インタビュー
2024.10.10
2025年2月、「天からの恵み」を受けた歌声を日本で披露

グレゴリー・クンデ~70歳・驚異のテノールが常に「新しく」なる理由

ロッシーニとヴェルディ、まったく違う声が要求される《オテロ》を両方歌うことのできる驚異のテノールとして知られるグレゴリー・クンデ。70歳という年齢にしてなお、世界の最前線で舞台に立ち続けるこの大スターが2025年2月に東京でオーケストラ伴奏のコンサートを開催する。来日を前に、コンサートのプログラムについて、そしてその驚異的な声の秘密に迫ってみた。

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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長いキャリアでその声を保ってきた秘訣とは?

——クンデさんといえば、ベルカントの歌い手として有名ですが、年齢を重ねるにつれてより重いレパートリーも歌われるようになってきています。テノール歌手の場合、レパートリーが変化していく、ということはよく聞きますが、両方歌うことができるのはなぜなのでしょうか。

クンデ 実は私のキャリアは、《蝶々夫人》や《ラ・ボエーム》などのリリック(抒情的で、比較的軽めの声の青年や王子役など)な作品からスタートしています。その後ロッシーニをはじめとする、より軽いベルカントのレパートリーに移り、今またスピント(リリックより重い)に近いようなものに戻ってきた、という感覚です。自分にとっては使う声が変化しただけで、技術的には最初にアルフレード・クラウス先生から教えられたものをそのまま使っています。

グレゴリー・クンデ

——テノール歌手は常人では考えられない発声で歌うために、その寿命は短いと言われます。クンデさんがいつまでも若々しい声を保ち続けていられる秘訣はどこにあるのでしょうか。

クンデ 正直に申し上げると、それは「天から恵みをいただいた」としか言いようがありません。アスリートと同じで、常に体調に気を配ってはいますが、若い頃から高いCやDを出すのに苦労したことがないんです。

ただひとつだけ言えることがあるとすると、勉強の仕方を変えたことがない、ということでしょうか。クラウス先生は「今の声を変化させる、ということは考えなくていい。声は勝手に成長していくもの」とおっしゃっていました。

実際50歳、60歳になれば、自分の声がどのようなものなのか、ということは理解できるようになります。ですから、勉強の仕方を変える必要はまったくありませんでした。これが、声を保ち続ける秘訣のひとつ、かもしれません。

——なるほど。キャリアの中で声の変化というのはいつ頃意識されたのでしょうか。

クンデ 46、7歳ぐらいまで私は《清教徒》のアルトゥーロという役をよく歌っていましたが、中音域が成長するにつれてだんだん歌いにくくなってきました。そこで初期のヴェルディのレパートリーを移動させていきました。それがうまくいって、現在、ヴェルディの主要な作品をレパートリーとすることができるようになっています。

ルーツであるジャズ・ナンバーも取り入れた日本初のソロ・コンサート

——2月の来日公演でのプログラムには、1950・60年代のジャズやオールディーズの名曲が含まれていますね。

クンデ 私は、トニー・ベネットやフランク・シナトラのナンバーとともに成長してきたんです。若い頃は彼らの真似をして歌ったりしていました。20歳でオペラの勉強を始めてからは少し離れてしまいましたが、キャリアを重ねてきた今、改めてプロの歌手としてコンサートで歌ってみようと思いました。

——10月にはこうしたナンバーを集めたアルバム『Then and Now』もリリースされると伺いました。

クンデ ロンドンで録音したんですが、本当にファンタスティックな時間でした!サクソフォン、トランペット、トロンボーンの金管楽器3人にピアノ、ベース、ドラムの総勢6名の楽器編成だったのですが、まるでビッグバンドのような響きが生まれていて素晴らしい演奏です。

私自身も、オペラ的な歌い方ではなく、ジャズ・シンガーの歌い方を研究して歌っています。配信もされる予定なので、ぜひみなさんコンサートの前に聴いてみてください。

多彩で、心を熱くするプログラム

——来日公演のプログラムにはレオンカヴァッロ《道化師》の有名なカニオのアリア「衣裳をつけろ」も含まれています。

クンデ ヴェリズモの役を歌う時には、感情移入の仕方が変わってきます。Vero =「真実」という言葉が示す通り、この曲にはカニオという男性の持つ感情のすべてが含まれているので、コンサートで歌うのは実はとても難しいのです。有名なメロディが登場しますが、単にメロディを歌っただけではただの「歌曲」になってしまいますから。短い時間に、幸せな関係からそれが悲劇で終わってしまうというドラマを表現しなければならないのです。

——多彩なレパートリーが楽しめる公演になりそうですね。

クンデ 私にとっては心を熱くするプログラムです。日本の皆さんに、ぜひ「新しいクンデ」を聴いていただきたいです。

グレゴリー・クンデ 偉大なキャリアを経ていまが旬
公演情報
グレゴリー・クンデ 偉大なキャリアを経ていまが旬

日時: 2025年2月1日(土) 13:30開演 

会場: サントリーホール 大ホール

 

テノール:グレゴリー・クンデ
指揮:三ツ橋敬子
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:John G.Smith

名曲オペラ・アリア集
ヴェルディ 歌劇 《椿姫》より「彼女から遠く離れて…燃える心を」
ヴェルディ 歌劇 《リゴレット》より「女心の歌」
プッチーニ 歌劇 《マノン・レスコー》より「なんてすばらしい美人」
プッチーニ 歌劇 《トスカ》より「妙なる調和」
レオンカヴァッロ 歌劇 《道化師》より「衣裳をつけろ」
ヴェルディ 歌劇 《イル・トロヴァトーレ》より「ああ、愛しいわが恋人…見よ、恐ろしい炎を」ほか

名曲ジャズ・オールディーズ集
君の瞳に恋してる、バークリー・スクウェアのナイチンゲール、恋に落ちた時、今宵の君は、フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン ほか

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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