音大で学んだクラシックと好きを究めたディズニーで掴んだ ピアニストへの道
東京音楽大学ピアノ演奏家コースを経て同大学院ピアノ科修了の経歴を持つピアニスト・青木智哉さんは、現在、池袋の「LIFEミュージックスクール」でピアノ講師をする傍ら、積極的に演奏活動を行なっています。彼のレパートリーは、クラシックがメインでありながら大好きなディズニー音楽とのクロスオーバーも聴きどころ。自分の好きなものを生かした活動を実現している青木さんに、お話を伺いました。
*記事は内容の更新を行っている場合もありますが、基本的には上記日付時点での情報となりますのでご注意ください。
「有名曲」を弾かないレッスンが今の自分を作った
——幼少期の音楽環境についてお聞かせください。
青木智哉(以下、青木) 僕の大叔父が音楽の教師をしていて、家に遊びに行くとピアノの手解きをしてくれたことが最初にピアノに触れたきっかけです。その後、個人のピアノ教室を探していたところ、当時、地元に開設されていた音楽教室に入りました。
——そこから本格的にピアノを習い始めたのですか?
青木 小学校2年の時、尚美学園大学で受けた成澤 節先生の特別レッスンの影響が大きかったです。成澤先生は「音を聴く」ということを重視されていて、子どものピアノレッスンでそういうアプローチをしてくれる先生はとても貴重だったと、今だからこそ感じています。
——練習はいかがでしたか?
青木 あまり長時間はしていなくて、基本的にピアノに向かいたい時に練習していました。成澤先生のレッスンは自由さがあり、例えば、誰もが知っているモーツァルトの《トルコ行進曲》などは、あまり課題には出されませんでした。有名な曲を弾きすぎると、早くピアノに飽きてしまうのではないか、というのが先生のスタンスだったのではないかと思います。
——子ども心に有名曲を弾きたい、と思うことはあまりなかったのでしょうか?
青木 あまりなかったです。それもあってか当時はあまりクラシックに「ポップさ」を感じていませんでした。だからポップさのある音楽を求めてよく《だんご三兄弟》など、TVで流れるポップな曲を弾いていましたね。
余談ですが、大学院を出てから初めて《英雄ポロネーズ》や《ラ・カンパネッラ》などに取り組んだんです。そういった背景があって、ディズニーのようなキャッチーな曲をやりたくなったんじゃないかとも思います。
音大受験の1年前に急いで楽典の勉強を始める
——学生時代についても聞かせてください。
青木 中学校の3年間は吹奏楽にのめり込み、トロンボーンに明け暮れていました。セカンドセクションを担当していたこともあり、この経験は楽曲の構造を理解するうえで良い経験になりました。
——その後、高校進学に際しては?
青木 進路を考えるタイミングで成澤先生と話し合い、ピアニストになりたいという気持ちを伝えました。音大の付属高校を選択するかどうか悩みましたが、先生から「一般的な科目の勉強をした上で大学に行った方が、もし最終的にピアノを選択しなかった場合にも、その後の人生の選択肢が広がる」というアドバイスがあり、地元にある高校に進みました。
——音大受験で苦労したことなどがあれば教えてください。
青木 受験の1年くらい前に「楽典」の存在を知り、急いで勉強を始めたことでしょうか(笑)。そこでは色々な年齢の人とグループを組んでソルフェージュに向き合い、大変な刺激を受けましたね。
——東京音楽大学に入学して、どのようなインパクトを受けましたか。
青木 大学に入る前は、周りに弾ける人がほぼいなかったので、「僕はすごいんだ」と思っていましたが、入学したら自分くらいの人は大勢いて、そのうえ即興ができたり、演奏活動をしている人も。自分は何なんだろう?とショックを受けましたね。
——その後、ピアノ演奏家コースに転科されてますね。
青木 はい、大学2年から3年にかけてのタイミングですね。ピアノ演奏家コースでは、20分演奏する試験があったり、協奏曲(2台ピアノ)を試験曲に選択することもできました。当時レッスンを受けていた石井克典先生から、実際に演奏家としてやっていくならそういう力が必要になる、というお話もあり、転科を選択しました。
ディズニーランドのピアニスト・スティーブンさんが「目指す人」
——学生の頃の話は尽きませんが、ディスニー音楽との出会いを教えてください。
青木 僕の母がディズニー好きで、年に1度は家族でディズニーランドにいく家庭でした。小学生の時、「ワールドバザール」でかかっていた「ラグタイム」というジャンルの曲がなんだか楽しくて、僕にとってはラグタイム=ディズニー音楽でした。ディズニーランドは音楽が途切れることなく流れていて、子ども心に、スピーカーから聴こえてくる音楽に囲まれている状態がとても好きでした。
——ディズニーランドで音楽をメインに楽しんでいた……。
青木 はい。ワールドバザールにはカナダ人の現役ピアニスト・スティーブンさんがいるのですが、白い移動式のピアノを奏でていて、ピアノ一つでディズニーランドに来た老若男女を魅了しているんです。僕にとってはその人が最高のエンターテイナーです。
——目指す人でしょうか?
