生ける伝説、バーヨーク・リーが振り返る『コーラスライン』裏バナシ
日本では、劇団四季が79年に日本語版を上演し、当時は演出のマイケル・ベネット本人が来日しして舞台稽古を行った『コーラスライン』。06年にはリバイバル公演が行われ、そのオーディション風景を映したドキュメンタリー映画『ブロードウェイ♪ブロードウェイ~コーラスラインにかける夢~』は、2008年に公開。1975年の初演から現在まで愛され続けるこのモンスター演目がこの夏「LION presents ブロードウェイミュージカル『コーラスライン』」として上演。作品の魅力を創設メンバーの一人であるバーヨーク・リーが思い出とともに語る!
1975年の初演から今までの間、愛され続けているブロードウェイ・ミュージカルといえば『コーラスライン』。創設メンバーの一人で、コニー・ウォンのオリジナル・キャストを務めたバーヨーク・リーは、2017年に演劇界最高の賞であるトニー賞で功労賞にあたるIsabelle Stevenson Awardを受賞した、演劇界の生ける伝説。このほど日本で上演される、LION presents ブロードウェイミュージカル『コーラスライン』は、リーが率いるカンパニーで、今年1月から全米でツアーをしていたバージョン。昨年、彼女は来日し、高校生へのスペシャルレッスンをした様子が、NHKの『奇跡のレッスン 挑戦!高校生版“コーラスライン”ミュージカル編』で放映されたが、その来日時に『コーラスライン』の魅力や裏話を聞くことができた。
コニーのエピソードは実際のリーの体験!? ダンサーへの夢やキャリアの悩みが作品化のヒント
――伝説の演目となった『コーラスライン』の生みの親、マイケル・ベネットさんに一番近くにいたのはリーさんですよね。
リー そうなんです。私達は10代のときにダンススクールで知り合いました。当時、ブロードウェイでダンサーとして共演をしたんですが、そのときから彼は「僕はダンサーではなく、演出や振り付けをやりたい」と決意していました。まだ若いのにそんなことを言って、と思う反面、私はとても誇らしかったのを覚えています。
――ドキュメンタリー映画『ブロードウェイ♪ブロードウェイ~コーラスラインにかける夢~』では、『コーラスライン』初演前のワークショップの模様まで音声が使われていましたね。
リー そう。でも、あれはとてもショックだったのよ。
――それはなぜ?
リー じつはあれは私はもちろん、オリジナル・キャスト誰一人として聞いたことがなかった音源なんです。だから、映画を観て本当にビックリしたんですよ。でも、映画だからね。出ちゃったものは仕方ない。舞台はキャスティングから始まりますし、その模様がドキュメンタリーに収録されるのも、納得せざるをえませんよね(笑)。
――でも、彼の肉声を聞くことができたのはお宝でした。
リー それは私もそう思うの。だって、マイケルが元気だったころの声だし、私達が一緒に作り上げた『コーラスライン』の歴史そのものだったからね。それに、あのドキュメンタリー映画では、リバイバル版のオーディションの模様が出てくるけど、舞台俳優、ミュージカル俳優を目指す人ならずとも、オーディション風景の悲喜こもごもというのはドラマティックなものですからね。受かる喜び、落ちるつらさ、だけではない人間模様が描かれていて、非常に興味深かったです。
――リーさんはオーディションにも何度も立ち会っていますが、何か思い出はありますか?
