インタビュー
2025.07.11
オーケストラの舞台裏 vol.8

京都市交響楽団首席打楽器奏者・中山航介さん「音楽を突き詰めることにこれからも挑み続ける」

京都市交響楽団で首席打楽器奏者を務める中山航介さん。7月にはティンパニに頭を突っ込む指示が衝撃的なカーゲルに初挑戦! ティンパニ奏者を志した理由や京響への想い、カーゲルへの意気込みを語ってもらいました。

「オーケストラの舞台裏」は、オーケストラで活躍する演奏家たちに、楽器の魅力や演奏への想いを聞く連載です。普段なかなか知ることのできない舞台裏を通じて、演奏家たちのリアルな日常をお届けします。

取材・文
三木鞠花
取材・文
三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

写真:津村晃希

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習い始めたときにプロになると決意

——打楽器との出会いを教えてください。

中山航介さん(以下、中山) 中学校の吹奏楽部です。小さい頃から両親の影響でピアノは習っていました。もともと音楽は好きで、とくにオーケストラが大好きだったので、とりあえず吹奏楽部には入ろうと思い、なんとなく決めたのが打楽器でした。そのまま「あ、これ面白いな」って思って、やっぱりオーケストラに入るならティンパニがいいなと思い、大学に進みました。

——プロになろうと思ったのはどのタイミングでしたか?

中山 中学3年の夏に習い始めたときからです。打楽器ではまず、小太鼓のテクニックが絶対に必要です。基礎になるので、小太鼓のテクニックを身につけるようにしました。

「東京藝大に行きたい」っていうのを決めたときから、オーケストラで働きたいとずっと思い続けていました。

中山 航介(なかやまこうすけ)
東京藝術大学卒業、同大学大学院修士課程修了。読売新人演奏会、神奈川県同声会新人演奏会出演。別府アルゲリッチ音楽祭に参加。2008年パシフィック・ミュージック・フェスティバルに参加。NHK交響楽団アカデミー修了。平成27年度京都市芸術新人賞を受賞。2016年NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」、兵庫県立芸術文化センター主催ワンコインコンサートに出演。現在、京都市交響楽団首席打楽器奏者。京都市立芸術大学非常勤講師。ティンパニスト、パーカッショニスト、ピアノ伴奏者として活動する傍ら、中山夫妻による打楽器デュオ「めをと でゅお」や、ジュビレーヌ・イデアラのライブでコーデリア・ナカヤマとしても活動中。

——ほかの打楽器もやられたうえで、やっぱりティンパニがいいと思われたのですか?

中山 そうです。単純に音が多いですし、やっぱり「オーケストラといえば」というイメージがあって。みんなとたくさん一緒に演奏できるなっていう、勝手なイメージっていうんですかね。なので、自然にティンパニを選びました。

僕の場合は、最初からティンパニに憧れていたというよりも、まずオーケストラを好きになって、指揮者や作品を好きになって……というのが先にあって、オーケストラに入りたい気持ちが高まって結果的にティンパニを選んだという感じです。

——子どもの頃によく聴いていた好きな曲はありますか?

中山 覚えてないんですけど、実家のビデオに、4〜5歳くらいのときに、リストの《レ・プレリュード》を聴きながら走り回っていたものが残っています。

京響の魅力は仲の良さとプロフェッショナリズムの絶妙なバランス

——京響の特徴を教えてください。

中山 初めてエキストラで呼んでいただいたときにまず最初に思ったことですけど、ティンパニの音をよく聴いてくれるなと思います。いろいろなオーケストラとエキストラで共演すると、その楽団のカラーが見えるんですよね。前任のティンパニ奏者がどういう方だったかというのも、けっこう如実に出るんです。

あとは音色ですね。日本ではけっこうスパッと音が出るオーケストラが多いと思うんですけど、京響の音色については沖澤さんが「舞っていた音が立ち上るようだ」と表現されていて、僕もたしかにと思いました。上に抜けていくような音、というんですかね。

——雰囲気はどうですか?

