インタビュー
2023.01.28
特集「ととのう音楽」 ヒーリング・ミュージックの老舗「デラ」の音楽製作者に訊く

「心と身体にやさしい音楽」の作り方〜豊富なタイトルでリスナーに寄り添う音楽を

取材・文
飯田有抄
取材・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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制作者が聴かせたいことではなく「リスナーに寄り添う音楽」を

生活の中でふと出会った音や音楽に、安心したり気持ちがほぐれることがあります。刺激をもらえる音楽作品もいいけれど、何も考えずデトックスできるような響きに、そっと身をゆだねたい時もありますよね。

実はそんな音楽を専門に作り続けている「デラ」という会社があります。創立はなんと50年前の1972年。

今でこそ「癒し」をテーマとした音楽はたくさんありますが、デラは1993年から「心と身体にやさしい音楽」をモットーとするヒーリング・ミュージックをいち早く世に送り出した、いわば老舗です。もう20年以上前にリリースされた『究極の眠れるCD』は、今もなお多くの人に聴かれ、シリーズ累計で50万枚以上も売れているのだそうです。結構、眠りに問題を抱える現代人、多いですよね……。

デラの作る音楽は「制作者が聴かせたいこと」ではなく、リスナーの側に寄り添う音楽です。カタログ(オンラインでも見れます)には、

「免疫力活性のための音楽」

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「究極の眠れる音楽」

「温活のススメ~冷え性解消の音楽」

「脳活性のためのミュージックセラピー」

「マインドフルネス~ストレス低減・大人の脳活性」

など、すごい数のタイトルがズラリと並びます。

これ聴いてみたいな、これも良さそう、これ私に必要かも……とあれこれ気になって、選ぶのも楽しくなってきます。

2023年2月22日に発売予定の新譜『不安解消のための音楽~オキシトシン活性』から「旅立ちの風~明日の私へ出会う旅」を聴いてみます。穏やかなハーモニーと、安定した拍子、広がりを感じさせるパーカッションの心地よい響きに包まれます。

『緊張緩和のための音楽』から「水溶性」は、水のせせらぎと、ピアノやギターやビブラフォンの透明感のある音色がそっと溶け合います。うん、気持ちがいい。

 

『不安解消のための音楽~オキシトシン活性』
『緊張緩和のための音楽』

専門家の監修で音作り、効果の調査も行なう

そうしたデラのアルバムは、どんなふうに作られているのでしょう。気になる工程について、デラで製作に携わる池田邦人さん、三留丈樹さんに教えてもらいました。

「聴く人が音楽でどんなことを解決したいと望んでいるのか、まずは市場調査を行なってテーマを決めます。そして専門家に監修をお願いします。

例えば新譜の『不安解消』ならば、湘南鎌倉総合病院院長の小林修三先生に、音楽と脳科学の観点からアドヴァイスをいただきました」(池田さん)

池田邦人さん
株式会社デラ企画・制作部チーフ・プロデューサー

「『愛情ホルモン』と呼ばれるオキシトシンという脳内物質が増えると、幸福感や自己肯定感が高まるというデータがあります。そこで『不安解消』のために、オキシトシンを増やす音楽を作ろう、と考えるわけです。

過去の検査結果などから、メロディーがしっかりとあり、構造もA-B-Aのようにクリアな音楽は聞く人に感動を与え、オキシトシンを増やす効果があると仮定されます。そのイメージを作曲家に伝え、音楽の形にしてもらいます」(三留さん)

三留丈樹さん
株式会社デラ企画・制作部音楽ディレクター

作曲家の作った音源をリリースして終わり、ではないのがデラのすごいところ。実際に被験者を募り、効果についても調査をするのだそうです。

「作品によってさまざまですが、外部の医療調査機関に依頼して、血液・唾液・尿検査や脳波の測定、学術的な心理テストによって、音楽を聴く前後の数値を確認しています。その結果は公表していますが、創業以来、被験者の7割程度の人に効果が確認できなかった場合は音源を作り直しています。

だからといって、音楽は決して薬ではありませんし、調査・検証を経て制作していますが、芸術には好みがあります。“絶対に効果がある”といった売り方ではありません」(池田さん)

『緊張緩和のための音楽』ブックレット掲載エビデンスの一部
『不安解消のための音楽~オキシトシン活性』ブックレット掲載エビデンスの一部

開放的な「自然音」も自分たちで収録!

デラのアルバムでは、鳥のさえずりや水の流れる音なども、さりげなく音楽とブレンドされています。自然音のみを収録したアルバムもたくさんリリースされているとのこと。

デラの自然音系アルバムをまとめた「ネイチャー・サウンド・ギャラリー」

「自然音は、自分たちで現地に出かけて収録しています。屋久島や奄美大島まで足をのばすこともあります。けっこういいカメラやマイクを揃えて行くんですよ。買ったばかりの私物のカメラを川に落としたことも(苦笑)。

先日は三留くんに山梨県の川の中にどんどん入ってもらって、震えながら長い時間せせらぎを録ってきてもらいました」(池田さん)

「いやいや、清々しくて気持ちよかったですよ」(三留さん)

川にどっぷりと浸かりながら、音を採取する三留さん

「社会的・対外的な関係性の中で、人はいつでも音にさらされ、それがストレスにもなりがちです。でも、です。それに触れることで人も開放感を得られ、心癒されるのではないかと思っています」(池田さん)

できたアルバムのチェックも実は一苦労。

「スタジオで4回は聴いてチェックする必要があるのですが、『究極の眠れる音楽』はなかなか聴き通せない。自分たちも寝ちゃうんですよ(苦笑)。フリスクと缶コーヒーを握りしめてスタジオに向かいます」(池田さん)

みなさん体を張って制作しているんですね。そうして生まれる「心と身体にやさしい音楽」。カタログを眺めながら、自分にぴったりなアルバムを見つけてみてはいかがでしょうか。

取材・文
飯田有抄
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飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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