青木 そうですね。スティーブンさんのパフォーマンスは面白くてグルーヴィーで、ノリに対しての食らいつき方が尋常じゃないんです。鍵盤を叩きつけたりもするので、自分が音大で学んできたピアノの奏法とは真逆なことをしているのですが、すごく惹かれていました。
ピアニストになりたくても、その方法が分からなかった
——青木さんにとって、クラシックとポップスの奏法の違いはどういうところにあるのでしょうか?
青木 状況に応じて求められている弾き方が違うと思います。僕はクラシックの弾き方が好きなので、どんな曲にしてもまずはクラシックの弾き方でトライしようとするところがありました。でも、それだとノリが失われることがあります。なので、曲の部分部分で奏法を分けている感じですね。
——ジャンルで分けるというより、曲の中でさらに分けているんですね。
青木 奏法については色々と実験している途中でもあります。自分はクラシックの間口を広げるために存在したいなと思っているので。
——そういった将来の夢を具体的にイメージしたのはいつでしょうか?
青木 大学を出てからです。僕は幼少期から「ピアニストになりたい」という夢を持っていましたが、どうしたらなれるのかはわからないまま進んできました。音大に入ればピアニストになれると思っていたけど、現実は違いましたし。
卒業してからは、クラシックは好きだから弾くけど、コンクールの演目のような曲ばかり弾いてもお客さんは興味がない。そこで前述の《英雄ポロネーズ》や《ラ・カンパネッラ》などのショーピース、そして自分の大好きなディズニー音楽を取り入れてみたんです。
「愛」などのテーマに関連づけて、クラシックとディズニーの楽曲を織り交ぜてコンサートプログラムを組んでみたところ、お客さんもすごく喜んでくれて。
——そこからクラシックとディズニーを絡めたプログラムを作るようになったんですね。
青木 はい。僕は本当にディズニー音楽が好きな一人の人間として、どうやったらプログラムの中で生かせるのか、分析してみたいと思ったんです。
——分析してみていかがですか?
青木 『アラジン』一つとっても、アラビア音楽とジャズが融合している《フレンドライクミー》、そして「ホールニューワールド」のようなポップス、というように、マニアックさだけではなく、初めてトライする人にもわかりやすい多くのレパートリーを提示していると思います。
ディズニー音楽って、各国の文化や音楽をアレンジして、キャッチーなものと混ぜ合わせることで世界観を再構築していると僕は思うんです。初めての人が受け入れやすいように。
僕もコンサートではそういった「わかりやすさ」を重視した、エンターテインメント性の高い内容を表現できるよう取り組んでいます。
好きなことをオタクになるまで追求すれば、それが仕事に繋がっていく
——好きなことを自分のピアノに生かすには、どういうことが重要でしょうか。
青木 やはり、好きなものは追求した方がいいと思います。例えばディズニーが好きと言っても、人によってその程度はまちまちだと思いますが、自分はオタクになった方が良いと思っていますね。その好きなことをどうやって仕事に繋げれば良いかを考えて研究することは、ヒントになるのではないでしょうか。
——好きなことを見極めることが第一歩に。
青木 そうですね。例えば音大に入る時にも、どういう目的で入るのか、ということは早めに考えていた方が良いと、経験上思います。
音大のレッスンで磨かれた人生の「分析力」
——音大時代の学びとそれが社会に出て役に立ったことは?
青木 「レッスン」ですね。レッスンでは作曲家の想いや意図を考えて演奏すること、どう楽譜を読み込むのか、そして歴史などの背景を調べ、作品解釈をすることの大切さを石井先生や故・野島稔先生から学びました。
また、音楽以外の学びもあります。例えば先生に言われたことを直そうと思って準備して臨んでも、努力のしかたを間違えていて、先週よりひどくなっていると言われることは多々ありますが、これは社会に出て仕事をすれば当然起こることなので、常に結果についてなぜかと分析することが重要だと僕は思っています。
——音大のレッスンには色々な分析の要素が詰まっているということですね。
青木 はい。そういった何かを全力で真剣に分析することを、ディズニー音楽でやっている人はいないんじゃないかと思って、僕は、やり始めたのかもしれません。
ディズニー音楽は、クラシックとポップスが融合したものだと考えています。僕のディズニーの演奏を聴いてクラシック好きな人がポップスに興味を持ってくれたり、ポップス好きの人がクラシックに興味を持ってくれるといいな……。そんな想いを持って、これからも演奏をしていきます。
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