中山 「関西のオケってこういう感じなんだ」って最初に来たときに感じました。皆さんすごく仲が良くて、音楽の話だけじゃなくて、人生の相談とか何でも話せるような人が周りに揃ってて、それはすごくやりやすいです。ただ、単なる仲良し集団じゃない。ちゃんとプロフェッショナルという面があって、そこはバランスがいいんじゃないかと思います。

——オーケストラの中でのティンパニの役割とは?

中山 難しいですね……時代によって役割は変わってきていると思います。作曲家も変わり、楽器も進化してきていますし。古典派よりももっと昔、馬にティンパニをつけて乗っている人が叩いていた時代には、行進の足並みをそろえる信号としての役割がありました。それがそのままオーケストラに反映されているときもあります。あと、締まりますね。オーケストラでも行進で使われていたときも、みんなの気持ちも引き締まるし、演奏も引き締まる。

時代が現代に近づくにつれてオーケストラが大きくなり、ティンパニもより大きな音を出るように、マレットの種類や数もすごく増えてきました。そこから、雷の音や不気味さを出すための弱いトレモロなど、昔には出せなかった音色感が出せるようになった。そういう雰囲気作りの面も大きくなってきたと思います。

あとは和声ですね。もともと2台のティンパニでドミナント*、トニック**を取っていたのが、より「引き締める」役割として機能してるんじゃないかと。皆がワーッとやってる中でティンパニでビシッと決める。それもティンパニの醍醐味ですね。

*ドミナント:属音。主音の完全5度上の音。主音についで重要な音で、主音とともに調を支配する。
**トニック:主音。音階の第1音。音階の基礎となる音。調はこの音名でよばれ、楽曲はこの音で終わることが多い。

本番前は開き直って人と話すと緊張が落ち着く

——本番前は緊張されますか?

中山 はい、僕はめちゃくちゃしますね。いつも戦ってます。シビアにリハーサルをやればやるほど緊張します。手も震えますし、そこでいかにうまくやるか、自分でいろいろ考えてやってます。まだ答えは見つかってないですけど、「お客さんにそう聞こえればいい」っていうのが僕のポリシーの一つでもあるので。自分が意図しているものが伝われば、それさえ守れれば、もう何でもしていいっていうふうに思ってます。

——出番が多いときと、休みが多くて待ち時間が長いとき、どちらのほうが緊張しますか?

中山 細かい話になりますが、たとえば「みんなで一緒に大きな音を出した後に、急に静かになって、自分だけが残るような瞬間」はすごく緊張します。ほかの楽器でも同じだと思うんですけど、とくに「こんなに筋肉を使わせておいて、いきなりソロがくるか!」っていう場面ですね。そういうのは緊張しますね。

——本番の前は何をされていますか?

中山 それも緊張の話に繋がるんですけど、できるだけ人と喋るようにしています。そのほうがわりとマシだということに最近気がついたので。あんまり一人で「こうだ……」って裏でやってるよりは、1回開き直って人と楽しく喋ったほうがメンタルが落ち着くような気がします。あと最近瞑想も始めたので、それも取り入れたりとか、いろいろ試しています。

——本番前にお話しするのはどういうことですか?

中山 演奏会のことも話しますし、全然関係ないことも和気藹々と話しています。

——オーケストラでほかにやってみたかった楽器はありますか?

中山 ホルンです。かっこいいし、いいとこ取りだなと思うんです。伴奏もメロディもオブリガートも。花形の楽器もかっこいいとは思いますが、僕はあまり興味なくて、チェロとかヴィオラとかホルンがいいなと思います。

——ティンパニも花形なイメージです。

中山 どうなんでしょうね。それは人によるのかなって感じもします。もちろん僕は打楽器が目立っててかっこいいと思ったから始めましたけど、やっぱり人によっては、打楽器はふだんはあんまり目立たないと言われることもよくあります。

——団内で仲がいいのはどなたですか?

