電子音も響板が振動して響く! 単なるピアノを越えた新たな楽器“トランスアコースティックピアノ”
2015年に人気バラエティ番組の「ピアノ王No.1決定戦」で優勝して一躍有名になった、アメリカ出身のピアニスト、ジェイコブ・コーラーさん。彼のYouTube チャンネルは、ピアニストとしては驚異的なフォロワー数15万3千人を超え、主宰する音楽教室は生徒数250名。
そんな人の心をグッとつかんで止まないコーラーさんの、演奏家、教育者としての活動への思いや、コーラーさんが心をつかまれたヤマハのトランスアコースティックピアノについてインタビュー!
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
幅広いジャンルの楽曲をアレンジしてYouTubeで発表
ジェイコブ・コーラーさんの人気の理由は、ジャンルの垣根を超えた彼のクールなピアノ・アレンジと演奏にある。クラシック、ジャズ、ロック、ポップス、アニメソング、映画音楽、日本の唱歌などをレパートリーとし、それらのCDや楽譜は、店頭販売はもちろん、ネットを通じて全世界に発信されている。
「10年前に来日した頃は、実はまだピアノ・ソロのためのアレンジは本格的にやっていなかったんです。
僕は子どもの頃にピアノを習い始めてクラシックを弾いていました
ジャズ・バンドに入り、即興演奏を楽しむようになりました。アメリカでは10年ほどさまざまなジャズ・バンドとセッションする活動をしてきたんですが、日本に来てすぐに大手CD販売店とのご縁が生まれ、アレンジ作品のCDをリリースすることになったのです。それがきっかけで、アレンジにどんどん興味が湧き、演奏もするようになりました。
ピアノ愛好家の方たちの中には、レベルの高いアレンジを弾きたいというニーズも意外とあるみたいで、おかげさまで楽譜は結構売れています(笑)」
2019年にリリースしたアルバム「JAZZ PIANO JAPAN」では、「情熱大陸」「赤とんぼ」「Lemon」「名探偵コナンのテーマ」など、日本で親しまれる幅広いジャンルの楽曲をアレンジした。
「日本の曲は、けっこうよく知っているんです。というのも、YouTubeでこんな曲をアレンジしてほしいというリクエストをいただきますし、僕の生徒たちが今流行っている曲を教えてくれるんです」
子どもたちには、ピアノを楽しみながら長く続けてもらいたい
コーラーさんはアーティストであり、同時に教育者でもある。彼がたった一人で始めた蒲田のピアノ教室は、今や講師11名、生徒数250名を抱える大所帯となった。ピアノと同時に英語と即興演奏も学べる教室とあって人気を呼んでいる。
「ライブで演奏しながら、教え方のアイディアが浮かんだりもします。だから僕のなかではアーティストとしての活動と教育活動は分かれているわけではなくて、どちらがメインとは言えないですね。
子どもたちに最初にレッスンするときは即興から入ります。『まずは好きなように弾いてごらん』と、ピアノと遊ぶところから始めるのです。楽しみながら、長くピアノを続けることが大切ですね。基礎は身につけられるように、ベートーヴェンやショパンも教えるけれど、彼らが日常で楽しんで聴いている音楽も取り入れることは大事。
だから、アニメでもロックでもヘヴィメタの曲でも、自分で『やりたいです!』と生徒が持ってきてくれるのは大歓迎。それぞれの子どもに対応していくことが、先生の役割ですね」
電子音も響板から鳴る!?
