インタビュー
2024.06.10

橋本阿友子さん×町田樹さん特別対談 フィギュアスケートと音楽著作権の関係を語る! #1

ONTOMOの連載「インターネットと音楽についての法律相談室」「ミュンヘンからの音楽だより」でおなじみの弁護士・橋本阿友子さんと、元フィギュアスケートオリンピック選手でアーティスティックスポーツの著作権研究を行なっている國學院大學准教授の町田樹さん。おふたりに、フィギュアスケートに欠かせない音楽と著作権の関係を中心に、振付の著作権やSNS、AIの問題まで、幅広く語っていただきました。

取材・文
坂口香野
取材・文
坂口香野

ライター・編集者。東京都八王子市在住。早稲田大学第一文学部美術史専修卒、(株)ベネッセコーポレーションを経てフリーに。ダンス関係を中心に執筆。盆踊りからフラメンコまで...

写真:松谷靖之

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表現の世界に直結する「著作権法」の面白さ

橋本 町田さんはさまざまなメディアで、著作権に関する啓蒙活動を行なっていらっしゃいます。そもそも、なぜ著作権に興味を持たれたのですか?

町田 大学の卒論のテーマに選んだのが、フィギュアスケートと音楽著作権の関係でした。フィギュアスケートは音楽を使わなくては成り立たないスポーツですし、「白鳥の湖」や「カルメン」など、バレエやオペラの二次創作のようなプログラムもよくつくられます。

私も恥ずかしながら高校生の頃までは無自覚に音楽を使ってしまっていましたが、あるとき著作権との関係はどうなっているのだろうと興味を持ったんです。調べていくうちに、フィギュアスケート界では音楽の著作権が軽視されていると感じるようになりました。

 

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作曲者の意図を尊重しないような編曲が行なわれていたり、使用した音楽の作曲者名が表示されなかったり。著作物を、意に反して勝手に改変されない権利「同一性保持権」、著作者の意志に沿って氏名を表示する権利「氏名表示権」などが守られていないケースが多く、差し止めや訴訟リスクも大いにあるという、啓発的な内容の卒業論文にしたんです。

また、卒論を進めるうちに、「法学上、『スポーツは著作物ではない』とされてきたけれど、フィギュアスケートの振付も著作物なのではないか」という疑問もわいてきました。大学卒業後は早稲田大学大学院のスポーツ科学研究科に進んだのですが、この研究科では法学は学べなかったので、早大法学部の上野達弘先生の門を叩き、ご指導いただきながら「フィギュアスケートの振付の著作物性」について研究を進めました。

一方、大学卒業と同時に競技者を引退し、その後は研究の一環として自分の作品をアイスショーで披露していたのですが、私の写真が許可なくあちらこちらで使われていまして、肖像権についてご相談にうかがったのが、骨董通り法律事務所の福井健策先生です。ですから、橋本先生には、上野先生と福井先生のおふたりを通じてご縁を感じていたんですよ。

町田 樹(まちだ・たつき)
1990年生まれ、神奈川県川崎市出身。3歳からフィギュアスケートを始める。2014年、ソチ五輪で団体戦と個人戦で5位入賞、翌月の世界選手権では銀メダルを獲得。同年12月に競技者を、18年10月に実演家を引退。現在も研究生活の傍ら、振付家、舞踊家としても活動している。
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程修了後、國學院大學人間開発学部助教、2024年4月より准教授に就任。博士(スポーツ科学)。主著に『アーティスティックスポーツ研究序説――フィギュアスケートを基軸とした創造と享受の文化論』(白水社、2020年)、『若きアスリートへの手紙――〈競技する身体〉の哲学』(山と溪谷社、2022年)、監修を務めた『さあ、氷上芸術の世界へ――フィギュアスケートと音楽』(音楽之友社)などがある。

橋本 そのような経緯があったのですね。上野先生は私にとっても、著作権に興味を持つきっかけをつくってくださった恩師です。

町田 橋本先生はピアニストとしても活動していらっしゃいますよね。

橋本 はい、一時期はプロの演奏家を目指したかったのですが、自分には向かないかなと思い、芸術系ではない普通の大学に進学することにしました。大学受験の段階では、弁護士になりたいといった意思はまったくなく、昔ドイツに住んでいたことがあったので、外国を飛び回るような仕事がしたいと漠然と考え、幅広い職種が選べそうだと思った法学部に入りました。

そうしたら、たまたま学部生時代に法科大学院(ロースクール)ができて、とくにやりたいこともなかったので、新しい制度にのる形で法科大学院に進みまして……。

当初は労働法を選択していたのですが、ある時、著作権法を選択していた友人から誘われ、ためしに著作権法の講義をのぞいてみたら、当時母校で教えていらっしゃった上野先生の授業がとても面白くて。

上野先生は音楽にも造詣が深く、音楽や映画、漫画や小説など、さまざまなジャンルの著作権問題について、表現者の立場をよく理解した上で解説してくださるんですよ。それで著作権法にある種ハマってしまい、司法試験まで1年を切っていたにもかかわらず、労働法から著作権法へと選択科目を選び直しました。

ロースクール卒業後は外資系の法律事務所に就職したのですが、当時はまだ知的財産権が今ほど注目されていなくて、著作権がらみの案件を扱うことはほとんどありませんでした。それで今の骨董通り法律事務所に移ったのですが、志望動機を尋ねられた時の答えはただ「好きだから」(笑)。その気持ちだけで著作権法の世界に飛び込みました。

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