中山 一人はJuvichanです。よく一緒に演奏……というか、無茶ぶりをされています(笑)。Juvichanが企画するコンサートでピアノを弾いたりもしています。

——Juvichanも “いいパートナー”とおっしゃってました。

中山 うーん、“都合のいいパートナー”ですね(笑)。

あとはファゴットの村中くんは同じ藝大出身で、年が近いのもあって仲良しです。でもみんな仲良いですよ。10年前くらいはカラオケに行ったりごはんに行ったり、大学生みたいなことをしていましたが、最近はさすがにちょっと減りました。

7月にはカーゲルのソリストのあとにマーラー!

——7月の定期演奏会では、カーゲルの「ティンパニとオーケストラのための協奏曲」でソリストを務められます(註:最後にティンパニに頭を突っ込むことで有名になった話題の曲)。これまでコンチェルトはどれくらい経験されましたか?

中山 1回だけ京響の友の会限定のクローズドコンサートで、テーリヒェンの「ティンパニ協奏曲」をさせていただいたことがありますが、今回のようなオフィシャルなコンサートで演奏するのは初めてです。

——意気込みを教えてください。

中山 楽しくできたらなっていうのがいちばんです。とにかく「特殊奏法の嵐」です。CDで聴くよりも目で見て「おおっ」っとなる曲かなと思います。

——初めての奏法が多いですか?

中山 そうですね。怪我しないようにしないと、という箇所がいくつかかあります。

——初めて提案あったときはどんな気持ちでしたか?

中山 びっくりしました。たしかその友の会のイベントのときにトークで「何かやりたい曲はありますか?」と質問されて「カーゲルをやってみたいです」って言ったのを、反映してくださったのかなと思いました。客席からちょっと拍手が起こったので……(笑)。

でもそれよりも、協奏曲のあとにマーラーの「交響曲第5番」を叩かなきゃいけないほうが、しんどいかもしれないですね(笑)。

——コンチェルトのあとに80分!

中山 はい、カーゲルのあとにマラ5を叩くっていうのは、どうなるか想像できないですね。メンタルがきついかもしれないので、練習の仕方を工夫しようかなと思います。100メートル全力疾走して、強制的にその緊張している状態を作って、マーラーを叩く練習をしてみるとか。

とにかく納得のいく演奏といい音楽を突き詰めていきたい

——ご自身の性格を一言で表すと?

中山 あ、調子乗りです(笑)。昔からです。子どもみたいですけど、褒められたら調子に乗りますし、拍手が多かったら調子に乗りますし、逆にちょっとでもネガティブなこと言われるとドーンと落ちるので。これは昔からで、マシにはなりましたが、いまだにそんな感じです。

——今後音楽家としてチャレンジしたいことはありますか?

そうですね……納得のいく演奏を追い求めることが、これまでもずっと挑戦であり続けてきたので、これからもそれを突き詰めていくしかないですね。どんな編成でも、とにかくいい音楽をと思って演奏しています。

——楽器以外の趣味はなんですか?

中山 ホラー映画が好きです。『ミッドサマー』の監督の作品にはまりつつあって、もっといろいろ見てみたいですが、家にホラーが苦手な子どもも妻もいるので、なかなか観る機会がないんですよね(笑)。

あとは料理です。とくに最近はスパイス料理に凝ってます。カレーもですし、アチャール(スパイスを効かせたインドの漬物・ピクルス)も作ります。

——私もアチャールを作ってみたいと思っていたのですが、おすすめはありますか?

中山 最近ヒットしたのは、舞茸です。スパイスチキンカレーなどに合いますよ。カレーをつくるときには、妻が辛いのが苦手なので、自分用と妻子用で別で作ったりするんです。

——スパイスはけっこう揃っているんですか?

中山 はい、家がすごいことになってきています(笑)。クミンなんかは何回買ってもすぐになくなるので、頻繁に買い足しています。

中山さん作のビリヤニ(インドの炊き込みご飯)
出演情報
京都市交響楽団 第702回定期演奏会

日時: 2025年7月18日(金)19:00開演
    2025年7月19日(土)14:30開演(完売)

会場: 京都コンサートホール 大ホール

出演: 高関健(指揮)、中山航介(ティンパニ独奏)

曲目: カーゲル/ティンパニとオーケストラのための協奏曲、マーラー/交響曲 第5番 嬰ハ短調

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取材・文
三木鞠花
取材・文
三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

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