リー 『コーラスライン』がどれほど俳優達から支持されていて、どうしても出たい演目か、ってことがわかるのがオーディションのときなんですよ。だって、何週間もかけて行うものなんですが、一回あたり50人をまとめて審査するんですよ。オーディションに来るトータルの人数は、2000人を超しているの。
――ひえええ……。お客さんだけじゃなくて、役者支持が高い! やはり役者の舞台裏の話という身近なストーリーだからですかね。
リー そもそもなんですが、この作品を作った当時は、テレビ全盛だったので、ブロードウェイが瀕死の状態だったんですよ。ダンサーをたくさん使った古き佳きミュージカルは、予算がつかなかった時代。そこでマイケルは「僕達ダンサー自身の生き様を描くストーリーを作りたいんだ」と言って作り始めたのがこの演目なんです。
――70年代同時期でミュージカルの舞台というと、ボブ・フォッシーの『キャバレー』や『シカゴ』がありますが。
リー そう。彼の作品も素晴らしいわ。でも、いわゆる黄金期の大規模なミュージカルではありませんでしたからね。当時求められていたのはポップカルチャーだったんですよ。そこに憂慮したのがマイケルだったんです。彼はダンサーになりたかった子どもの頃の夢や、キャリアについての悩みなどを仲間達に打ち明けて、それを「何かの形にしたい」といってオフ・ブロードウェイのパブリックシアターに企画を持ちこんだんです。当時、私も彼のアシスタントを務めていたので、私も自分の昔話をしました。それがそのまま、私が演じたコニーのエピソードになっています。
――形を変えながらも、43年もの間愛され続けている『コーラスライン』ですが、リーさんが「これが一番スゴイ」と思うところはどこでしょう?
リー 70年代はマイクなしで演じていましたが、今は役者それぞれにマイクをつけられるようになったのが大きな変化かしら(笑)? それはよしとして、一番すごいのは、なんといっても照明技術なんですよ。何度も観ている人達は気づかれると思うんですが、『コーラスライン』の照明はミュージカルの舞台としては歴史的に重要なこと。美術がすごくシンプルな分、役者がラインで並んだとき、ソロになったとき、どんなときも照明ひとつで台無しになる可能性があるんです。初演当時よりもオペレーションは簡単になりましたが、今でもそこは苦心しますよ。
――今回の来日公演について、どう感じてらっしゃいます?
リー 日本は何度も来ていますし、日本での多くの作品で仕事してきましたので、私にとって日本は第二の故郷のようなものです。それだけに、ここ日本で『コーラスライン』をこれまでずっと愛して下さっている皆さんはもちろん、これが初めてという若い皆さんに観ていただく機会ができるのは本当にうれしいです。この作品の、夢を叶えるための苦悩、という普遍的なテーマは、どんな時代でも人の心に響くものですよね。
今回のバージョンは初演の設定のまま変えずに、新しい世代のダンサー達が演じますが、それはこの作品自体がブロードウェイの歴史の一部となっているからです。それが伝われば幸いと思っています。
とある新作ブロードウェイミュージカルのコーラスダンサーのオーディション会場。わずか8つの枠をかけてニューヨーク中のダンサーたちが成功を求めて集まってくる。最終成功に選ばれたのは17人の男女。稽古着に身を包んだダンサーたちが、それぞれの想いを胸に〈コーラスライン〉──舞台の一番正面に引かれた、1本の白いライン──にズラリと並ぶ。
原案・オリジナル振付・演出:マイケル・ベネット 台本:ジェームズ・カークウッド&ニコラス・ダンテ
音楽:マーヴィン・ハムリッシュ 作詞:エドワード・クリーバン
オリジナル共同振付:ボブ・エイヴィアン
演出・振付・再構成:バーヨーク・リー
★日程:
東京公演 8月15日~26日、横浜公演 8月29日、浜松公演 8月30日、大阪公演 8月31日~9月2日、東京凱旋公演 9月5日~9日
★会場・料金:
【東京公演】東急シアターオーブ(東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ11F)S席¥13,000 A席¥11,000 B席¥9,000
【横浜公演】神奈川県民ホール大ホール(神奈川県横浜市中区山下町3-1)S席¥12,000 A席¥10,000 B席¥8,000
【浜松公演】アクトシティ浜松(静岡県浜松市中区板屋町111-1)S席:¥12,000 A席:¥9,000 B席:¥6,500
【大阪公演】オリックス劇場(大阪府大阪市西区新町1-14-15)S席:¥12,000 A席:¥8,000 B席:¥6,000
【東京凱旋公演】東京国際フォーラム ホールC(東京都千代田区丸の内3-5-1)S席¥13,000 A席¥11,000 B席¥9,000
※全席指定・税込 ※未就学児入場不可
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