
MAROさんが語るウルトラセブンの音楽「クラシックの『守破離』から忘れられない音楽へ」

1966年に円谷プロの空想特撮シリーズ第2作として放送開始、爆発的人気を獲得した日本が誇る特撮テレビドラマ『ウルトラマン』。その翌年に同シリーズ第3作として放送され、重厚なSFドラマが後世に絶大な影響を与えた特撮テレビドラマ『ウルトラセブン』。
この名作シリーズの唯一無二の世界観を形作るのに、大きく貢献した劇中の音楽を作曲したのが、前者の宮内國郎(1932~2006)と後者の冬木透(1935~2024)だった。その二人が自らオーケストラ・アレンジを施し、劇中曲を壮大に再構築したのが、キングレコードから1979年にLPで発売され話題を呼んだ『交響詩ウルトラマン/ウルトラセブン』である。オリジナル・アナログテープからリマスタリングされ、SACDハイブリッド盤として25年12月に新たにリリースされた。
日本を代表するヴァイオリニストの一人、NHK交響楽団の顔=コンサートマスターとして長年活躍した篠崎史紀(MARO)さんはウルトラ・シリーズ、とくにウルトラセブンに幼い頃から憧れを抱いていたという。そんなMAROさんに、ウルトラマン、ウルトラセブンとその音楽の魅力について語っていただいた。

北海道出身。早稲田大学を経て、2006年音楽之友社入社。『レコード芸術』『音楽の友』各編集部を経て、現在『音楽の友』編集長。一方でヴィオラ弾きとして、オーケストラから...
将来の夢はウルトラセブンに「なる」ことだった
MARO ウルトラセブンがいなかったら、いまの僕はいないでしょうね。
5歳のときに放送が始まって、テレビにかじりついて観ていました。当時うちにあったテレビは白黒。だから、ウルトラセブンがカラー放送だったと知るのはずっと後の話なんです。
当時、僕が将来なりたいものはウルトラセブンだった。だから布団の上で、あのポーズで空を飛ぶ練習をずっとしていてね……いつまでたっても浮かなかったけれど(笑)。父の眼鏡だって、僕にとってはウルトラアイの代わりだった。
そんなMARO少年はヴァイオリンを練習するときもヒーローと一緒だった。
MARO ウルトラセブンのテーマ曲(ウルトラセブンの歌)がありますよね。あの冒頭を♪ドソー、ミドー、ソミー、ドソー……と弦を変えてずっと弾いていたら、いつのまにかポジション移動の練習になっていました。いっぽうでゴジラのテーマ曲も大好きで、♪ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ、レドシ、レドシ……を永遠と弾いていると、それが結果的にファースト・ポジションの音階練習になった。だから僕はヴァイオリンを習う子供たちが必ずやらされる、いわゆる「基礎練習」をした記憶がないんです。

北九州市出身。愛称 は“まろ”。3歳より両親の手ほどきを受け、1981年ウィーン市立音楽院に入学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサート・デビュー。88年帰国後、群響、読響のコンサートマスターを経て、97年N響のコンサートマスターに就任。以来“N響の顔”として活躍し、2025年3月退団。九州交響楽団ミュージック・アドバイザー、リーデンローズ音楽大使、一般社団法人Music Force理事長
ウルトラセブンとクラシック音楽の深い関係
MAROさんはドラマの放送をオープンリールで録音し、翌週の放送まで1週間ずっと聴いて、その「音」を覚えていったという。
MARO ウルトラマンの音楽はジャズの要素が強いですよね。あの当時流行ったジャズっぽいポップスの音楽もあって、とても楽しい。いっぽうウルトラセブンの劇中曲は完全にクラシック音楽でしたね。自分がヴァイオリンを弾いていたからか、よく知っている音型がたくさん登場する、どこか広がりを感じることができたわけです。
劇中で使われたJ.シュトラウスⅡ世の《皇帝円舞曲》やシューマンの「ピアノ協奏曲」だって、『セブン』の音楽だと中学生になるくらいまでずっと思っていました(笑)。その劇中曲を蒔田先生が書いていた、ということを知るのはさらに後の話ですが。

クラシックの型の中で挑戦を続けた作曲家・冬木透
戦後日本で活躍した作曲家の蒔田尚昊は、映画やテレビの音楽を担当するとき、「冬木透」の名前を用いた。
MARO シンフォニックな音楽が世界観を構築している作品には、とくに魅せられてしまいますね。ゴジラやウルトラセブン、そしてスター・ウォーズ。
ウルトラセブンで蒔田先生が描かれた音楽世界は、クラシックというある意味で制約だらけ、型だらけのなかで、ものすごい試行錯誤がなされて書き上げられた傑作だと思います。ノリや勢いで書かれた音楽ではまったくない。もちろん映像があって、そこに組み合わされたわけですが、クラシックの基本を譲らなかった。そのなかで、音として何を残すことができるのかにこだわられて、さまざまな挑戦をなさっている。
当時の日本の作曲家のかたがた――伊福部昭さんや武満徹さん、黛敏郎さんもそうですが、映画やテレビの音楽もたくさん手がけて、そのなかでいろいろな実験、試行錯誤をなさった。そういった「なにかのための音楽」を、どこか格下に見る時代もありましたよね。でも、その中で忘れ去られずに残っていく音楽は、芸術の域に達していくと思うんです。
クラシック音楽に精通なさっているかたは、ウルトラセブンの音楽にR.シュトラウスやホルストの作品と似た要素を聴きとられるかもしれません。でも、それはけっして「パクリ」という軽薄なものではなくて、深い憧れに感じます。憧れやリスペクトをもって真似る、ということは、それだけ強い愛があるということ。そして、その作品が現在まで愛され続け、一つの音楽作品として独り立ちした。日本の「守破離」の伝統とも合致しますね。
明確な構造とストイックな制約のなかで、すべてが表現されている。蒔田先生の残されたスコアは、そういう意味でも、今回のような交響詩という、音楽のみで聴くかたちにしても見事なクオリティなわけです。

