてあるそうですね。
大西: いま出版されている楽譜は整理されたものだから、自筆譜を見ると、本当はこうやりたかったのだなというモーツァルトの意図がわかって、僕らのやることにも説得力が出るんですよね。
鈴木: たとえば第2幕フィナーレで、B管で吹いていたホルンが突然G管になったり。モダンのオケだとできちゃうからそのまま吹いてしまうんだけど、モーツァルトの意図がそうなっているとわかると、よくいう「普通」ってなんだろうと思うんですよ。今作のキャストやスタッフはいまの常識にとらわれることなく試行錯誤を重ねて高みを目指していて、《フィガロの結婚》のような複雑なオペラでそういうことができるのは、みんなに興味と献身があるんだと思います。いいチームですよ。
大西: キャストはみんないろいろな経験があって、自分なりのやり方がある人もいると思うのですが、そういうことに全然こだわらないで、稽古の初日から高揚していて。リスペクトし合う、インターナショナルなチームです。

バッハ・コレギウム・ジャパン首席指揮者、読売日本交響楽団指揮者/クリエイティヴ・パートナー、アンサンブル・ジェネシス音楽監督、関西フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者。2025年1月にはBCJヨーロッパ公演にて、自身の補筆校訂版によるモーツァルト「レクイエム」を7都市で指揮。11月にはパリ管弦楽団との初共演を予定。オペラにおいては、鈴木優人プロデュース・BCJオペラシリーズでモンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》やヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》、Bunkamura Produceではモーツァルト《魔笛》《ドン・ジョヴァンニ》、新国立劇場グルック《オルフェオとエウリディーチェ》など上演。第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞をはじめ、受賞歴多数。調布国際音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサー、九州大学客員教授も務める。
写真右、大西宇宙(バリトン、フィガロ役)
武蔵野音楽大学、同大学院、ジュリアード音楽院修了。シカゴ・リリック歌劇場にてデビュー。2019年、セイジ・オザワ 松本フェスティバルにて《エフゲニー・オネーギン》で日本オペラデビュー以降、昨今では兵庫県立芸術文化センター《ドン・ジョヴァンニ》、びわ湖ホール《ローエングリン》《ニュルンベルクのマイスタージンガー》、新国立劇場《愛の妙薬》《コジ・ファン・トゥッテ》、BCJ《リナルド》《ジュリオ・チェーザレ》、Bunkamura Produce 鈴木優人&BCJ《魔笛》、ダラス・オペラ《ラ・ボエーム》、ミネソタ・オペラ《セビリアの理髪師》等で卓越した歌唱力と演技力が高評された。
五島記念文化賞オペラ新人賞、日本製鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞、第74回芸術選奨文部科学大臣新人賞、ホテルオークラ音楽賞受賞。CDは「詩人の恋」(ピアノ:小林道夫)をリリース。
《フィガロの結婚》は難しい?楽しい?
——どこかで聴いた旋律がどんどん出てくる《フィガロの結婚》は大人気オペラですが、ストーリーは結構入り組んでいますね。
鈴木: 《フィガロの結婚》はまず長い。分量が多いです。演出家にとって成立させなければならない話の筋もたくさんある。そのひとつひとつに演技をつけるのは、すごく時間がかかります。
大西: 第2幕と第4幕のフィナーレなんかすごく長いし、物語の展開が激しい。でも、楽しいんです。
鈴木: ドタバタ喜劇で本当に楽しいし、伯爵が懲らしめられる勧善懲悪の面もありますよね。
今回、いつもカットされる第4幕のマルチェリーナのアリアやバジリオのアリアをやるんですよ。
マルチェリーナは要の役で、最初は意地悪だったのがフィガロの母とわかって母性的になり、アリアでは女性蔑視を動物に例えてやり込める。カットされていたのは、男尊女卑があったからかもしれないです。でもこの曲があることで、プログラムとして成立するんです。
バジリオのアリアは、一般市民である我々がどう生きていくかについてのちょっとレベルの低い内容ですが、それをやることでいろんな脇役まで成立するんですよ。
大西: モーツァルトはキャラクターの中身を細かく描いているんですよね。特にフィガロは、彼が語ること、人間の幸せや自由平等博愛の精神がそのままフランス革命の理念につながっている。それを市民のためのコメディでやっているところが、この作品の偉大なところです。
フィガロはボーマルシェそのもの
——モーツァルト・オペラで大活躍の大西さんですが、フィガロは初役ですね。
大西: 先日アメリカで、ロッシーニの《セヴィリアの理髪師》のフィガロを初めて演じたので、役柄を考えるいいきっかけになりました。
原作になったボーマルシェの『セビリアの理髪師』初演時に、フィガロのキャラクターに人気が出て、ボーマルシェが続編を書いたのが『フィガロの結婚』です。だから『フィガロの結婚』のフィガロの方がより内省的になっています。
オペラでも、モーツァルトの《フィガロの結婚》のフィガロはより成熟していますよね。彼の出自が語られて、貴族に求められたい欲求がある。それはボーマルシェも同じでしたから。フィガロという名前も、ボーマルシェが「カロンの息子file de caron(フィデカロ)」と呼ばれていたところからきているという説もあるほど、キャラクターと一心同体なんです。
鈴木: 音楽教師のバジリオだってカメレオン的で、ボーマルシェのカメオみたいなものかもしれない。誰一人として普通の人がいないし、みんなキャラが立っている。それも人気の秘密かもしれません。
舞台は憧れのザ・キャピトルホテル東急へのオマージュ! 飯塚励生&隈 研吾のクリエイティビティ
——今回の演出では、演出の飯塚励生さんと建築家の隈 研吾さんのアイデアで、舞台が伯爵の館からザ・キャピトルホテル東急をオマージュした「架空のホテル」に置き換えられています。
大西: ホテルを舞台にしたときに、演出の飯塚励生さんは《フィガロ》の封建制度的な背景を理解して、キャラクターのそれぞれにどういう身分がふさわしいのかを深く考えてくれて、とても演じやすいです。
鈴木: 丸山敬太さんの衣装も、現代的でアイコニックです。服が物語の鍵にもなってきます。丸山さんはオペラの衣装を手がけるのは初めてなのですが、念願だったそうです。舞台美術は隈 研吾さんで、テーブルや椅子まですべて彼の作品です。オペラは、ひとりひとりのアーティストの芸術性が生きる、総合芸術なんですよね。
大西: このシリーズのように、初めてオペラに携わるアーティストがクリエイティブにアイデアを出し合うことは、海外でもあまりない貴重な経験です。

