松岡充「歌は人のハートに届く超能力」~ロックスターがミュージカルに挑む
上演中のミュージカル『ソーホー・シンダーズ』に出演する松岡充さんにインタビュー! 松岡さんにとって、歌とは?この作品の見どころや、ロックスターからミュージカルに初挑戦したときのお話、そして、これからどのような音楽家を目指したいのか、うかがいました。
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...
2019年に日本初演されたミュージカル『ソーホー・シンダーズ』は、この11月に再演が始まりました
初演に引き続いてジェイムズを演じるのは、ロックバンドSOPHIAのヴォーカルとしてもおなじみの松岡充さん。近年はミュージカルやストレートプレイなど、幅広い舞台作品で活躍されています。
「普通の人たち」がみせる、人生の幸せ
——『ソーホー・シンダーズ』は男性2人の愛を描いた作品ですが、松岡さんの考えるこの作品のみどころは何でしょうか。
松岡 作品の舞台はソーホーにあるオールド・コンプトン・ストリートというところで、いろいろな人種、職業の人たちが世界中から集まって暮らしています。「いろいろな人がいる」ということはとても普通の当たり前のことで、だからこのミュージカルは「普通の人たちの物語」。「普通の人」が普通でありたいと思いながらもどんな葛藤や思いを抱えているのか、そして「普通の幸せ」を手に入れるためにどんな努力をしているのか、を描いています。
そして、あなたも私も、みんな今生きて、幸せになるために頑張ってきたよね、と励まし癒してくれるような作品なんです。コロナ禍で日本中、世界中の人が頑張っている時期に上演することは、とても価値があると思っています。
ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』PV
——初演時とのちがいがあれば教えてください。
松岡 セリフそのものに大きな変わりはありませんが、その言葉の奥にある感情、その言葉にいきつくまでにはどんな想いがあったのか、ということを表現できるようにしたいと考えています。例えば、ロビーとジェイムズのラブラブなシーンがあるんですが、初演のときには「このカップルを応援したい」と観ていただいた方に思ってもらえるような、いってみれば同じ温度感というのを目指していました。
今回は、さらにそれに加えて、このカップルが喜んでいる姿の裏にはどれだけ辛い想いがあって、どれだけの決意をもって秘密裏に逢っているのかということまで表現しようとしています。より深い心の機微を表現しようと全員で目指しているんです。
——ロビーという最愛の人がいながら、女性の婚約者もいるジェイムズという人物は、とても複雑なキャラクターだと思うのですが、松岡さんはジェイムズをどのようにとらえていらっしゃいますか。
松岡 確かにジェイムズは一見複雑にみえるんですが、実はとても純粋な性格だと思います。ふたつの選択肢があったときにどちらかを選ぶことが「正解」だと考えられているこの世の中で、ジェイムズはどっちとも一緒に生きたい、「黒か白か、選挙みたいに選べない」と歌います。「シンダー」というのは「灰」のことですが、灰色、つまり白と黒の中間の色。ジェイムズは、白と黒、善と悪、二律背反するものを両方持ち合わせているのが人間というものなんじゃないのか、ということを表しているんです。
先ほど言いましたが、コンプトン・ストリートには多種多様な人々が集まっていて、それぞれに違った「正解」を糧にして生きています。その様からは、単純にどれが正解でどれが間違っているとはいえない、人の数だけ「真実」があることが感じられます。
『ソーホー・シンダーズ』ライブ・コンサートの音源(2015年)
——まさに、今クローズアップされている「多様性」ですね。
松岡 人間って自分のために生きているのだけれど、それがもしかしたら自分以外の人のためになるかもしれないと思えたとき、人生のキラキラを手に入れることができる。自分以外の人のことを一瞬でも考えることができたとき、人は本当の「成功者」になれるんだと思います。
ミュージカルを通して変わった自分
——私たち世代だと松岡さんといえばまずSOPHIAなんですが、ロックスター松岡充がミュージカルの舞台に立つようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