ウルトラセブンが与えてくれた 人生に必要な4つのもの
MAROさんはいまでも、ウルトラセブンとその音に触れると、どこか心身が浄化される感覚があるという。
MARO 人間の記憶はおもしろくて、特定の匂いや音を感じると、一瞬でその時期にタイムスリップできるんですよね。ウルトラセブンの音楽を聴くと、子供の頃のいろいろなことに憧れていた時代を思い出すんです。だからいつまでも5歳児。成長できないので、困ったもんです(笑)。
でも、こうした特撮やSFの世界は、人が成長していく過程でいろいろなことを知っていった、あるいは知りすぎてしまったところから、まるで異なる空想の世界にイメージを飛ばしてくれますよね。それは人間のイマジネーション、未知のものや新しい世界を想像する可能性を大いに刺激してくれる。そこに強く作用するのが映像であり、音楽だと思うんです。
人が前を向いて生きる――そのエネルギーを生み出すには、希望、憧れ、そして好奇心の3つが必要で、とても大事なこと。さらに「人間」として成熟していくために必要なもの、それは哀愁だと思います。僕にとって、それらをすべて与えてくれたのが、幼い頃に観たウルトラセブンの世界、物語、そして音楽なんです。
1963年1月18日吉日。篠崎家に待望の男児が誕生。その名はふみのりくん。
3歳でウルトラセブンと出会い、将来の夢は宇宙人になること。空を飛ぶための練習はかかさず、布団の上で習得するものの、小学生に上がる前に宇宙人になれないことを悟る。
だが、サンタクロースの存在を信じる純粋な少年でもあった。
再び、衝撃的なヒーローに出会う。その名は仮面ライダー。そこは単純なふみのりくん、宇宙人になれなくても改造人間ならとシフトチェンジ。
まずは仮面ライダーの本職であるバイク乗りになろうと、当時、爆発的人気を博した「仮面ライダー自転車」に目を付ける。サンタクロースにお願いの手紙を大量に書き、切手を貼らずにポストに投函し、自転車の到着を今か今かと待つ日々を送る。
良い子にしていたらサンタのおじさんが来てくれることを信じていたふみのり少年、精神面鍛錬を欠かさず行い、善と悪についての基本形をマスターする。
その甲斐もあり、念願の仮面ライダー自転車(補助輪付き)を手に入れ、猛練習を始めると同時に、サンタクロースが持ってきたもう一つの大きな袋。
中には巨大なヴァイオリンとサンタクロースからの手紙が入っていた。「これはヴァイオリンの親分です」とサンタクロースからのメッセージに、負けず嫌いなふみのり少年、その親分を自分の子分にしてやろうとチェロを必死に弾き始める。
その後ピカピカの一年生になり、学校では「防空壕跡事件」「カマキリ孵化事件」「カエル逃亡事件」「壁チョロ逃亡事件」、その他多数の事件の首謀者として注目を浴び、帰りの会で学級委員長の女子から毎度話題に上がる。
スクスク育った少年は、宇宙戦艦ヤマトと銀河鉄道999に出会い、雪とメーテルに心を奪われそうになるが、ゴジラの魅力には勝てず踏みとどまる。
その後、ジェームスボンドとの衝撃的な出会いによって段ボールで黄金の銃の製作に勤しむ。改良に改良を重ね、ついにゴム飛ばし銃の製作に成功。MI6を目指し、007の次の番号である008のライセンスを取るため鉄棒で飛行機飛びをマスターし、またもや注目を浴びる。懲りない少年である。
15 歳でふみのり青年の今後を決める出会いが訪れる。それは、スターウォーズ との運命の出会いである。それまでになかった善悪の主人公の逆転、映像でピアノ線の見えない飛行機に感銘を受け、将来はダースベイダー を目指そうと心に決める。
しかし同時期にヨーロッパに渡り、007で見た風景を実際見たことによって再度007熱が出てしまうところが流されやすいところである。
その後、語学習得のため、当時最先端だったVHSのビデオデッキを購入し、スターウォーズ のビデオを暗譜するまで繰り返し観るという前人未到の荒業をやってのけ、語学ではなくフォースを習得。現在はフォースを次世代へと伝える日々を送っている。
ウルトラシリーズの音楽世界を確立し「ウルトラセブン」の音楽を担当した作曲家・冬木透、そしてウルトラシリーズの音楽起点として「ウルトラマン」の音楽を担当した作曲家・宮内國郎。2024年に逝去し昨年生誕90年を迎えた冬木透と、今年没後20年を迎える宮内國郎の偉業をたたえ、交響詩「ウルトラマン」と交響詩「ウルトラセブン」を完全復刻。
【収録曲】
交響詩「ウルトラマン」(作曲、編曲:宮内國郎)
01. ウルトラマンの歌
02. 科学特捜隊の歌
03. シーボーズのテーマ
04. 科特隊出撃
05. ウルトラマンの敗北
06. 進め!!ウルトラマン
交響詩「ウルトラセブン」(作曲、編曲:冬木透)
07. ウルトラセブンの歌
08. 怪獣出現
09. ウルトラホーク発進
10. 侵略者の魔手
11. さよならウルトラセブン
【演奏】小松一彦 指揮 東京交響楽団
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