魅力的なキャストたち ヨーロッパ伝統的オペラハウスの理想的距離感
——国内外の第一線で活躍する、そしてBCJの世界観に合う歌手たちが登場することもこのシリーズの魅力ですね。
鈴木: スザンナを歌うジュディト・ファーとアルマヴィーヴァ伯爵役のダニエル・グートマンは演技も歌もいいし、チャーミングです。日本人キャストもみんないきいきしていますよね。アントーニオ役の渡辺祐介君も森麻季さんの美しい伯爵夫人も適役です。合唱団にも、飯塚さんが演技をつけているんですよ。

大西: 座席数1200、ヨーロッパの伝統的なオペラハウスに近い規模のめぐろパーシモンホール 大ホールという会場も、BCJのオペラにはぴったり。前々回《魔笛》でパパゲーノを歌ったときに、色合いもよくて感激しました。
鈴木: パーシモンホールはコンパクトな距離感で、音響もよくピットとのコンタクトもいい。お客さまもそれぞれのアーティストの息遣いを感じる親密な空間でオペラを楽しめると思います。
——《フィガロの結婚》は、絶対的な幸福感をもたらしてくれるオペラ。最前線を走るクリエイターたちが魅せてくれる今作は、永遠の名作の新たな魅力を教えてくれますね、たいへん期待しています。

日時:
2026年2月19日(木)16:00開演
2月20日(金)16:00開演
2月22日(日)14:00開演
2月23日(月・祝)14:00開演
会場:めぐろパーシモンホール 大ホール
出演:
アルマヴィーヴァ伯爵(バリトン):ダニエル・グートマン
伯爵夫人(ソプラノ):森 麻季
フィガロ(バリトン):大西宇宙
スザンナ(ソプラノ):ジュディト・ファー
ケルビーノ(メゾ・ソプラノ):オリヴィア・フェアミューレン
マルチェリーナ(メゾ・ソプラノ):藤井麻美
ドン・バルトロ(バス):氷見健一郎
ドン・バジリオ/ドン・クルツィオ(テノール):新堂由暁
アントーニオ(バス):渡辺祐介
バルバリーナ(ソプラノ):安川みく ほか
管弦楽・合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン
スタッフ:
指揮:鈴木優人
演出:飯塚励生
美術:隈 研吾
衣裳:丸山敬太(KEITAMARUYAMAデザイナー)
舞台監督:井坂 舞・幸泉浩司(アートクリエイション)
料金:
S¥29,000 A¥24,000 B¥19,000 C¥16,000(税込)
サイドビューシート(特別企画券/1階LB・RBバルコニー前方):¥25,000(税込)
*C席・B席完売
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244
関連する記事
-
読みもの手紙から見えてくる「最高のコンビ」だったモーツァルト父子
-
読みもの第3回モーツァルト《フィガロの結婚》〜男は愛嬌、女は度胸
-
読みものモーツァルトの生涯と主要作品
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest

