アレンジ作品のリリースやライブ活動、教育にも熱心なコーラーさんを、今もっとも触発してくれるのは、ヤマハが開発したトランスアコースティックピアノだという。ミュージシャンとして、この楽器の面白さ、そして楽器がもたらしてくれるインスピレーションについて、熱意をもって語ってくれた。
「僕にとってこのピアノは、1台の楽器のなかに3つのピアノが入っているイメージ。一つは、普通のアコースティックのピアノ。もう一つは、いわゆる電子ピアノ。
そしてもう一つは、両者が同時に鳴らせるピアノ。電子音がスピーカーからではなく、楽器の響板から出るので、生音と電子音のアンサンブルがとても自然。アコースティックな広がりのある響きで鳴らせるのです。それが他の楽器では味わえない、斬新なものなのです」
デジタル機能を持ちあわせたアコースティックピアノ——というと、いわゆるハイブリッド型のピアノが思い浮かぶが、トランスアコースティックピアノが大きく違うのは、スピーカーを一切内蔵していないということだ。
響板に付けられた2つの小さな加振器(トランスデューサー)が、鍵盤に付いているセンサーからの電子情報を振動に変えて響板に届ける。響板が振動するので、電子音でも実際にはアコースティックな響きとして感じられるという仕組み。
アコースティックピアノの音と電子音を重ね合わせて演奏するレイヤーモードでは、同じ響板から音が鳴るので、両者が分離せずに、一体となって生み出される。
鍵盤やアクションのつくりはアコースティックピアノそのものなので、繊細なタッチのコントロールにも応えてくれる。
アコースティックの音と電子音を重ねた響きにインスピレーションを得て
「この楽器は、僕に豊かなインスピレーションを与えてくれます。20種類あるデジタルの音色から、生のピアノの音にどんな音を合わせるかで、アレンジの幅が広がります。
僕のお気に入りは、弦楽器やコーラス。弦楽器の音色をピアノに重ねるだけで、オーケストラ的な広がりが出ます。滝廉太郎の『荒城の月』ではコーラスを合わせましたが、とても不思議でシネマティックな響きになりました。日本の古くからある曲を、新しい気持ちで演奏できて楽しいですね」
ピアノにコーラスを合わせた滝廉太郎「荒城の月」ジャズアレンジ
「真ん中のペダル操作ひとつで、生の音に電子音を重ねたり外したりできるので、曲の途中から重ねて、後半は電子音のみにするというアレンジも面白いです。音源には、ヴィンテージのエレクトリック・ピアノの音色もあり、それをスピーカーからではなく、楽器本体から鳴らせるというのも魅力ですね。
スマホやタブレットに入れてある音源をBluetooth経由でこのピアノから鳴らすこともできるので、僕が自分で打ち込んでおいたバッキング演奏音源を流し、ドラムとベースの音を土台にして即興演奏もできます。ジャズの練習に使われる人気アプリがあるのですが、スマホの音はあまりよくありませんから、楽器から鳴らして、一体となった響きで練習できるのも楽しいですよ」
便利なだけでなく、芸術的な可能性を生かしたい
ライブでトランスアコースティックピアノを使用すると、会場は多いに盛り上がるという。
「映画『ミッション・イン・ポッシブル』の曲などは、僕が事前に打ち込んでおいた音源とアンサンブルをやると、ライブがすごく盛り上がるんです。コテコテのクラシックだけでなく、いろいろなジャンルの音楽を楽しみたいお客さまにとっては、ピアノだけの音色で2ステージや2時間のコンサートをやるよりも、刺激的で楽しいライブになるんです。
まだ、具体的にこの楽器についてわかっている人は少ないかもしれないけれど、5年先10年先には、いろんなホールに設置されるくらい一般的なものになってほしいですね。僕の仲間のミュージシャンたちも、この楽器をすごく気に入っています。消音機能など、通常の電子ピアノがもっている現実的に便利な部分は備えているし、なんといっても芸術的な可能性がとても大きい。
インスピレーションを触発してくれる楽器とともに、これからもどんどんライブやコンサートで、素敵な音楽を皆さんに届けていきたいです」
価格: 1,370,000 円(税抜)
2018年にリリースされたトランスアコースティックピアノの第2世代、TA2シリーズでは、グランドピアノで2モデル、アップライトピアノで全10モデルがラインナップされている。
本記事で紹介したのは、ヤマハのアップライトピアノの代表的なモデルYUS3にトランスアコースティック機能がプラスされたもの。
全モデルの詳細はこちら
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