松岡 最初のきっかけは、演出家の鴻上尚史さんに誘われたことです。2004年の鴻上さん作・演出の音楽劇『リンダリンダ』で初舞台を踏みました。その後、2007年にグレン・ウォルフォード演出の『タイタニック the Musical』に出演することになったんですが、ウォルフォード氏にボロカスに言われまして……(苦笑)。「松岡充はいらないんだ。欲しいのはトーマス・アンドリュース(松岡さんが演じた主人公)なんだから、トーマス・アンドリュースの歌を持ってこい」と言われて、それが僕のグランド・ミュージカルのスタートになりました。
——スター松岡充の全否定ですね……。
松岡 しかもまわりには、劇団四季出身などすごい経歴の持ち主が集まっていて、本当にすごい歌を歌う。これは完全に負けると思って、悔しくて勉強を始めました。
——そういうときに、例えば「俺はこっちの道じゃないな」とミュージカルに出演するのは辞める、という方向もあったと思うんですが、それでも松岡さんをミュージカルに引き留めたものはなんだったんでしょう。
松岡 歌ですね。僕は歌って超能力だと思っているんです。その人をファンにさせる、その人を怒らせる、など感情を動かすには声が最高なんです。それは楽器とは全然違っていて、声は最終的に人のハートにドカンと届けることのできるレーザービームのようなものだと僕は思ってます。
松岡 2013年に活動休止するまで、SOPHIAでは毎年ライブツアーをやっていて、『タイタニック』の出演が決まったのは、全都道府県をめぐるツアーを3回(1999、2000、2002年)やったあと。ものすごい人数のオーディエンスを前に歌い続けていたので、正直言って「東京国際フォーラムのキャパだと余裕で声を響かせられる」って思ってたんです。それが全然通用しなかった。
歌い手として最高の超能力を持っていると自負していたのに、上には上がいると知った。だったらその上を目指すしかないじゃないか、と。それで改めて地道に努力することの大切さを痛感しました。
——そうしたミュージカルでの経験は、ご自身の音楽活動にも影響を与えていますか。
松岡 もちろんです。ミュージカルは歌、芝居、踊りとすべてのエンターテイメントにおいて練り上げられている。一方でバンドマンは「素直にありのままを出すのがロックだ」と思いがちなんですが、それは努力しないことの言い訳に過ぎなかったんじゃないかと気づきました。喉を大切にするためにトレーニングすることもそうだし、体調管理もしっかりとやって、努力と準備によって創り上げたものを客席に届けるのがプロなんですね。もともとライブ後などの打ち上げには参加しないタイプというのもありますが、終演後は速攻ホテルに入って、加湿器5台ぐらい置いて翌朝滴り落ちる湿気で目を覚ましてます(笑)。
音楽家・松岡充のこれから
——ミュージカル以外での音楽活動について、今後何か考えていらっしゃることがあれば教えてください。
松岡 昨今、音楽制作をめぐる状況は激変しています。媒体が変わり、制作にかける予算が減ってしまった。音源データだけを組み合わせて作るような簡単な制作方法が主流になってきていて、そんななかで、アナログだった時代に聴いていた音楽が恋しくて仕方がないんです。イントロを聴いただけで、最初の歌詞を聴いただけで涙が出てきてしまうような音楽、そういう音楽は絶対にデータだけでは創れない。人間が生み出したメロディ、楽器のアンサンブル、そして唯一無二の声でなければ人の心の襞は開けない。今は少なくなってしまったそういう「本物の音楽」を創り続けていれば、聴いてくれる人はいるんじゃないか。僕は人に自分の想いを手渡せるような音楽活動を、ずっと続けていくと思います。
日時: 2021年11月9日(火)
会場: レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
日時: 2021年11月13日(土)~11月14日(日)
会場: 枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール
日時: 2021年11月20日(土)
会場: やまと芸術文化ホール メインホール
日時: 2021年11月25日(木)~12月12日(日)
会場: 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
音楽: ジョージ・スタイルズ
歌詞: アンソニー・ドリュー
脚本: アンソニー・ドリュー & エリオット・デイヴィス
出演: 林翔太、松岡充/東山光明、綿引さやか、西川大貴、豊原江理佳、菜々香、青野紗穂/水夏希、松村雄基
問い合わせ: チケットスペース 03-3234-9999
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