箏奏者LEO「ジャンルを越えて演奏したい音楽を優先して作曲」〜音楽作りの信念を明かす
箏奏者のLEOにインタビュー! 今年リリースされ、話題を呼んでいる『GRID//OFF』の選曲や共演者について、そして作曲方法など音楽作りのことまで、たっぷりとお話をうかがいました。箏でできるかどうかは度外視! というLEOが生み出すのは、どのような音楽なのでしょうか。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
LEOはジャンルレスに活動を展開する箏アーティスト。日本の伝統楽器である箏を自在に用いて、クラシックにジャズ、ポップスにオリジナルと幅広い音楽を奏でている。すでに6枚のアルバムをリリースしているが、特にアルバム『GRID//OFF』はさらに新しい可能性への挑戦が詰まったものになっている。
“箏でできるかどうか”は度外視して“いま表現したい音楽”を形に
——LEOさんはさまざまなアーティストとのコラボレーションをされていますね。箏と洋楽器によるアンサンブルが創り出すサウンドはとても新鮮で魅力的です。
LEO 4枚目のアルバム『In A Landscape』を制作している時期から、コンサートでチェロやヴァイオリンなど、いろいろな楽器奏者の方との共演が増えてきましたね。選曲やアレンジにあたっては、“箏らしさを出したい”とか、“クラシック作品を箏で弾いてみた”だけでは終わらないようにしたいという想いを持っています。西洋的なアプローチを加えることで、箏の新しい魅力をお伝えできるようにしたいなと。その流れから6枚目のアルバム『GRID//OFF』が生まれました。
音楽教師であり箏曲家のカーティス・パターソン氏の指導を受け、のちに箏曲家 沢井一恵氏に師事。16歳でくまもと全国邦楽コンクール史上最年少 最優秀賞・文部科学大臣賞受賞。一躍脚光を浴び、2017年19歳でメジャーデビュー。同年、東京藝術大学に入学。
——『GRID//OFF』は伊藤ハルトシ(チェロ)さん、ロー磨秀(ピアノ)さんとの共演楽曲が収録されていますね。LEOさんのオリジナルから、吉松隆さんに坂本龍一さん、さらにスティーヴ・ライヒにデリック・メイなど……。
LEO 普段、クラシックや邦楽だけでなく、ジャズやラップ、EDMなどあらゆるジャンルの音楽を聴いており、そこから演奏や作曲のインスピレーションを得ています。そのような背景もあって、今回のアルバムは完全に“いま表現したい音楽”を形にしたものになったと思います。“箏でできるかどうか”ということは度外視して、演奏したい音楽を優先して選曲や作曲をしています。
結果として、今までとは違うジャンル、テイストの曲がそろいましたね。エレクトロニックなもの、特に箏とは一見結び付かないグルーヴのある音楽をやりたかったのです。弾けるかどうかはあとで考えればいいなと。
また、今回共演させていただいている伊藤さんやローさんはクラシックにルーツをもちながら幅広い音楽性をもったアーティストです。クラシック奏者ならではの空気感や音楽のまとめ方と、アドリブに自在に対応できる即興性も持っていらっしゃるので、共感する部分が多く、ご一緒していてとても楽しいです。
LEO『GRID//OFF』
——収録曲はすべて箏では通常使わないテクニックや音遣いが満載の内容になっていますが、ご苦労はなかったのでしょうか?
LEO もちろんかなりの挑戦になりましたし、演奏するのはとても大変でした(笑)。でも表現については、あまり苦労はなかったと思います。普段から幅広く音楽に触れていますし、2022年にはブルーノート東京やサマーソニックで演奏する機会をいただいたり、ダンスとのコラボレーションなどもさせていただいたので。これらは大きな経験になりましたね。
作曲は箏に寄りすぎないようピアノと五線譜を用いて
——LEOさんは作曲、アレンジを自在にこなされていますが、どのように学ばれ、作品を生み出していらっしゃるのでしょうか。
LEO 高校生くらいのときから独学で作曲をするようになりました。普通、箏の楽譜は「絃名譜」で書かれていますが、自作曲は五線譜で書いています。創作にあたってはさまざまな音楽からインスピレーションを得ていますが、特に影響を受けているのは坂本龍一さん、吉松隆さんにティグラン・ハマシアンさんといった作曲家ですね。彼らのスタイルからはたくさんのことを学んでいます。
——作曲するときはやはり箏を使うのでしょうか?
LEO 基本的にはピアノで行ないますね。あとで箏を使うこともありますが、箏で弾いてしまうとどうしても自分の手癖や弾きやすいものになってしまいますし、意図しなくても箏のために書かれたような作品になってしまうので、なるべくピアノを弾きながら作るようにしています。
それで、箏ではすごく弾きにくい作品になってしまい、誰も演奏してくれないのです。よく「楽譜が欲しい!」と言われるのですが、いざ渡すと音沙汰がなくなるんですよね(笑)。実際、私の作品では箏では使わないような動きや不自然な跳躍なども出てきます。あとは音のつなげ方やフレーズ感など、細かい工夫もたくさん必要だと思います。
——箏は弦の数に応じていくつか種類がありますが、『GRID//OFF』では何弦の箏を使われたのでしょうか。
LEO 今回は十三絃、十七絃、二十五絃箏の3種類を使っています。また、デリック・メイの「Strings of Life」では1曲の中で3種類を使い分けていますね。基本的には二十五絃箏があれば音域については事足りるのですが、やはりそれぞれの特性がありますし、さまざまな音色が欲しいので、3種類を使い分けるようにしています。
——今後もさまざまなスタイルの音楽、演奏で驚きを与えてくださると思いますが、目標などはございますか?
LEO 今後もピアノやヴァイオリンとの共演はしていきたいですが、チェロとの共演も増やしていきたいですね。これからも幅広いジャンルに取り組みながら箏の魅力を多くの方に届けていきたいです。
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