インタビュー
2024.07.22

橋本阿友子さん×町田樹さん特別対談 #3 フィギュアスケートの音楽編曲と著作権

音楽著作権が専門の弁護士・橋本阿友子さんと、元フィギュアスケートオリンピック選手で國學院大學准教授の町田樹さんが、フィギュアスケートに欠かせない音楽と著作権の関係を中心に語り合う特別対談。今回は、フィギュアスケートに特有の編曲の問題や、文化の存続と著作権管理のありかたなどについて語り合っていただきました。

取材・文
坂口香野
取材・文
坂口香野

ライター・編集者。東京都八王子市在住。早稲田大学第一文学部美術史専修卒、(株)ベネッセコーポレーションを経てフリーに。ダンス関係を中心に執筆。盆踊りからフラメンコまで...

写真:松谷靖之

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フィギュアスケートに使われる音楽 編曲の許諾はどうなっている?

町田 フィギュアスケートは、ショートプログラムが約2分40秒、フリーが約4分と時間が決まっているため、ほとんどの場合、使う楽曲を編曲せざるをえません。いかに原曲を尊重した編曲をするかについては、もっと振付師や選手への啓蒙が必要だと思います。

その一方で、どんな編曲にしろ、そもそもフィギュアスケートに自分の楽曲は使ってほしくないという作曲家の方もいらっしゃいますね。でも、選手側が作曲家の意向を判断するのはなかなか難しいのです。フィギュアスケート界としては、このような問題にどのように向き合ったらいいのでしょうか?

橋本 結論から言いますと、その作曲家の方が著作権管理をJASRACなどの団体に一括委託している場合、そこに使用申請を出してお金を払えば、フィギュアスケートにも使用することができます。

トラブルが発生するとすれば、編曲によって「同一性保持権」が侵されたと作曲家ご本人に訴えられるケースでしょうか。JASRACは「編曲権」と「同一性保持権」を管理していないので、JASRACに編曲したいと申請してもJASRACからは許諾を出せません。

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たしかに私も、フィギュアスケートを観ていて「あれ? この編曲って……」と思うことはよくあります。フィギュアスケートのプログラムには時間制限があることは、多くの人が認識しています。このように、皆の共通理解の上に立った改変は著作権法上の改変に当たらないという学説もあります。ですが、時間制限があるだけでは無断で改変を行なっていい理由にならないと考える方が一般的で、作曲家の方の許諾を得る方が安全だろうと思います。

たとえ法的には問題がなくても、SNS上などで「作曲家がいやだといっているのに使用した」という取り上げ方をされて、選手本人が誹謗中傷の的になってしまう、といったトラブルは避けたいですね。著作権管理団体の管理のしかたに、もう少し柔軟性があれば解決できる問題も多いのではないかと思います。

町田 たとえば、作曲家が「この作品はフィギュアスケートなどに使ってもいいですよ」と意思表示できるマークがあれば……。「アーティスティックスポーツラベル」みたいなものを開発したらいいのではないかと考えてみたこともあります。

橋本 それは良いアイデアかもしれません。ドイツに留学したのも、もっときめ細かな著作権管理方法はないのか知りたいと考えたことが理由のひとつです。最近はヨーロッパでもAIによる楽曲の著作権など、従来の法体制では対応しきれない問題が浮上し、議論が重ねられています。

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